"灵魂之乡(後編)"
生涯の一大事に思えた事でも、通過すると、ただの『事実』という情報───ないしは、過去に過ぎなくなる
今もまさに、そういう気分だった
端的に説明すると、洞窟に現れた二つの武装した物陰は天使と悪魔、両陣営の使者だった
彼らは互いを警戒し、牽制し合いながら現れると、汚いものを視る嫌悪の眼差しを、その場に居た天使と悪魔双方に向けた
そして事務的な口調で、天界での戦争が終わった事を周知し、『直ちに本来の「持ち場」である村落に戻り、領土を維持せよ』と、それぞれの陣営へと命じた
「クソがよ」
「こっちは全滅かってくらい死んだんだぜ」
悪魔達のまとめ役をして居た少年が、使者が完全に視えなくなったのを確認した上で、絞り出すような憎悪の声で悪態をつき、足元の石を蹴飛ばした
石ころは壁に当たってその場に落下し、洞窟は再び静けさに包まれる
───しかし暫くすると洞窟は、呻き声と傷病者の這いずる音でいっぱいになった
『故郷』
『故郷』
『───故郷』
安静が必要に思える姿をした傷病者たちが、天使も悪魔もなく洞窟の外にある『故郷』を求め、まだ付いていて動く脚や手を使って、蠢いて居る
穴居の外には青空が、まるで素晴らしいものであるかのように広がって居る
外に出ようとした者の総てが、洞窟の出口に辿り着く事すらなく息絶えたが、後に続く者達は、そこにある屍すら意に介さず、多くの者が死んだ者や動けなくなった者を下敷きにしてまで故郷を目指し、這い進んだ
責められる行いでは無かった
或いは、現在の傷病状態では『故郷』に辿り着く事など出来ないと、誰もが内心では知って居たのかも知れなかった
僕をはじめ何名かの、まだ正気な者達は『故郷』は今なお、何ら変わりなく燃え続けて居るだろうと心の内で感じ、外に出ようとは思わなかった
混乱は一時間程度で自動的に収まった
外に生きて出られたものは、一人として居なかった
「そういえば」
僕は、ぐったりと壁に背を預けてその場に座ると、悪魔達の代表だった少年に尋ねた
「お前、何処も悪くないのに此処に居るのか?」
顔を視て、暗所ながらも、何かしらの違和感を感じた
先程とは打って変わって、強がりながらも蒼白な表情で、彼は止めどない汗に顔中を濡らして居た
「はっ……」
「説明の手間が省けたな」
「俺は、角が両方割れちまってる、悪魔は角が割れると長くねえのさ」
彼も僕と同じように、僕の隣にへたり込んだ
「寒い」
悪魔の少年が、うつろな声と表情で、ぽつりとそう言った
「僕と同じだな」
隣に座った少年の手を、包むように握りながら僕は言った
「僕も、戦闘行為の最中に光輪が砕けてしまった………長くないんだ」
少年の手は氷のように冷たいのに、汗にぐっしょりと塗れて居た




