其々の偏愛
蓮王の言葉に真夜は苛立つも何も物申さずにいた。
焦りと嫉妬に狂いそうな心情。それはまるで恋をする乙女の姿。
真夜、名を瑞騎真夜
竜臣嵩の婚約者である。それは家同士の誓約。
ふたりの間に愛などは存在していない。
真夜は壱や嵩と同じく数少ない純血魔族の一族のひとり。
嵩には真夜に対して、愛などは存在はしてはいないが、真夜は嵩に執着している。偏愛という物であろうか。
『水鵺は俺の部屋へと連れ行くが、勝手な真似はするな。』
真夜にそう云って、蓮王へ礼をした後に足早にその場を去る。
真夜は俯く。"憎い"の二文字が脳裏に重くのし掛かった。
いつもそうだった。
水鵺は神の一族の純血の君。そして嵩とは同性の筈なのに、明らかに扱いが違うのだ。
真夜は一度も優しく扱われた事が無い。
彼女にとっては彼が唯一無二の存在だった。愛していた。
狂おしい程に真夜は嵩を慕っていたのである。
真夜も蓮王と別れた後に考え事をしつつも、ふたりの事が気になって嵩の部屋の前へと足を運んでいた。
蓮王の力により嵩と手を組むチャンスを得た真夜であったが、素直に喜べずにいた。
心を暗黒の力で満たし、闇の勢力へと堕とすも嵩の心までは手中へと収める事が叶わなかった。
部屋の中の様子が気になる真夜は扉の前で手を翳す。そして目を閉じた。
透視をする為に。