13.声の残る場所
暑き季が過ぎ、赤なる季が訪れた。
クヮヤの民は鉄の矢じりと釣り針で獲物を捕らえ、冷ゆる季を迎える支度に勤しんだ。大地が白むようになると下の地に降り、温水の湧く野に移った。いくつかの村の民も集まり、穏やかに賑やかに過ごした。
けれど、ヲトヤはハの裾野や、東のホトの山に近い集落へと幾度も走った。大陸の人間たちがワダマトを離れることなく、残っていたためだ。クヮムアソの民の不安や恐れを慰め、鼓舞し、暴走を防ぐために奔走した。
芽吹きの季を迎えると、ようやくのこと大陸の人間はワダマトから旅立った。ヲトヤは再び強者を引き連れて、ハの裾野へ向かった。大住の地へは見張り以外は入らず、その出入り口と高原の野へと続く峠を警戒するに留めた。
何事もなく一行が去ると、ようやくのことソの地は落ち着きを取り戻した。
月が巡り、暑き季がきた。
ヤヒは冷ゆる季の間に幾度か病を患ったが、すくすくと育っていた。
「ああ、ヤヒは歩くのが上手だな。さすが、イワナが産む前から教えていただけのことはある」
よたよたと伝い歩きするヤヒを見ながら、ヲトヤは誇らしげに言った。
「そうだな。そのうち、お前の足も超えるだろう」
草地に横たわったセヤは、ヤヒに耳を引っ張られながら答えた。なにがおかしいのか、ヤヒは笑いながら小さな手でセヤの顔を叩いた。
「ヤヒ、やめなさい。ヒミクヮオウの顔は叩くものではないのよ」
イワナは注意したが、眺めるだけで止めることはしない。
クヮヤの子らも面白がってセヤに飛び掛かった。さすがにセヤも焦った声を出す。子らは気にした様子もなく、セヤをおもちゃに遊び出した。それを見ていた大人たちも笑った。
ゆるゆると煙を吐き出すクヮグの島を通り、日に輝く狭海を渡り届いた風が笑い声をさらっていく。
クヮヤの原の声は空に溶け消えた。
完
お読みくださりありがとうございました。
魏志倭人伝に残された世界を参考に、こんなことが、どこかであったのだろうか……と想像しながら書きました。
多くは実在の地理・地名をモデルにしているので、あそこかな? と気づいていただけたら……小躍りして喜びます。(੭ु╹▿╹)੭ु⁾⁾
実際の古地名や音変化をなぞりつつも、物語として楽しめるよう意識しました。
歴史の余白に置いた、ひとつの空想としてお楽しみいただけていたら幸いです。




