決別
『水鵺…‼』
ひとりでふらふらと魔法陣の外へと歩む。壱が叫ぶも声だけが虚しく響いた。
『大丈夫です。壱…。私はこの者に殺されたりは致しません。』
手を空へとかざす。
『我が聖なる化身よ、我等が王とそれに連なる仲間を護りたまえ。』
白銀色へと身体が光り輝く。
『そのように無防備で愚かですわよ!』
高笑いをし、水鵺へと影を使役し攻撃を仕掛ける。
『水鵺‼』
今度は嵩が大声で叫ぶ。
『嵩は私を信用しておりませんね?』
そう云うと仮面の女を聖の力で消し飛ばした。一瞬で。
女は何も云う間も無く、魔法により消滅した。
『消えた?』
海紗が不思議そうに呟く。それは庵も同様。
『仮面の女の気配もないな。』
駿が辺りを見回すが静寂なままである。
『大丈夫か確めますよ。』
嶺も気配を読む。
嵩は魔法陣の外に出て、水鵺の腕を掴む。その様子に慌てる水鵺。嵩は睨み付けるような眼差しを向けた。
『勝手な事をするな。』
『何故、し…か……』
云いかけるも嵩によって遮断された。
『心配するだろう!何故に理解しない!?どれだけ心配をさせれば気が済むのだ。』
そう云われ黙り込む水鵺。下をうつ向く。
ざわざわを木々が突然、揺れだし始める。ピキリと空気が凍ったように冷たくなった。
『危ない。水鵺。』
その瞬間、何故だか嵩は見えた。無数の黒い影が水鵺に向かっている事を。そして嵩は瞬時に水鵺を強く、強く腕に抱く。黒い影から護る為に。
ドスン、と響く音と共にふたりは地面へと倒れた。
庵達はその場から動けずにいた。
『嵩…。』
水鵺は起き上がり嵩に声をかける。
『水、…鵺…。』
途切れながらも嵩は返事をする。その様子に安心するのも束の間。水鵺は直ぐに察知してしまった。
『大丈夫か?』
優しく微笑む彼。手を伸ばし頬へと触れる指先。
『嵩…。』
珍しくその赤紫色の瞳から流れ落ちるは一筋の涙。
嵩の指先は氷のように冷たい。
『水鵺。判っているんだな。』
『えぇ、貴方の事ですから。ごめんなさい…。』
『大丈夫だ。だから…』
すると互いに地面を蹴って上空へと舞い上がった。
『判っていますよ。』
水鵺が哀しそうに微笑みながら、地面へと降り立つ。そしてぼそりと呟いた。
『水鵺、君の命を次会った時は容赦なく頂戴する。覚悟をしておくと良い。』
そんな水鵺を冷ややかな眼差しで云うは嵩。
そしてその場から姿を消した。