記憶売買
個々人の記憶が売買できるようになった。
しかも、けっこうリーズナブルな価格で。
ただ、専用のヘッドセットは非常に高額である。
そのため、基本的には試写室のような店舗で、直接脳からアップロード、またはダウンロードを行うというのが、一般的スタイルとなっている。
私は、自身の百件もの風俗体験の記憶部分を下取りに出し、現役東大生の大学受験当時の記憶をダウンロードすることにした。進学校に通っていた別の高校生の勉強の記憶も、先にインストール済なので、おそらく東大生の勉強の記憶に対する「理解」についても、そう問題はないだろう。
入店して1時間後、私は東大生の1年分の受験勉強の記憶のダウンロードを完了していた。
完全に記憶が定着するまでには、この「記憶酔い」が醒めるのを待つ必要があり、おそらく1週間近くは、私は使い物にはならないだろう。
しかし、それがなんだというのだ。これで私が中卒であるということを馬鹿に出来る者は、もう職場からはいなくなるに違いない。
ちなみに私の体験の記憶は、108万円で買い取られ、東大生の受験勉強の記憶のダウンロードは、わずか3千円というお値段だった。
前者は、主に私の特殊性癖全開の会員制の秘密倶楽部での記憶であるため、好事家たちから常に需要のあるもの(こんなもん、いくらあってもええからね)らしく高値で。逆に東大生の受験勉強の記憶は、供給過多のきらいもあり、ヘッドセットの1時間あたりの使用利用料金2500円に、コンテンツ料金500円を足した程度のものでしかなかった。
私は、浮いた差額で「記憶のクリーニングサービス」も受けることにした。
今回下取りに出した記憶の中でも、最高だったベスト5のお店での記憶の消去を。
クリーニング代金は、10万8千円とけっこう法外な価格だったが、それらの記憶を消すことにより、また新たな気持ちで、ベスト5の店舗を楽しめるという寸法だ。
5店舗の再チャレンジで、残金のほぼすべてを使い切ることになりそうだが、それがなんだというのだ。今から待ち遠しくて仕方がない。
トラウマを消すのにも便利なサービスではあるが、まあ、良い世の中になったものである。
ワンアイデアで書き始めたら、風俗店が出てきたあたりから、何だこれになった。
誰に需要あるねん、こんな話(苦笑)。