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ロードバイクがほしいです

「松木空選手、この山岳ポイントを獲得すると、日本人初の山岳賞となります!」


物心ついたときから、僕は自転車が好きだった。

いや、好きなんて生ぬるい。愛と言っても過言じゃない。


チーム名は少し前に変わったけれど、このロードも、チームも、僕の名前にぴったりだ。


ロードは楽しい。やめられない。

何度落車して痛い思いをしても、バイクが壊れて出費がかさんでも、やめようと思ったことは一度もない。

むしろ壊れたら、自分で直したり組み直したりするのも楽しい。


中でもヒルクライムは格別だ。

どれだけ苦しくても、頂上にたどり着いたときの達成感、爽快感、そして高い場所からの絶景は最高だ。

登っている最中はヒィーヒィー言っているだけだが、練習の質と量がダイレクトに反映される。

ちょっと気を抜くだけで、すぐ抜かれる――ごまかしの効かない勝負。


あと少しで、ヒルクライムの頂点に立てる――はずだった。

だが、視界がぐらぐら揺れている。


口の中はカラカラ。さっきボトルを捨ててしまった。

一滴でもいい、水が欲しい。

……こんなとき水魔法が使えたらな。


指先がピリピリする。脱水症状か?

それとも雷魔法が暴走してるのか?


全身が燃えるように熱い。……あれ、僕は魔法使いだったのかもしれない。


「わかったわ! 職業をスポーツ選手から魔法使いに変更ね! まかせてちょうだい!」

「え?」

「ゲート目前で落車だーーー!!」


どこからか聞こえてきた声に反応した瞬間、ハンドルを切り損ね、ガードレールにぶつかる。

そして僕は、ゲート目前で宙に投げ出された。


「あなた、もう寿命が1分も残ってなくて、魔法使いになりたいって言ってたから、つい反応しちゃったの!」


いや、言ってないし。

それよりお前が話しかけなければ、僕の寿命もっと長かったんじゃない?


「ついでに自転車で死んじゃったんだから、自転車なんかもう見たくないでしょ! 自転車のない世界に転生させてあげる!」


やめろ。ちょっと巻き戻して僕の心の声を聞け。

「愛してる」って言ってるだろ。


「え!? 自転車に愛って……変わった性癖ね。……そうだわ、女の子に生まれ変われば性癖も変わるかもしれないわね!」


あれ、僕の声聞こえてる?


「そうそう、物心つく前は何もできないし、おむつ替えとか恥ずかしいでしょ? だから5歳まで今の記憶はロックしておくわ!」


そんなことどうでもいい。とにかく、またロードに乗りたい――。

意識が、すっと遠のいた。



◯◇◯



「ピナ、誕生日おめでとう!」


目の前には知らない二人。……いや、ぼんやりと記憶がある。

どうやら両親が、僕――いや、私の誕生日を祝ってくれているようだ。


僕の名前はピナらしい。

いい名前だ。前世で乗っていたロードのブランド名みたいだ。


もしかして、あの死ぬ直前に出会った女性は……女神様?

それで今、記憶のロックが解けたのか。


でも本当に女の子になっている。

優しいけど、少しアホな女神様かもしれない。

しかも生前の名字が名前になってるし……じゃあ、こちらの世界での名字は?


「お父さん、お母さん、私のファミリーネームを教えてくれる?」

「突然どうしたのピナ? いつもみたいにママ、パパって呼んで」

「ファミリーネームは……チェーロよ」


……やっぱりだ。

生前の名前そのまま。これはもう、こちらの世界でもロードに乗る運命だな。


「そうだピナ、せっかく5歳の誕生日だし、欲しいものはあるかい?」

「なんでも買ってあげるわよ」


……そうか。女神様は、この瞬間のために記憶を解放してくれたんだな。

女神様、ロードの次に愛してる!


「私、ロードバイクがほしいです!!!」

「え?」


あれ? 言い方が違った?

「ロード? 自転車? バイク? ロードレーサー?」


なら……僕の名前的には……「ベロ?」

「ピナ、それがどんなものか、教えてくれる?」


……まさか知らないのか?

「ダイヤモンド型のフレームに、ホイールが付いてて、ハンドルはドロップハンドル! ペダルを漕ぐと進む乗り物です!」

「そんな乗り物、全くわからないな……馬車とは違うよねピナ?」


――前言撤回。死ね、クソ女神。



女の子に変わったというのはただピナって名前にしたかっただけなので、できれば性別とか気にせず、読みやすい方で読んでくれるとうれしいです。

ピナくんよりピナちゃんのが響きがいいかな?ってぐらいです、、、


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