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ピナ・チェーロは動じない

僕はあまり動じたりしない方だ。

生前の数年前、「翌年こそはディスクブレーキで行く」と聞いていた。

その年、争っていたチームが「今年からはディスクブレーキだ」という情報を得た。

当然、僕のチームもディスクブレーキだと思っていた。


だがチームからは、

「ホイールと重量の問題で、今年もリムブレーキで行く」

と言われた。


こんな時でも、僕はまったく動じなかった。

「僕はリムブレーキの方が好きだから嬉しいな。むしろ美しい。ディスクブレーキも確かに格好いい。でも、リムブレーキの美しさには敵わない」

――そんなふうに語ってみせる余裕まであった。


……会議が終わったあと、背後でこんな声が聞こえた気がした。

「空のやつ、足震わせながら変な汗かいて、なんか語ってたけど大丈夫か?」


気のせいだろう。


でもほんの少しだけ、僕は動じていたのかもしれない。

気がつけば僕は、チームでもメカニックでもマネージャーでもなく、なぜかメーカーに電話をかけていた。


「ぼぼぼ、僕だけど、ちょ、ちょっと……な、なんでもいいからディスクブレーキのロードバイク、貸してくれない? あ、ああ、空だよ。オレオレ詐欺じゃないから!」

「ちょっと待ってくれ、ディスクって言葉は聞こえたけど……まず日本語で話すのと早口をやめてくれないかい?」


どうやら、ついクセで日本語が出てしまったらしい。

早口も日本語が分からないから、早く聞こえてしまったのだろう。


「すみません、ついクセで日本語で話してしまいました。ディスクモデルのロードバイク、ちょっと興味があるので貸していただけませんか?」

「もちろんいいよ! でも今すぐ手配できるのは来年モデルのプロトタイプのストックしかない。くれぐれも敷地内とか室内だけにしてくれよ!あといつもみたいに、ゆったりとした喋り方のが僕は好きだな!」

「ありがとうございます!!」


嬉しさのあまりか、それともほんの少し動じていたせいか……。

僕は町中を爆走してしまった。


当然、かなりの数の写真を撮られ、

「新モデルか!?」「ディスクモデル投入か!?」

といった記事がアップされてしまった。


すぐに呼び出され、めちゃくちゃ怒られた。

だがメーカーは「ディスクモデルの注文が止まらないよ!」と喜んでいた。

そう――僕はメーカーのために町中を爆走したのだ。


◯◇◯


フレームが完成して、そんなことを思い出していると、お父さんがやってきた。

まだ細かいパーツは完成していないが、ホイールが届いたらしい。


僕はあまり動じない方だが、少しくらいはしゃいで見せないと、お父さんもプレゼントしがいがないだろう。


「パパ、すごく嬉しいです! 首をながーくして待っておりました。パパ大好き!!」

完璧なリアクションの準備はできていた。


「ピナー! ホイールが届いたよー! 27インチのホイール、なかなか見つからなかったから、腕利きの職人に作らせてしまったよ! ははは!」


それは ホイールというには あまりにも重すぎた

重く 分厚く 精度が悪く そして タイヤが付いていなかった 

それは 正に 木屑だった


「え? どゆこと?」

ピナちゃんはリム派だったんですね

トレンドは20年周期とも言われているのでもしかしたらまたリムブレーキの時代が来るかもしれませんね

そしたらピナちゃんは大喜びしそうです

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