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朝起きたら、拾った猫が《神様を名乗る超絶可愛いツンデレ美少女》になっていた件  作者: 五月雨前線


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第21話 頂上へ

 白い巨人は六つの目で鋭く俺を睨みつける。全身の骨が軋むほどの圧に、俺は思わず顔を歪めた。


「私の前に人間が姿を現すのは、実に160年ぶりか。160年前に遭遇した人間は、会話をする前に私に斬りかかり、私に圧殺されて死んだが、さて貴様はどうなるか」


「俺は蒼守唯斗! 千葉黎明大学自然学部自然学科の1年生だ! 愛導乃大御神を召喚の儀で召喚するためにここに来た!」


「愛導乃大御神、だと……?」


 白い巨人は六つの目を大きく見開いた。


「噂は聞いている。信光輪乃大御神と礼厳卿乃大御神の間に生まれた、天上の世界の中でも群を抜く美貌を持ち合わせる、奔放な神であると。して、何故貴様が愛導乃大御神の名を知っている? 人間の世界ではそこまで有名な神ではないはずだ。愛導乃大御神を召喚したい理由は何だ」


「詳しい説明をしている暇はない! とにかく、俺はもう一度愛導乃大御神に会いたいんだ! 会って、この気持ちを伝えたい! 大好きだって、ずっと一緒にいてくれって、伝えたいんだ!」


 睨み返しながら俺は叫ぶ。


「愛を求めているのか? 貴様は人間だろう。人間なら人間同士で愛を育み、交わって子を成せばいいだけのこと。何故わざわざ愛導乃大御神と愛を育もうとする? 人間と神が愛を育めると本気で思っているのか?」


「思ってる! 俺は本気だ! 綾香に会って、想いを伝えるって決めたんだよ! ここを通してくれ!」


「召喚の儀は極めて危険な儀式だ。最悪お前は命を落とすことになるだろう。それでも、召喚の儀を行うのか?」


「勿論だ。綾香にもう一度会うためなら、何だってする」


 俺は白い巨人と睨み合った。程なくして、白い巨人は唇の端を釣り上げた。


「くくく……。面白い。貴様のような理由で召喚の儀に挑む人間は初めて見た。気に入った。せいぜい頑張るがいい」


 白い巨人はゆっくりとした足取りで立ち去りかけ、足を止めて俺に視線を向けた。


「その塩まみれの木刀は今すぐしまった方がいい。この山の中には、その木刀を見ただけで、敵意があると判断しお前を殺しに行く輩もいる。そんな木刀を構えていたところで微塵も役に立たない」


 白い巨人は鬱蒼とした森林を掻き分け、どこかへ消えていった。強烈な圧が消え失せ、俺はその場にへなへなと座り込んだ。


 殺されるかと思った。死を覚悟した。しかし、幸運にも見逃してもらえたようだ。アドバイス通り木刀をリュックにしまい、俺は再び歩き始めた。


 頂上までの道のりは予想以上に過酷だった。先程の白い巨人のような、道を塞ぐ異形の存在に何度も遭遇し、その度に命の危険を感じながら会話を交わし、通してもらった。


 目の前から突然光る日本刀が何度も飛んできた時は本気で死を覚悟した。たまたま回避出来たのは奇跡に近い。


 突然雨が降ったと思ったら、雪が降り、霙が降った。レインウェアを重ね着したものの、寒さに体が震えた。


 木に巻かれている注連縄が突然意思を持ったように動き出し、まるで俺を縛りつけようと迫ってきたこともあった。後ろから追いかけてくる、鎧を纏い刀を持った異形の存在と命をかけた鬼ごっこを繰り広げたこともあった。


 黒帝山がまるで俺に牙を向いたように、頂上を目指す俺を妨害した。何度も心が折れそうになった。引き返したいと何度も思った。


 逃げなかったのは、綾香に会いたいという強い意志が俺の体を支えていたからだ。どうしても辛くなった時はリュックから綾香とのツーショット写真を取り出して眺め、自分を奮い立たせた。


 ぼろぼろの傷だらけになりながら、6時間もの間ひたすら進み続け、遂に俺は黒帝山の頂上に辿り着いた。


「うわあ……」


 飛び込んできた光景に、俺は思わず溜め息を漏らした。


 頂上には、直径100メートルの円形のエリアが広がっていた。所々に池が点在しており、金色に光る水がゆらゆらと揺らめている。さらに、俺を先導していたのと同じような火の玉が無数に存在し、エリアのあらゆる場所で光りながら浮遊していた。


 まるで空気に色があるように、エリア全体が淡く青色に光っている。そして、エリアの中央には巨大な一本の木が聳え立っており、その木の根元に、小さな祠がぽつんと設置されているのが見えた。どくん、と心臓が脈打つ。


 とうとうここまで来た。しかし、ここからが本番だ。なんとしても召喚の儀を成功させなければならない。無数の火の玉に見守られるように、俺はゆっくりと歩を進め、祠の前に辿り着いた。石でできた祠は苔に塗れていた。


 俺は祠の前にリュックを置き、正座した。水を口に含み、リュックから御札とプリントを慎重に取り出す。プリントに目を通して流れを確認し、大きく深呼吸した。右手に御札、左手にプリントを持ち、大きな声で祝詞を読み始めた。


「黒帝の地に坐して神来期


 神室儀、神室気宣いて


 信光輪と礼厳卿の間に生まれん


 愛導乃大御神を召喚せんと宣う


 人事尽くし禊祓い結ふ、神来求め申す……」


 体が熱い。焼けるように熱い。と思ったら今度は凍えるように寒い。


 全身の骨が軋む。内臓がまるでひしゃげたように痛い。頭が痛い。


 心臓が痛いほど脈打っていて破裂しそうだ。血の巡りが速くなっている。


 やめろ、これ以上やったら死ぬ、と脳が悲鳴を上げている。恐らくここが、召喚の儀における振るい落としの場所なのだろう。ここで耐えきれず死ぬか、生き延びるか。多くの人間がここで死んだのだろう。


 絶対死ねない、綾香と再開する、と心の中で叫び、痛みと恐怖に耐えながら必死に祝詞を読み続ける。


「……諸々の悪、罪を浄化し祓い給へ


 黒帝の異形なる者者を乗り越えし我に


 只一度神の降臨を願い奉る


 八百万の神々に召喚の儀の成功を願い


 再会し食せと畏み畏み祈り奉り申す」


 なんとか祝詞を読み上げた。後は願い事を口にするだけだ。俺は再び深呼吸し、口を開いた。


「綾香。俺は、綾香に出会ったことで人生が変わった。綾香に出会う前は、自己肯定感が低くてネガティブで、自分は駄目な奴なんだと思い込んでいた。でも、綾香に出会ってから変わった。ポジティブな綾香に引き寄せられるように、少しずつ俺も自分を肯定出来るようになった。綾香が俺を変えてくれたんだよ。本当にありがとう」


 息を整え、再度声を出す。


「綾香と過ごした日々は、幸せに溢れていた。綾香は、俺の孤独を癒してくれた。その明るさに何度救われたか分からない。俺は綾香の明るいところ、優しいところ、かわいいところ、寂しがり屋なところ、ツンデレなところ、諸々引っくるめて全て好きだ。俺は綾香のことが大好きだ。そんな綾香ともう2度と会えないなんて嫌だ。もう一度会いたい。そして、今度は絶対に守る。一緒にこの世界で生きて欲しい。俺の彼女として、妻として、死ぬまで添い遂げて欲しい。だから、頼む。もう一度この世界に来てくれ。俺の前に姿を現してくれ」


 言いたいことは全て言った。周囲は静寂に包まれている。何も起きる気配はない。


 駄目か。やっぱり駄目なのか。胸が引き裂かれるような悲しみが込み上げ、俺の頬を一筋の涙が伝った。


「頼むよ……もう一度綾香に会いたいんだよ……」


 一つ、また一つ、涙がこぼれ落ちる。俺は両手を合わせ、祈った。綾香が目の前に現れることを、強く祈った。


 やがて異変に気付いた。点在している池の水が、ごぽごぽと音を立てて波打っている。周囲に浮遊する火の玉がより一層輝き、動き回っている。風が吹いてないのに、木の葉が揺らいでいる。地面がぐらぐらと揺れ始めた。思わず俺は数歩後退りした。


 混乱する俺の前で、浮遊する火の玉が一つ、また一つと融合し、やがて大きな巨大な火の玉となった。その火の玉は俺の前にゆっくりと移動し、小刻みに振動したかと思うと、一際大きな光を放って爆音とともに爆ぜた。


 目を焼かれるほどの強烈な光に、俺は思わず手で目を覆って目を閉じた。強烈な光はなかなか消え失せない。目を瞑っていると、やがて地面の揺れは収まり、強烈な光も消え失せたようだった。そして、その光が消えたタイミングと同時に、懐かしい声、ずっと聴きたかった声が、俺の鼓膜に飛び込んだ。


「……唯斗?」


 俺は目を開け、大きく息を呑んだ。そこには、白、茶、黒の3色のグラデーションに染められた和服を身に纏った綾香が、寝ぼけ眼を擦りながら佇んでいた。


「綾香!!!!!!!」


 俺は声の限り叫び、走り寄って綾香を力の限り抱きしめた。

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