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わたしは何者?③

緊張感から、変な声が出そうになるのをグッと我慢する。周囲は静かに見守る体制のようだった。

ゆっくりと石板に手の平をつける。

ひんやりとするかと思いきや、少し暖かく、温熱カイロのようだった。


次の瞬間、グッと何かが引き込まれるような感覚に陥ると、グラリと体が揺れた。

前のめりになったところを両サイドから支える手が伸びて、危うく石板に衝突しそうなところを免れた。

支えてくれたのは、アッシュとカイルアだった。こちらを心配そうに見つめる二人に笑いかけると体を起こした。少しクラリと眩暈がしたが、手は石板に当てたままで背筋を伸ばした。


しばらくするとキン!と硬い音が鳴るとミゲル神殿長は頷き、手を離すように言った。

言われた通りにすると石板から文字が浮かび上がり、ゲームのステータス画面の様に一覧が現れた。

淡い緑色で名前から始まり、つらつらと書かれていた。


名前 ???

年齢 12歳

種族 鳥種???

体力 300

魔力 ???

属性 ???

備考 還り人、与える者


え、なんかクエスチョンマーク多くない?

名無しなんだ、前の世界からの名前はないんだなぁ。


それとなく異世界転移、転生の期待があったため、魔力はクエスチョン、属性すらもクエスチョン。あまりのないないにスン、としてしまう。


アッシュ達は何かを考えるようにステータス画面を見ていたが、ミゲル神殿長がこちらを見てまたニッコリ笑う。

「まだ名前が決まっていなかったのですな。自分で決める者もいるが、君はどうされる?」

尋ねられたものの戸惑ってしまい、ましてやこの異世界の西洋風の名前などすぐに思い付く筈もない。


「良ければ神殿から授けることも出来ますぞ?」

「あ、じゃあそれでお願いしたいです。なんだかこの世界に未だピンと来なくて」

神殿長と二人で話しているが、まだ彼らはステータス画面とにらめっこしていた。


彼らを放置して、ミゲル神殿長が執務机の上から一冊の本を取ると、小さな声で祈りのような言葉を呟く。

すると淡い光が本を包むと、勝手にパラパラとページが捲れていった。


それにびっくりして凝視していると、開かれたページを私に見せてくれた。

「これは神殿に名を願いにきた親子に、神官が祝福として神に祈るとその子に相応しい名前が現れるのですぞ」


見せてくれたページには『ルティア・月の祝福』と書かれていた。なんと!この世界の文字が読めてる!!


「字が読めるんですけど……」

驚きに心の声がもれる。

それに可笑しそうにミゲル神殿長が笑った。

「それも還り人に与えられた特権みたいなものですな。聖霊樹の下でしばらく過ごしていたでしょう?その時に何かを食べませんでしたか?」

「あ、は、はい」


あの桃モドキか!


「聖霊樹には不思議な力がありましてね、還り人を助けてくれますのじゃ。言語能力もその一つ。本来ならこちらの世界で過ごしていた筈なのに、彷徨わさせてしまった魂への神の慈悲と言われております」

ミゲル神殿長は、見せてくれていた本を閉じるとそれを膝の上に置きこちらを見る。そして視線をステータス画面に向けた。

するとステータス画面の名前の部分に『ルティア』と組み込まれていた。


「わぁ……」


スゴい、もう新情報が入力された!

あ、でも種族は鳥じゃないのかな?なぜ横に?マークが。


「神殿長さま、どうして種族が鳥になっているのに?マークがあるのでしょう?」

首を傾げてミゲル神殿長に問うと一つ頷いて口を開く。

「鳥種の中には様々な種族が居ましてな、おそらくまだルティア殿はこちらの世界では力を使っていないため、判別不可なのかもしれませんな」

初めてこちらの名前で呼ばれたが、それにまだ慣れずまずは質問をする。

「え?そうなんですか?……じゃあ他の還り人達の判定もこんな感じなんですか?」

ちょっと不安になって尋ねるとミゲル神殿長は両手を組み少し思案するように唸った。


「魔力未使用による判別不可はまあ一例ですな。鳥種は少し特殊でしてな、判別に時間がかかる事もあるのですよ」

「特殊?」

それに頷き返すとミゲル神殿長は少し遠くを見た。

「現在存在する鳥類の数は約一万近く。大きく分けて古顎、新顎の二種類ですな。ただ、獣人である鳥種は数十。そのなかでも特殊と言われるのが絶滅したと言われる……」


「「「天族」」」


ミゲル神殿長の言葉に重ねるように、今まで沈黙していた三人の声が重なった。

びっくりして三人を見るとどこか深刻そうな顔を揃ってしていた。

それに大きく頷いたミゲル神殿長は視線を私に戻した。


「還り人が持つと言われる魔力容量を考えると、その可能性も高いと考えられますな。また、鳥種の還り人の発現率は低いのもあり、その可能性を示唆してますなぁ……」

柔らかい笑みを浮かべつつも、どこか思案深い表情でミゲル神殿長は私を見て、三人に視線をやった。


少しの沈黙のあと、アッシュが口を開いた。

「アムラから、彼女ルティアの羽根の事は聞いていた」

自然にアッシュが私の新しい名前を声に出すと、少しドキリとした。

「そうでしたか」

ミゲル神殿長はゆっくり頷くとアッシュに視線を向ける。

「ミゲル神殿長が言ったように、彼女はまだ魔力を使用していない。還り人は魔力を全身に通し表すことで、この世界に存在を定着させる」

「そうですな」

相づちをミゲル神殿長が打つ。


「そうすることで、おそらく、ルティアの種族が判明する」

そうアッシュが言うと、四人の視線が一気にこちらに向いた。鋭くはないが、成人男性四人から突然視線を向けられると体がびくついてしまう。


思わず体がソファの背面へ引いてしまい、ゾクリと背中を震わす。

「ああ、ルティア殿、そう畏れなさるな。天族と言っても遥か昔に空に天空島という居住区を持っていた事からその名が付いたのと、癒しの力がどの獣人よりも優れていたからと言われておるのじゃ。ただその鳥類は限られておってな、そして癒しの力を持つため希少。また、何故か彼らは天空島に住んでいた。そこから天に住まう鳥族、ということで天族と呼ばれるようになったのだよ」

そこで一区切りすると、ミゲル神殿長は悲しそうに微笑んだ。


「天族と呼ばれた者達は、美しい羽根を持ち『全て』においてその存在が癒しとなったのもあり、遥か昔から、よき隣人であった彼らは数百年前、悪意を持つ者達に乱獲され、絶滅したと言われておる」

ゾワッとして両腕で体を抱き締めると、こちらに視線を向けていた三人の視線が気遣うものに変わる。


「乱獲を続けた者達は、他の善意ある獣人達によって討伐され処刑された。天空島はそのまま空に残り、獣人達はその島へは滅多なことでは近寄らないように暗黙の協定が出来た。討伐後、確認に行った鳥族の者が天族の存在が確認できないことを最後に、絶滅したのではないかと伝えられたのじゃよ」

悲痛な表情のミゲル神殿は静かに瞳を閉じると祈るように両手を握りしめた。


「特殊能力をもつが故の事象だね。彼らは普通に生きて、その力を周囲のために良かれと思って使っていただけなのにね」

ポツリとキーファがどこか寂しさと虚しさを含むように呟いた。


コワッ。内容的に凄くシリアスーな感じ。そして私が天族とほぼ確定しているかのような話しぶり……。

異世界転移(転生)して第二の人生、魔法ありもふもふありの楽しそうなスローライフが送れそう!と思ってたのになぁ。

なんちゃって鳥人間だったから、大したことないって高を括っていたら、フタを開ければ、なんてこった!

自分の事なのに他人事の様に感じるのは、まだこの世界に馴染めてないかなかなぁ……。

やっぱりどの世界にも残酷で、悲しい歴史があるんだ。戦争や争いのない世界って滅多にないよね。


とりあえず、私は鳥族と言うことが判明しましたさ。




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