四句「新月や 命の重さ 手に残る」
……やっぱり来たか。そういうやつ。
町の外であんな化け物が跋扈してるんだから、まぁあるだろう。
「その冒険者ギルドとやらが俺には合うと?」
「はい。私には測りきれませんが……角兎を三匹、あの速さで仕留めるとなると、並の腕ではありません」
「随分と褒めてくれるな」
「おそらくは――スキルをお持ちかと」
「スキル?」
「個々人の技術が一定以上に達すると、形として現れるものです。ギルドで確認できます」
ケルビンは一度、自分を指してみせる。
「例えば私であれば、交渉術が表示されます」
「それが俺にも出ると?」
「はい、おそらく戦闘系のスキルが表示されるかと」
スキル……三十年杖振ってて何も出なかったら笑えるな。
「冒険者ギルド、楽しみになってきた。早速だが案内を頼めるか?」
「もちろんです。が、その前にお召し物を変えましょう。渡人を隠すのであれば少々目立ちます。」
服の準備かケルビンが席を外す。
冒険者……ケルビンは高く評価してくれているが、道場稽古しかしたことのない人間が、どれだけ戦えるのやら。
角兎程度なら問題ない。だが……そんなものばかりとは限らない。
……いや。
なんで俺は、生き物を殺すことに抵抗がないんだ?
魚ですら、自分で殺したことはない。
最初はいい。転移直後で、まともな精神状態じゃなかった。
だが次はどうだ。
自分の意思で、命あるものを――過不足なく殺した。
……おかしい。
そんなこと、転移前の俺にはできなかったはずだ。
思考を打ち切るように、扉がノックされた。
「お待たせいたしました。準備が出来ました」
「あぁ、すぐ向かう」
疑念を押し込むように立ち上がり、ケルビンと部屋を出る。
用意された服に着替え、身なりを整える。
――さて。
冒険者ギルドへ向かう。
――sideとある冒険者――
その日は朝からついてなかった。依頼に失敗してヤケ酒で二日酔いだった。頭痛の中、日銭を稼ぐため昼過ぎにギルドへ向かう。
「この時間じゃ割の良いのがあるわきゃねえな」
文句を言いながらも依頼ボードで酒代を探す。
ふと入口から見覚えのある男が入ってきた。
「ケルビン商会の会頭?なんでこんな所に?」
番頭なら依頼をしによく見かけるが……
疑問に思って見ていると、登録受付に進んでいった。
「お世話になっております。ケルビン商会のケルビンでございます」
「ケルビンさん、いつもお世話になっております。ですがこちらは依頼カウンターではございませんよ?」
受付嬢は依頼カウンターを指しながら応える。
「いえいえ、本日はこちらの方の登録をお願いしに参りました」
そう言うと後ろから長い棒を背負った男が急に出てきた。
「秋水という。登録を頼みたい」
……!?今までどこにいやがった?
「っ!秋水様ですね。畏まりました。それでは登録に進ませていただきます」
受付嬢も驚いたのか、一瞬表情が強張る。しかしすぐに笑顔を貼り付け対応に戻る。
二日酔いのさなか驚かされたことにむかつき、声をかける。
「おいあんた、商人の陰に隠れて冒険者が出来るわけないだろ。しかもそんな棒きれで。遊びじゃねぇんだぞ!」
声をかけながら、改めて男を値踏みしてやる。
ヒョロりと細身で、背も高くねぇ。背負ってるのは得物じゃなくて、ただの木の棒一本だ。しかも、そこらの隠居じじいと言っても通るくらいの歳じゃねぇか。
「てめぇみたいなヤツが冒険者なんかやったら格が下が……」
肩を掴もうと手を伸ばした所で意識が途切れる。
後で周りに聞いても、誰も何が起きたか分からなかったらしい。
何だったんだ……
――side秋水――
「ウーモさん!?」
倒れた男に駆け寄る受付嬢。ウーモというのか。しかし受付嬢の足運び……
小声でケルビンが聞いてくる。
「何かされたので?」
「さてな」
ウーモの介抱をしながら答える。
目立たないようにと気配を消して来たが、急に気配出して話せば逆に目立つか。失敗失敗。
『新月』
乱止流四の型新月。気配を消す為の型。
しかし酒臭いなこいつ。こんなんで喧嘩売ってきやがって……
「……酒が抜けてなかったんだろ」
「みたいですね。ウーモさんにも困ったモノです」
介抱に加わった他の職員に預け、登録に戻る。
「改めまして、冒険者ギルド、アトリー支部へようこそ!失礼ですがどこかで登録されたことは?」
「無いな。全くの初めてだ。山育ちでな、この歳で初回登録というやつだ」
見るからに中年の俺を訝しんだのだろう。正常な判断と言える。
「それでは冒険者ギルドの説明をさせていただきます。
ギルドは、依頼の仲介、魔物の討伐、素材の買取などを取り仕切る組織です。
ランクは1〜10まであり、1が最高位、10が最も下となります。
基本的には10から始まりますが、この後に行うスキル測定で戦闘系スキルが表示された場合ランク8からのスタートになります。
なお正式なギルドカードが発行されるのはここからとなります。ランク9と10は見習いですね。
また希望があれば試験官と模擬戦を行い、試験官が認めれば最高ランク6からスタートすることも可能です。……とはいえ、例は多くありませんが。
なお、初回登録には銀貨5枚を頂戴しておりますが、よろしいでしょうか?」
「構わない。ランクはそうだな、この歳で下積みからはちょっと……運良くスキルが出るようなら模擬戦も頼むとしよう」
「畏まりました。それではスキル測定に移りましょう」
測定機が有るであろう部屋に移動する。部屋の奥には光の玉とガラスの板がある。
「こちらがスキル測定機となります。光の玉に手をかざして頂くと、数秒でガラスの板にスキルが表示されます。初回は登録料に含まれますが、次回から大銀貨1枚かかりますのでご注意下さい」
そう言いながら測定機に手をかざす受付嬢。
板には『短剣術』の文字。
「中々やるんだな嬢ちゃん」
「女の独り身、何かと物騒ですので。それでは手をかざしてください」
「そんじゃ失礼して」
手をかざすと板には『棒術』が表示される。
「本当にその棒で戦われるのですね。ですが……
おめでとうございます。最低8からのスタートとなります。」
「棒じゃなくて杖なんだがな。まぁいい。模擬戦はいつからやるんだ?」
「本日は時間も時間ですので、明日以降となります。
秋水様のご都合はいかがでしょう?」
「生憎と暇人でな。早ければ早いほど良い」
「でしたら明朝10時に登録受付までいらして下さい」
「そしたら今日はこれで?」
「終わりとなります。お疲れ様でした」
「ありがとさん。また明日」
さて時間はあることだし、ケルビンに聞いて冒険者に必要なもんでも買いに行くか。
……思ったより、悪くない一日だったな。
スキル登場
スキルレベルとかはありません




