私は歴史に名を刻む
お父さんから渡された木屑に、僕は言葉を失ってしまった。
だけど、僕はこの程度では動じない。
「お父様、すごく嬉しいです! 首をながーくして待っておりました。おとーちゃん大好き!!」
「一瞬すごく驚いているように見えてしまったから少し焦ったよ。でも、いつもみたいに“パパ”と呼んでほしいな!」
僕の完璧なリアクションに、お父さんは上機嫌に帰っていった。
入手が絶望的だと思っていた自転車が、完成間近で思わぬトラブルに見舞われた。
だが僕はすぐに、すごくスーパー完璧パーフェクトなアイディアを思いついてしまった。
「今宵、私は歴史に名を刻む!!!」
僕はすべての魔力を絞り出すように集中した。
周囲には、可視化できるほどの魔力が溢れ出している。
「それは異次元の軽さ……
それは異次元の空力……
現在、過去、未来、万象を超える禁断のホイール……
カーボンよ……我はサイクリスト、山を登る者……
我が血、我が肉をもって、クソ女神の戒律を今破らん……
我が名はピナ・チェーロ、山岳区間の天才にしてロードバイクを操りし者……
ひたすらに! ただひたすらに我は欲する!
天よ! 地よ! 決してその名を忘れるな!!
我が名はピナ・チェーロ! 山岳区間の天才にして、ロードバイクを操りし者!!
――顕現せよ!! カーボンホイール!!!」
激しい地響きとともに、あたりは光に包まれた。
そして、目の前に現れたものは――
「そんな魔法あるわけないでしょ、馬鹿じゃないの?」
……と書かれたメモだった。
なるほど。この世界に召喚魔法というものはないらしい。
たしかに、書籍にも書いてなかったし、先生も教えてくれなかった。
詠唱の必要ないこの世界で詠唱してみた感想は――
「クソ女神! ぶっ殺してやる!」
魔力を使い果たした僕は、その場で倒れ込んでしまった。
魔力を使い果たすのは初めてだ。もう一歩も動けない――気をつけなければ。
家からお父さんとお母さんが近づいてくる。
「ピナ、すごい地響きと光だったけど大丈夫よね?」
「倒れてしまったのかい? すぐにお家で休もう! ドクターも呼ばなければ!」
「たぶん……魔力を使いすぎただけです……パパ、ママ……できればマナポ……エーテル……みたいなの、ありますか?」
「マナポ? エーテル?それはわからないけど、魔力を回復させる、マジックポーションならあるわ! すぐ用意させるわ!」
あるのかよ……
「ありがとうございます……」
僕はそのまま眠ってしまった。
◯◇◯
「ちょっとあんた、クソ女神って何よ! クソ自転車オタク! ちょっと! 早く起きなさいよ!」
「奇声を上げるな! 神経が苛立つ!」
気持ちよく眠っているのに、誰かが叫んでいて目が覚めてしまった。
「しらな……あれ? 天井がない?」
目を開くと、あたり一面、何もない空間だった。
夢か? 現実か? よくわからない。
マジックポーションが効いたのか、体が軽い。
体を起こすと、サラサラの銀色ロングヘア、銀色の瞳――僕が前世で思い描いていた“まるで女神様”のような美女が仁王立ちしていた。
「ようやく起きたわね、ピナちゃん!」
「だれ?」
ディープリムカーボンホイールってかっこいいですよね
初めてゲットしたとき嬉しすぎて調子にのってスピードを出したらブレーキがめちゃくちゃ効きづらくて焦ったのを思い出しました