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外来種のギフト

「こいつめ!」


 河原で、子供の声がした。見れば、2、3人の子供が、亀を囲んでいる。


「君たち、生き物をいじめるのは良くないよ」


「でも、おじさん。こいつは外来種なんだよ。ネットで調べたもん」


「放してあげなさい。お小遣いあげるから」


「知らない人にもらっちゃいけないってさ」


 そう言うと、子供たちは行ってしまった。


「もう大丈夫だ。亀さん」


「ドーモありがとサンキューです」


「わっ! 亀がしゃべった?」


「ミシシッピアカミミガメです。助けてもらったお礼がしたいです」


「竜宮城へでも連れてってくれるのかね?」


「私は舶来なので、そういうの知りません。その代わりにギフトです。私に触れて下さい」


 亀に触れると、軽いめまいがして、景色が変わった。


 

 ──どこかの部屋だ。


「……ここはどこだ? 竜宮城じゃなさそうだが」


「さ、お待ちですよ」


「誰が? 乙姫さまか?」


「お父さん!」


「あなた!」


 そこにいたのは、3年前に交通事故で亡くした妻の豊子と、娘のさくやだった。


「お、お前たち!」


 3人は、抱き合って涙した。


「お父さん、こっち」


 部屋のテーブルの上には、バースデーケーキが用意されていた。


「さくやの誕生日ですよ」


「さくや。いくつになったんだ?」


「7歳だよ。ろうそく見てよ」


「はは、そうだったな。……7歳か」


 しばしテーブルを囲んでいた。

 思いだしていた、あの頃を。過ぎ去った日々を。

 

 埋めようとしていた。空白の日々を。



「お父さん、どこ行くの?」


「ちょっと。すぐ戻るよ」



 ──部屋を出て、言った。


「さっきの亀はいるかい」


「はい。ここに控えておりますよ」


「私は、いつまでここにいられるんだ?」


「いつまででも。あなたのお望みのままです」


「なら、もとの世界へ帰してくれ」


「それでよろしいのですか?」


「ああ、構わない」


「お父さん、行っちゃうの?」


「さくや……。お父さんはね、ちょっと用事があるんだ」


「うん……。また来てよね?」


「ああ、また来るよ」


 亀に触れると、また景色が変わった。



 ──もとの河原にいた。


 亀が、のそのそと歩いて行く。


(あのまま、ずっとあそこに居られたんですよ?)


「あそこでは、時間が経たないんだろう? あの子が亡くなったのは、7歳の誕生日よりも後のことだからな。ずっと7歳のままだ」


(……)


「あの時のままだが、あの子は成長もしない。未来もない」


(……)


「やはり、こうしたほうがよかったんだ」



 亀は、のそのそと歩いて行った。



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