フレームを作ろう
僕はやはり、魔法使いになっていたようだ。
「ピナ、本当にすごいね、驚いたよ!どこで覚えたんだい!?」
「あなた、すごいわ。もしかしたら“魔法使い様”になれるかもしれないわね!すぐにでも魔法の先生を雇わないと!」
両親がすごく騒いでいる。
とりあえず喜んでくれているようで安心した。
もし異端として捨てられてしまったら、ロードバイクへの道が遠のいてしまうところだった。
……いや、今なにかおかしなことを言われたような?
まぁいい、自転車づくりはまず魔法をマスターしてからだ。
「決めました!誕生日プレゼントは、魔法に関する書籍と、魔法の先生をお願いします!」
「もちろんだよ!すぐに手配してあげるね、ピナ!」
「ごちそうは台無しになってしまったけど……今日は軽く済ませて、また明日改めてお誕生日パーティーをしましょう!」
今日は軽食を取って、さっさと休もう。
明日からは、いよいよ魔法のトレーニングだ!
……本当はアニメを見ながらスマートトレーナーで遊びたいけど。
◯◇◯
あれから、だいたい2年が経った。
魔法というものは――たぶん、だいたい、きっと、マスターした。
どうやら魔力を自己暗示によって操作し、対象に作用させるという仕組みらしい。
この“イメージ”が強ければ強いほど、大きな魔力を消費して、より強大な魔法を使える。
書籍にも先生にも、そう説明されていた……気がする。
でも僕には、現代の知識がある。
アニメや動画で見た機械の構造をイメージできれば、だいたいのことは魔法で再現できる。
ただし、どれだけ頑張っても「無からカーボンを生み出す」のような事はできなかった。
アクリル繊維かピッチ繊維があれば、もしかしたらカーボンフレームも作れるかもしれない。
どちらにせよ、樹脂も必要だ。
そして、ついに今日――
フレームを作ろうと思う。
この2年間、魔法の勉強だけをしていたわけじゃない。
魔法でできること・できないことを確認したり、自転車作りに必要な工具を作ったりしてきた。
長さの単位は、ミリメートルっぽい何かを使うことにした。
この世界にも「インチ」という単位はあるようだが、かなり曖昧で、「男性の親指の幅」とされていた。
生前ウィキで「インチ=親指の幅」と読んで、自分の親指の幅を測ったことがある。たしか2cmちょいだった。
だから、この世界のお父さんの親指の幅の半分より気持ち小さめを、1cm相当として換算することにした。
何より、僕が使っていたロードのサイズは覚えている。だいたいミリで。
たとえば、僕の乗っていたロードのシートチューブは465mmだった。
鉄パイプは、大量にコツコツ作っておいた。
まずはシートチューブを切り出そう。僕の体格的には485mmがジャストだけど、軽量化目的で465mmを使っていた。
BBのスレッドの内径が36mmだったから、そこを考慮して20mm短く切る。
「ウォータージェット」
これは水魔法を極限まで高圧縮して放つだけ。
動画で見た知識だけど、熱を加えずに切断できるから歪みが出ない。とても便利な魔法。
他のパイプも、同じように切っていく。
「トップチューブ525、ヘッドチューブ114、リアセンター406……」
思い出せなかったサイズは、バランスを見て、なんとなくで切り出した。
切り出しが終わった。
そして、仮に並べてみた瞬間――
涙が止まらなかった。
まだ溶接もしていない。ただ鉄パイプを並べただけ。
それなのに、生前毎日のように見ていたあの自転車のフレームが、目の前にあった。
二度目……どころか、実質三度目の人生。
やっと、やっとまた自転車に出会えた。
「ありがとう、女神様」
イタリアンスレッド式のBB右側が正ネジだった時びっくりしました
思いっきり締め上げたことがありますぶっ壊れなくてよかったです
ピナちゃんは間違わないようにしてください