幸せになって下さい。
切ないハッピーエンドが見たくて、勢いで書きました。
所々、設定が抜けていてよく分からなくなっているかもしれません!
誤字脱字報告歓迎です!
どうか…どうか…来世では…幸せになって、
――その役目は私じゃなくていいから
***
初めてギルバートに会ったのは12歳の時だった。
「今日から姫様に仕えます。ギルバートと申します。平民ですので性はありません。」
そう言った彼は膝をつき騎士の礼をした。
「顔をあげなさい。ギルバート、よろしく頼みます。」
顔を上げるように促す。彼が顔を上げ、柔らかく笑った。彼の吸い込まれるような瞳が私を捉えた瞬間、私はその碧い瞳に心を奪われてしまった。
そんな、どこにでもある、なんてことない出会いだった。
彼女の住むエルドア王国は鉱山資源が豊富な国だった。しかしここ最近は鉱山資源が枯渇し始め、主要な収入源として鉱山資源を頼っていたこの国は今や衰退の一途を辿っていた。周辺の国の動きも怪しくなってきている。その国の代五王女、リリアナ・ド・エルドアはこの混沌の時代に生まれた。
兄妹も多くお妃間の争いも多いため巻き込まれないようリリアナはひっそりと暮らしていた。母親は子爵家の出ですでに儚くなっている。
リリアナは離れにある小さい離宮で一人の侍女と一人の庭師と慎ましく過ごしていた。この離れは王宮にあちこち同じようなところがある。その一つを国王から与えられた。お前は邪魔だから見えないところで静かにしてろという魂胆だろう。リリアナもその方が都合がよかった。
そんなリリアナにある日突然、護衛がついたのだ。
それは、リリアナに利用価値が生まれた何よりの証拠だった。
このような王女に護衛がつく理由としては、結婚して他国と同盟を組むためか、戦争が起こる前兆か。はたまたそのどちらもか。
リリアナは母が亡くなり六歳の頃にこの離れにきた。リリアナはとても聡い子だった。母が死んだ理由も自分がここにきた理由も何となく察していた。
付いてきた侍女は母に仕えていた六十代の女性と離れの専属の庭師。たった二人。侍女は昔、母に助けられその恩を私で返そうとしているのだ。庭師は死んだ孫と私を重ねているのだろう。それでも正直ありがたかった。この侍女と庭師だけは私から居なくならない。
離れでの生活は大変だったが充実していた。新しいドレスもアクセサリーも買う余裕はなかったが母が残したドレスを着てアクセサリーを売る。容姿だけは綺麗にするように国王からの命令で資金を渡されていたため、王女の務めとして髪の毛や肌の手入れだけは必要最低限しておいた。庭師と侍女と一緒に野菜を育て蓄え一年を過ごす。暇な時には離れにある図書館で読書をして礼儀作法や知識を身に付ける。
いつ殺されるかわからない王宮と比べれば自分は十分贅沢な生活してをしている方だった。このままどこかの国に嫁ぐ道具として生きていこうとそう心に決めて過ごしていた。
***
「ギルバート、こちらに来て、案内するわ」
早速、新しく来た騎士を案内する。
「恐れ入ります、姫様」
廊下を歩いて狭い離宮を案内する、離宮と言っても民間の家に比べればとても広い。
「ギルバートはこの部屋を使って」
案内したのはリリアナの隣の部屋だった。
「姫様、この部屋は姫様の隣の部屋と見受けられるのですが?」
「そうよ。何か問題でも?」
「普通は主と同じ階しかも隣の部屋など、一介の騎士には与えられるはずのない部屋です。」
ギルバートが僅かに顔を顰める。
「そうなの?でもここでは騎士はあなた一人だけだし近くにいてくれた方がいいわ。庭師も侍女も私の部屋の隣だからここでは当たり前よ。気にしないで。」
「承知しました。」
次々と離宮を案内する。
「最後にここは私たちの畑だからあなたも手伝ってね。ここでは食事は与えられないし食料はこれだけだから。」
「……」
急にギルバートの動きが止まってしまった。チラリと横を見る。
「どうしたの?やっぱりこれじゃ足りないかしら?」
「姫様、今まで野菜だけで過ごしてきたのですか?しかもこの畑だけの?」
「そうよ、何か問題でも?あなたが来たからもう少し畑の面積を増やせると思うのだけど、」
彼は息を吸って吐いた。
「姫様、無礼を承知の上で申します。あなたは痩せすぎている。」
ギルバートが私に目線を合わせ、目を見つめて言った。
「そうなの?それじゃ侍女や庭師も同じ食事だから彼らも痩せてしまったのかしら?そこまで配慮していなかったわ。そうね、国王から少しの資金は送られてくるのだけどそれを使ったが良かったかしら?お母様のアクセサリーは畑の種を買うのに使うし、侍女も庭師も今まで苦労して私を育ててくれたのに、もっと気を使えばよかったわね。」
「姫様…私はあなたの心配をしているのです…」
彼が絶句している。
「私の?そうね、痩せすぎていると嫁ぐときに支障が出てしまうかも、まだアクセサリーの予備はあるから侍女に肉を買ってきてもらいましょうか。あなたも来たことだしね。騎士はたくさん食べないといけないのでしょう?」
ギルバートが驚いたような、疑っているような目で私を見ている。口を閉じてそれ以上は何も言わなかった。
私は一通り説明を終えて東屋で一日のスケジュールを話した。
「私は基本、図書館で本を読んでいるわ。あなたは護衛をするとしても私を暗殺するには暗殺者を雇う方が高くつくと思うし、あなたには主に畑の増設と侍女の買い出しに付き合って欲しいわ。」
「分かりました。私は一通り家事ができますのでお手伝いできることがあるでしょう。」
胸に手を当て、人のいい笑みで話すギルバートを見る。
彼は精悍な顔をしている。黒い髪は短く切られ、少し雑だが男らしい。無表情だと少し怖く見える顔でも笑うと幼く見えて可愛い。
「ありがとう、ギルバート。」
ギルバートが一瞬だけ戸惑いの顔を浮かべたがすぐに元の笑みに戻った。
それからの日々は朗らかで充実していた。ギルバートが来たのは十ニ歳の春。それからは庭師と侍女とギルバートと自分で畑を耕し、野菜を育てる。ギルバートが作る食事は優しい味がして美味しかった。毎日一緒に食事をして畑を耕して、庭師は庭を、侍女とギルバートは買い出しを私は本をそれぞれの時間を過ごした。
特別、冬は雪だるまを作って遊んだ。
こんな生活をしているがリリアナは世間一般に言う箱入り娘だ。
ギルバートに惹かれるのは時間の問題だった。
普段、自分の前では礼儀正しい態度と言動でも、これだけいつも一緒にいたらその口調が砕けることもあるだろう。普段は私というのにたまに出る俺という一人称。畑で珍しい虫が出たときに驚いた表情。みんなでご飯を食べいるときの故郷の両親の話。その話をするときの優しい声。侍女や庭師に対する気遣い。私を見たときの優しい笑顔。好きにならないわけがなかった。
こんな生活がずっと続けばいい。叶わない願いをしてしまうくらいには今までにない充実した生活だった。
時間はあっという間に過ぎるもので早四年リリアナは十六歳になった。
知っていた。わかっていた。でも心の中で見ないふりをしていた。
ギルバートという護衛が来た理由を聡い自分が知らないわけがなかった。
***
「リリアナ・ド・エルドア様あなたは明後日、アルカディオ帝国の国王に嫁いでいただきます。」
いつも通りの日常だった。食事を摂り各々いつも通り過ごしていた。そんなときに王宮の騎士団がこの離宮に訪ねてきたのだ。その中にはギルバートもいた。ギルバートは国王からの命令を言い渡した騎士のすぐ後ろに立っていた。きっと地位の高い騎士なのだろう。
「承りました。と国王に伝えてください。」
王女らしい笑みをしたつもりだ。
「この国のための賢明な判断痛み入ります。」
騎士たちが一斉に頭を下げる。
「顔を上げてください。王女としての務めを果たすまでです。私は今まで国民のために何もしてこなかった。この国が今どうなっているか一介の王族として知っているつもりです。近いうちに戦争が起こるのでしょう。私が嫁いでもどうせ戦争は止められない。あなた方もわかっているはず。私はあなた方の国民の幸福を祈っています。」
騎士たちの顔を見る。無表情の物もいれば王族という立場というだけで恨みのこもった眼差しをした騎士もいる。
「…失礼します。」
騎士団長が一言告げ、一斉に騎士団が去っていく。ギルバートもだ。
一度もこっちを見てくれないのね。
いつからこんな乙女の思考になってしまったのかしら。
明後日か。侍女と庭師に今までの感謝を伝えてよう。ギルバートと話したいわ。少しでもいいから。
ねぇ、ギルバート、あなたは私に話すことはないの…
――――ギルバート視点
「リリアナ・ド・エルドア様に仕えたいものはいるか?」
騎士団長が騎士一同を鍛錬場に集め、国王からの命令を伝えた。
「王族だろ?あんな奴らの護衛なんてやってられるか!」「そうだよな、国民から高い税を巻き上げ、自分らは贅沢三昧。いいご身分だよな!」「しかも今は若い男どもを強制的に集めて戦争のための道具にしているらしいぞ!」「貴族たちも腐ってるよな。やりたい放題だ。この国はもうすぐ終わるだろうな。」
ギルバートはまあそんな反応になるだろうなと心の中
で思った。この国はもう長くない。永らえさせてはいけない。各地でデモが起きている。貴族らはそのデモを止めていることに夢中でなぜそのようなことが起きているのか本当の意味を理解していない。
かくいうギルバートも平民出身である。騎士になったのは母親と父親が病に倒れてしまい途方にくれていたところに貴族に助けてもらったのだ。そのとき騎士になればお金がたくさん入ると教えてもらったのだ。奇跡的にギルバートには騎士の才能があったようですぐに副団長の地位についた。僅か6年の訓練で18歳の少年が副団長に就いたことは前代未聞であったが実力があったため、文句を言う輩も次第に減っていった。
「リリアナ様に仕えたい奴はいないのか?まぁしょうがないよな。王族の癇癪に耐えるのも楽ではないし。いつ暗殺されるかわかったものじゃない。だが国王命令だ。大事な政治の駒だそうだ。今死んでしまっては困ってしまうらしい。他の王族たちと違ってこの王女は静かで大人しいらしいぞ。」
国王に仕える騎士団長がそのような態度でいいのか気になってしまい少し笑ってしまった。
「お!ギルバートそうか、そうか、そんなにやりたいか、任せるぞ!」
笑ってしまったのがいけなかったのか。そろそろ他の騎士からの文句の対応にも困っていたので丁度いいと踏んでくれたのだろう。静かかはわからないが12歳の少女だ。王族には多少の恨みがある。母親と父親の病をすぐに治せなかったのもこの国の政治が悪く民間に薬が出回るのが遅いことと、貴族たちがこぞって薬を囲うためだ。
一人の貴族に助けられたのは本当に運が良かったとしか言えない。
世間知らずでわがままな王族の相手ができるのかは不安であるがその王女が嫁ぐまでの辛抱だ。
そんな心づもりであったせいか実際の王女は想像と全く違い混乱した。
贅沢は望まず。自分のことは自分でやる。自分の存在価値をよくわかっている振る舞い。侍女と庭師への配慮。全てが想像と違っていた。
何より自分を大切に出来ない人だった。庭で手を切っていてもそのまま仕事を続け、自分の食事より侍女や庭師、ギルバートへの食事を増やす。たくさん食べろと何度言っても食べないため、嫁ぐときのためだと言ったらすぐに納得した。家事も高齢である侍女と庭師には押し付けず一人でやる。高い所に登って落ちたこともある。それに気づき助けた時の第一声は邪魔をしてごめんなさい。そんな王女をどうやって嫌いになれるだろうか。そんなこんなで約一年の月日が経った。
ある深夜、リリアナが寝ている頃にギルバートは侍女、マリーの部屋に訪れた。
「あの、マリーさん。質問よろしいですか。」
「ええ、ギルバート様どうぞなんでも伺ってください。聞かれる内容はある程度予想つきますが。」
「ありがとうございます。リリアナ様のことです。他の王族の方とは随分違うように見えます。」
マリーは小さく微笑む。
そこからは侍女マリーの昔話が始まった。
彼女はリリアナ様のお母様に仕えていた。ある日、国王から愛妾に選ばれ借金をしていたミレイナ様の家はミレイナ様を王宮に送るしかなかった。ミレイナ様の心の支えになるよう無理言ってこの王宮に着いて行き、それから程なくしてリリアナ様が生まれた。リリアナ様は、生まれた時から聡い子であまり泣くことがなく、泣かないと言うより泣くのを我慢していた。いつの間にか今のように常に無表情になってしまった。ミレイナ様が生きていた頃は笑うこともあった。ミレイナ様は国民を大切にしていた。王宮にやってきてから紛争地域に支援物資を届けにいったり、薬が足りない民間の方々に薬を届けに行っていた。
ギルバートは胸に焦燥感が走った。
「ギルバート様、これはただの侍女の独り言です。烏滸がましいかもしれませが私はリリアナ様を孫同然のように思っております。それは庭師のロベルトも同じです。リリアナ様は自分を大切にしません。自分をただの道具のように見ているのです。私はリリアナ様に幸せになってほしい。あんなに優しい方が自分を大切にしないことが私どもは悲しい。でも、ギルバート様がきてからリリアナ様も変わってきました。あなたがきて約一年流れました。最初に貴方がリリアナ様に話しかけてくださったからリリアナ様のお顔にささやかですが笑顔が戻ってきました。どんな花が好きだとか何が食べたいとか故郷の話とかそんな簡単なことで良かったんです。私は、リリアナ様が思い出して辛くならないように極力ミレイナ様の話を避けていました。それからどんな話をすればいいかわからなかったのです。ずっと一緒にいたのに何を話せばいいか…親が話しかけなければ子供は遠慮してしまうとわかっていたはずなのに………ギルバート様には感謝しております。私は、リリアナ様の笑顔を見ることができて本当に嬉しく思っています。」
マリーはハンカチを取り出し目を覆っていた。ずっと気掛かりだったのだろう。マリーは自分のせいでリリアナの笑顔がなくなってしまったのだと責任を感じていたのだ。
―コン、コン、
ノックの音が聞こえた。
(リリアナ様に聞かれたのか!?)
扉に向かいそっと戸を開けると庭師のロベルトがいた。
「盗み聞きをしているみたいなので悪いと思ったのです。私からもいいでしょうか?」
マリーの横に腰をかけロベルトが話す。
「私は元々他の貴族の庭師だったのです。ある日、孫が伝染病にかかり薬があれば助かるのですが貴族の方が庭師ごときの平民に薬を渡すことはありえませんでした。私は孫を助けるために薬があると踏んだ紛争地域に孫を抱えて行きました。そこに運良くミレイナ様がいたのです。小さいリリアナ様を背負って、薬も馬車も危険とわかっていながら国王陛下に頼み込んだのでしょう。ミレイナ様は孫を助けるように尽力しましたがすでに手遅れの状態でした。絶望の中、ミレイナ様は私に王宮の庭師になるよう言いました。そして、リリアナ様を守ってほしいとも、ミレイナ様は自分の死期が近いのを悟っておられました。ミレイナ様もその時にはすでに手遅れでした。幸いリリアナ様は無事で、私はこの離宮にやってきました…リリアナ様は私達の大切な孫同然です。私どもが命に変えても守りたいミレイナ様から託された存在なのです。ここまでが私達が伝えることができるリリアナ様のことでしょう。」
そう言うロベルトは穏やかな表情をしていた。
その日はそのまま解散した。
―ッフ…グス…グス
隣の部屋から泣き声を抑えたようなか細い声が聞こえたのはしばらくしてからだった。
「リリアナ様、入ってもよろしいですか?」
「…」
「リリアナ様、私、貴方とお話がしたいです。」
「……いいわ」
ドアを開けるとベットにくるまっている小さい体が見えた。
ベットのそばに行き脇の椅子に座る。
「リリアナ様、先程の話はどこまで聞かれていたのですか?」
「……全部。」
「そうですか。」
「…」
「…」
リリアナが口を開く。
「…初めはどんな悪口を話すのだろうと思ったの。私は王族で愛想が無くて迷惑をかけてばっかりだから…」
ギルバートが優しい声で話す。
「どうでした、マリーさんやロベルトさんのお話は?」
「私、お母様のこと知らなかったの、マリーやロベルトだって、早くこんなところから出て行きたいと思ってるだろうと思ってたし。私、王族の自分の役目よく知ってるし。今、国民が王族をどう思ってるかとか周りの国がどんな動きしているかわかっているし。こんな、こんな思われていたなんて聞いたら、今までなんでもっと話さなかったんだろうとか、名前を呼ぶこととか出来たのに、感謝も伝えてなかった!!」
彼女は大人しく泣き叫ぶ。
普段無表情で大人っぽい表情をしているが、まだ13年しか生きたことがないのだ。なんでも完璧にこなせるわけがない。子供のような泣き方をしている主の頭をそっと撫でる。無礼ではあるがこれくらいは許されるだろう。背中を向けて大人しく撫でられている少女に話かける。
「リリアナ様、私は昔、子供を背負った貴族の女性に両親を助けてもらいました。顔を見せてください。」
いつもより優しい声で問いかける。
「やだ…」
「何故ですか?」
「恥ずかしい…」
「大丈夫ですよ。私しかおりませんから。」
リリアナがこちらを向くのを待つ。
リリアナの瞳が自分の瞳を捉えた。
そうだった。あの時の女性も全く同じ色をしていたじゃないか。
「…リリアナ様、あの時の子供はあなただったのですね。ミレイナ様にお礼を言わなくては。相変わらず可愛い。」
笑いながら頭を撫でていたその頭から煙が出るのかと疑うほど、リリアナの顔が真っ赤になった。
その後すぐに部屋を追い出された。
その日のことをマリーとロベルトに打ち明け、それからリリアナはよく笑うようになった。マリーもロベルトもとても喜んだ。とても穏やかな生活だった。日々成長していくリリアナから目が離せないほどに。
もっと食べさせてやりたい。もっと笑顔にさせてやりたい。悲しまないでほしい。毎日、リリアナを見るたび、その思いは更に強くなっていった。
そんなことを考えてはいけないのに。
自分はリリアナが嫁ぐまでの一介の護衛騎士に過ぎない。
それでも、少女から女性に変わるリリアナの瞳が自分を見て幸せそうにすることが嬉しかったのだ。
***
幸せな日々はいつか終わりがくる。
護衛騎士になってから早四年、騎士団長から呼び出しがあった。
「国王からの命令だ。明々後日にリリアナ姫が隣国のアルカディオ帝国に嫁ぐことが決まった…お前、ちゃんとわかっているな?」
「わかっているつもりです。」
顔が上げられない。わかっていた。リリアナは決して自分の所には来ることができないのだと。わかっていた。わかっていたがどうすることもできない。
その日は、いつも通り離宮に戻り夕飯を作り、部屋に戻った。明日は朝から騎士団の元に行かなければならない。
リリアナ…
――――嫁ぐ二日前の夜。
リリアナの部屋にて
「マリー、ロベルト、知ってるかもしれないけど私は明後日、アルカディオ帝国に嫁ぐことが決まりました。本当に今までありがとう」
マリーもロベルトも信じられないくらい泣いている。
「リリアナ様、貴方が生まれた日は忘れません。本当に本当に幸せでした。ミレイナ様も幸せそうで名前をつけて、今からでも逃げて…大切なリリアナ様…」
「そうです。こんないい子を、嫁ぐ相手は好色家の50代と聞いています。今からでもギルバート様と…」
私を思ってくれて泣いているのがわかる。
私は恵まれている、今の国民は心配をしてくれる家族すら失っている人達が多いのだ。
「いいえ、私は行きます。戦争が近いのです。少しでも一般市民の避難が大切です。私はその避難の時間を少しでも稼げるようにします。国王や貴族達は私の魂胆を知らないでしょう。ですが騎士達には伝えてあります。時期にここも攻められる。貴方達も早く逃げるのよ。」
「今まで本当に良くしてくれてありがとう。私は明後日の早朝に行くわ。…それまでギルバート話すことがあるの。」
二人は察したのか首を縦に振り、軽い食事を作りに行った。
***
緊張した面持ちでギルバートの部屋を叩く、
「ねぇ、ギルバート入ってもいい?」
「…」
「ねぇ…」
「貴方から来てください。わかっているのですよね?」
勿論わかっている。年頃の女性夜に男性の部屋を訪れるなんて許されないことだ。
そっとドアを開く。中は暗く月明かりが少し入ってきていた。ギルバートのいるベットの近くまでそろそろと歩いていく。
不意に手を掴まれてベットに引き摺り込まれた。
「きゃあっ、ギルバート!」
自分が馬乗りになっている姿勢でギルバートを見下ろす。風呂に入ったばかりなのか髪がしっとりとしている。月明かりに照らされた端正な顔を見ると胸がドキドキして全身波打っているようだった。
「姫様、どうしたのですか?」
さっきの妖美な雰囲気が何処へ行ったのか、いつもの作り笑いで問いただしたくる。
「あの…ギルバートに挨拶しようと思って。あのね。私ね。知ってると思うけど、あのね…」
何故かわからない涙が出てきた。覚悟はとっくの昔からしていたはずなのに。嫁ぎたくない。ギルバート以外のお嫁さんになんてなりたくない。ずっと好きだったのだ。
「私、ギルが好き!こんなこと言って困らせるって分かっているけどずっと好きだったの!悪かったわね!箱入り娘で!」
泣きながら逆ギレしてしまった。必死にしがみつく。それしかできなかった。
―――――
今自分の、上で泣いている女性が自分を好きだと言った。もうすぐ戦場に赴く騎士が好きな女性に跨られて理性を保てるか?保てるわけがない。
奪いたい―何もかも―
気づいたら唇が重なっていた。どれくらい、そうしていたのかはわからない。ただ互いに唇を合わせ舌を合わせた。何度も何度も。
ただ、ただ、唇を合わせ続けた。
―――――――
外から悲鳴のような声と金属同士がぶつかる音、それに大砲を放つ音が聞こえる。
嫁いだ国は思っていたよりも発展していた。
若者を集め、騎士を育てるだけのエルドア王国とは比べ物にならない。エルデア国は今まさに宇宙人と戦っている状態だろう。
嫁いでから半年、それしか時間を稼ぐことができなかった。
エルデアの騎士達は早々にアルカディオに降伏し王族や貴族達を裏切った。懸命な判断だ。
ここにきてから悪いことばかりではなかった。綺麗な服を着せられ、豪華な食卓、夜は自分の身体を使い、時間を稼いだ。
どれも覚悟していたことだ。
エルデア王族は根絶やしにするそうだ。
もうすぐ、この地下牢にも騎士が来て私を殺しにくるだろう。
***
階段を駆け降りる足音がする。
勢いよく地下牢の扉が開いた。
―バンッ
「リリアナ!」
半年前のことなのに懐かしい声だ。
「ゴホッ、ギ、ギルバート…?」
掠れた声が出る。なんせエルデアが戦争を仕掛けたときから地下牢にいたのだ。
「みんなは?国民は無事なの?もう降伏したから無事よね?」
「あぁ、無事だ。戦争も終わった。」
「そう、そうなのね、フフッ、ギルバート、そんな悲しい顔しないで」
「…殺させないでくれ、頼む……」
アルカディオ帝国のリリアナの夫となった最高権力者はリリアナが最後まで心ここにあらずだったことが気に食わなかった。そこで母国に恋人がいると予想し、その恋人の手でエルデア国、最後の王族の血を途絶えさせようと考えたのだ。
地下牢の扉の前にはリリアナの夫である男が立っている。じ愛する男に殺される自分の女と愛する女を殺さなければならない男を薄笑いを浮かべ見つめていた。
この男にとってはリリアナなどただのオモチャぐらいにしか思っていなかったのだ。
「ギルバート!私、貴方と会えて幸せだったわ!好きよ、大好きよ、泣かないで…」
「私も…俺も、好きです。愛しています。リリアナ。」
目の前に一筋の線が走った。
―ザシュ
血が飛び散る。
―ザシュ
再び血が飛び散る。
目の前が赤い、リリアナ、リリアナ…
どうか…来世では、俺じゃなくていい。
神様、頼む。彼女を幸せにしてくれ。
――――――X X X年後
「ただいまー。いい匂い!シチューかな?」
「正解。手を洗って来ておいで。」
「はーい」
洗面台で手を洗う。台所に立っている男性に近づく。
「今日ね、お客様のお話で輪廻転生って存在するか話してたの。」
男が神妙な顔をした。
「信じないの?騎士様?」
ニコニコと笑う彼女に男が口づけをした。彼が何かを誤魔化す時にする癖だ。
「初めて魔法学校で会った時泣きついて来たのにー?」
「貴方は笑っていましたね。」
「嬉しかったの。覚えててくれて。」
「当然です。俺のお姫様。」
そう言って再びおでこにキスをした。
「幸せにします。俺の手で。」
「何回も聞いたわ!私も私が貴方を幸せにするわ!」
二人はいつまでも手を繋いで笑い合っていた。
ご都合ハッピーエンドが一番ですよね!
ハッピーエンドなのか、、?




