支配されし者
『水鵺。大丈夫か?』
心配そうな表情で尋ねるは壱。
『えぇ。大丈夫です。』
そう云って、暗黒に包まれる空を見上げた。
『竜臣殿にとって水鵺は大切な存在なんだね。』
『見ていれば私達でも判りますわ。』
海紗と庵が水鵺の横隣へと腰をかけた。
『そして水鵺にとっても大変なのよね?』
海紗が水鵺の手を握った。両手で包むように。
『ごめんね。水鵺が悲しい思いをしている時に役に立てなくて本当にごめん…。』
そんな海紗に目を細める水鵺。そして頭を撫でる。
『有り難う、庵に海紗。』
そして音もなく立ち上がる水鵺。その表情は何かを決意したようであった。
『水鵺!?』
悟った壱が気付いた。止めようと手を伸ばす。
『壱、ごめんなさい…。』
彼へと手を翳すは水鵺。壱も反撃に出ようと体勢を瞬時に取った。
悠と莉咲も壱へ加勢しようと近付く。
『水鵺、どうしたっていうんだよ!?』
悠が叫んだ。
『私の邪魔をしないで貰いたい。』
返答は一言のみ。刹那、壱以外の者はその場に崩れ落ちる。
『壱…。後は頼みます。』
そう云って、空へと舞い上がり姿を消す。
『君も……やはり…。』
水鵺が去った後の森は静寂のみが辺りを支配していた。