第三章 覚醒 エピローグ
「はは……はあ……」
すべての真実を知ったブレストは、心に未練を残しながらも、やむなく受け入れるしかなかった。
「はあ……」
彼は首を振り、ため息をついた。複雑な感情を込めた眼差しで上条を見つめる。
上条は固く、哀れみを帯びた眼差しで彼を見つめ、ゆっくりと問いかけた。
「……お前の目的……いったい何だったんだ?」
「俺の目的?……最初から最後まで……お前を殺すためだ。それ以上は何も言えん。」
完全に敗れたブレストは、それでもなお上条に何かを伝えようとはせず、太ももの傷を押さえ、うつむきながら、上条の目をじっと見つめていた。
「撃て。」
しかし上条はなおも動じない。彼は黙ったまま、黒ずんだ銃口をブレストに向け、彼の一挙一動を見つめ、何の反応も示さなかった。
こうして対峙は続いた。
「……はあ……」
ブレストはため息をつき、もはや隠し立てはやめようと決めた。彼の命が尽きようとしている今、上条に話すことが最善の選択かもしれない。
「俺の目的は、お前を殺し、そしてもう一人を救うことだ。」
「そのもう一人は……俺の亡き親友の娘……桜井ゆい(さくらい ゆい)という……」
「俺の親友は……死の間際に……彼女を俺に託した……だから俺は決意した……どんな手段を使おうと……彼女を立派に育て上げると……」
「しかし……彼女は生まれながらにして……未知の病に苦しめられていた……」
「俺の親友は……彼女の治療法を求めて……世界中を駆け巡った……ありとあらゆる山を踏破した……だが、結局見つけることはできなかった。」
「俺は彼の意志を継ぎ……元々魔術師だったこともあって……魔術界で救済策を必死に探した……」
「だが魔術界で数年探し続けた俺は……彼女の病に関する情報を一片たりとも見つけられなかった……」
「絶望していたその時……機関の大主司が俺を訪ね、症状を緩和し治療する方法があると言った……」
「だから俺は躊躇わず執行課となった……彼のために様々な魔術師を捕らえ続けた……彼も約束を守り……親友の子の苦痛を和らげてくれた。」
「数日前、彼は俺に極秘任務を下した……そしてこの任務を達成した時、治療の術式を教えると言ったのだ。」
「その任務がお前の追跡だった。」
上条は黙って彼を見つめ、やがて問いかけた。
「……一人の命のために、もう一人の罪なき者を殺す……それがお前の信念なのか……?!」
「……それがどうした?!」
ブレストは反論した。彼は上条に詰め寄るように言った。
「お前は彼が苦しみながら死んでいくのを、ただ指をくわえて見ていられるのか?!」
上条は何も言わず、ただ黙ってブレストを見つめた。
重く、哀れみに満ちた眼差し。
「……」
ブレストは上条を見つめた。悲しみに満ちたその目は、彼の苦しみを上条に感じさせた。
「……ずっと以前に、俺は誓った。あの小娘のためなら、どんなことでもする、誰でも殺す、と。俺の親友は俺の目の前で死んだ。彼が残した唯一の子孫を、再び俺の目の前で死なせるわけにはいかない。」
「たとえ多大な代償を払おうとも、俺は一言のためらいもなく彼女を救う。」
「お前は彼女の気持ちを考えたことがあるのか!」
上条の右手が拳銃を強く握りしめた。彼は怒りに満ちてブレストに詰め寄った。
「構わん!」
ブレストは上条の怒りを恐れず、逆に問い返した。
「気持ちなどというものは、彼女の命よりも重いのか?!彼女が生きているだけで、俺がやってきたことは全て報われると感じられるんだ!」
「苦しみは俺一人が背負えば十分だ。彼女に再び不幸を味わわせたくはない!」
ブレストの感情はますます高ぶった。彼は胸を強く押さえ、悲しみと決意が入り混じった眼差しで上条を見つめ、心臓が引き裂かれるような声で叫んだ。
「彼女が笑顔で生きていくために……俺はどんな血まみれの手段でも試す!」
「それなら!」
上条は右手の拳銃を振り払い、怒号を上げながら彼に突進し、右拳を振りかざした。
「お前もそろそろ考えろ!他人がお前に寄せる願いをよ!」
ブレストの顔面に重く叩きつける。
「お前の親友は失った。これは変えられない事実だ。だが!それがお前が再び彼の理想を踏みにじる理由にはならん!」
上条は打ち倒されたブレストの前に立ち、悲憤の眼差しで彼を睨みつけ、怒鳴りつけた。
「桜井ゆいが、お前の血に塗れた手で守られながら生きることを望むと思うか!冗談じゃない!それはお前が自分で作ったもっともらしい言い訳に過ぎん!お前は親友の人格を侮辱した!これは絶対に許されん!」
「お前は悪人になることだけが彼女を救う方法だと思い込んでいるが、それはまったく必要ない!弱者にも他人を守る方法はある!悪人には悪人の貫く信条がある!『他人を救うために悪人になる』なんてのは、お前の独りよがりに過ぎん!」
「真に他人を守りたいと思う者は!自分の立場が純粋などちらかに帰属するかなんて、そもそも気にしないものだ!」
「桜井ゆいはきっと、お前が生きて彼女と共に成長することを願っている!それが彼女の願いだ!お前の言うようなはかない救済なんかじゃない!」
「お前の言う理想は、お前が大切にする者の苦しみの上に築かれるべきなのか!この野郎!」
「……」
ブレストは上条の言葉を聞き、一言も発せず、反論する手段をすべて失っていた。ブレストは地面に横たわり、天井を見つめ、何を考えているのかわからなかった。
「……小僧、お前が俺を倒した。これは事実だ。」
ブレストはしばらく沈黙し、やがてゆっくりと口を開いた。
「……廃ビルの裏に、森の中に隠された小さな部屋がある。花奏祈羽はそこにいる。急げ。」
「……!」
ブレストの微かな言葉を聞くと、上条はすぐにドアへと駆け出した。
荒れ果てた戦場には、今やブレストただ一人が残された。
真夜中の静寂が彼の耳元に重くのしかかる。彼は独り天井を眺めていた。
「はは……これからどうしようか……」
ブレストは感慨深げに言った。上条の叱責は気にせず、今や彼は真剣にいくつかの問題を考えなければならなかった。
「……あの小僧……今どうしているだろうか……」
ブレストはゆっくりと目を閉じた。
一方、全身傷だらけの上条はビルの裏手へと突き進んだ。彼は口の中で絶えず少女の名前を呼び、視線はひたすら前方に向けられていた。
長い戦いの後、ついに彼は再び少女に会えるのだ。
彼の喜びは表情に溢れ、今すぐにでも魔法を使いこなして自分の傷を癒やせるようになりたいと願っていた。
足を引きずる上条はビルの裏手に到着し、焦るように森へと向かった。
「どこだ……あの部屋は……?!]
上条は何度も辺りを見回し、ついに深い草むらの中にコンクリートの壁を発見した。
「……!」
上条はよろめきながらそれへと駆け寄った。足元の砂塵が跳ね、彼のズボンの裾を汚した。
「祈羽!」
上条は勢いよくドアを開け、中へ大声で呼びかけた。
その時――
上条の目に映ったのは、うとうとと眠りかけている祈羽だった。頭が制御できないほど左右に揺れ、目をわずかに閉じて地面に座り、手足はしっかりと縛られていた。
「大丈夫か?!」
上条は彼女へと駆け寄った。
こちらへ歩いてくる上条を見て、ぼんやりとした祈羽がぼんやりと言った。
「ん……?伏嗣……助けに来てくれたの……?」
「ああ……待たせてしまった……すまない……」
上条は彼女を強く抱きしめ、絶え間なく謝罪の言葉を口にした。
「あなた……きっとすごく大変だったよね……私のためにそんなに傷を負って……ごめんなさい……」
意識が朦朧とした祈羽は目を細め、彼に尋ねた。
「謝るな……お前を一人にして逃げるなんて、俺にできるわけないだろう……」
上条の声は震えていた。
「またお前に会えて……本当によかった……」
そう言うと、上条はゆっくりと祈羽を離した。
彼は立ち上がり、祈羽の背後へ回ると、しゃがみ込み、丁寧に彼女の縄を解き始めた。
「よし、立てるか?」
しばらくして、上条は縄の結び目を解いた。彼は立ち上がり、祈羽に尋ねた。
「うん……多分、大丈夫……」
まどろみから覚めたばかりの祈羽は、よろめきながら立ち上がり、自分の服を整えた。
続けて、彼女は上条を見つめ、ゆっくりと尋ねた。
「伏嗣……今、行くの……?」
「ああ。」
上条は彼女に答えた。
「伏嗣……」
祈羽はよろめきながら彼に近づいてきた。
「ありがとう……」
彼女は上条に抱きつき、手でそっと彼の服をつかんだ。
「大丈夫だ……俺、約束しただろう……」
上条は絶え間なく彼女の髪を撫でながら、そっと腕で抱きしめた。
「あ、そうだ。」
上条は何かを思い出した。祈羽の感謝を受け終えると、彼はポケットから小さな箱を取り出し、それを開け、祈羽に尋ねた。
「祈羽……この符印……どんな術式か知っているか?」
箱の中には、一枚の符印カードが静かに横たわっていた。
「ん……?」
祈羽は上条の手にある箱を見つめ、角度を変えて観察した後、顔を上げて上条にゆっくりと説明した。
「これは……蘇生魔法……すごく強力な治療術式だと思っていい……呪い以外なら何でも治せる……」
「そうか……」
上条は思案するように言った。
その後、彼は祈羽を見つめ、言った。
「もう一つ、病に苦しむ一人の女の子を助けに行くんだが、一緒に来てくれるか?」
「うん……はあ……ああ……」
祈羽はうなずき、眠そうな目尻をこすり、伸びをした。彼女は続けて答えた。
「伏嗣が行くところなら……どこにでもついていく……」
「ああ、行こう。」
上条は祈羽の手を取ると、ドアの外へと歩き出した。
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「?」
ブレストが目を開けると、ドアの外に現れた上条と祈羽の姿があった。彼の心に疑念が浮かんだ。
「お前……なぜここに戻ってきた?」
上条はブレストへと歩み寄りながら、手にした符印カードを掲げ、彼の前に見せて、言った。
「これは蘇生魔法の符印だ。呪い以外のどんな病でも治せる。俺がここに来たのは、お前を助けられることを伝えるためだ。」
「呪い以外の……どんな病でも?!」
ブレストは一語一語復唱し、驚愕して上条を見つめた。
「ああ。」
ブレストは慌てて地面から立ち上がり、上条に言った。
「俺はお前の敵だ、少なくともついさっきまではな!なぜそこまでする?!お前に何の得がある?!この後も俺がお前を追い続けるかもしれないのに、恐くないのか?」
「うーん……理由を言うなら、」
上条は斜め上を見上げ、考え込むような様子を見せた後、ブレストに力強く言った。
「たぶん、俺の信念を貫くためだ。」
「俺は、敵味方問わず、誰もが生きて帰ることを望んでいる。」
長く続いた霧がようやく月光に横切られ、深く沈んだ大地が再び照らされた。
その時、大切にすべき何かが、ひそかに復活しつつあった。