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第3話 勇者誕生

 俺を殺せなかった場合、昨日の試験そのものをなかったことにしてマッシュを勇者として指名するかと思ったが。全員貴族とはいえ、流石にそこまでの横暴は国といえどできなかったか。


 俺は謁見の間で国王と対面していた。


「新たなる勇者よ。前へ」


 俺は国王の前で片膝をつく。


「名はなんという」


「スペルビア・ダークロードです」


 俺の名を聞いて、勇者の誕生を見に来ていた貴族たちがざわざわと騒ぎ出す。


「始まりの魔王の名前ではないか」


「随分と野蛮な名を付ける親がいたものだ」


「捨て子のスラム上がりだそうですよ」


「箔を付けるために自分で名乗っているだけでしょう」


「だとしても趣味が悪い」


 言いたい放題だが、人族から見た魔王なんてそんなものだろう。


「では、早速聖剣を引き抜き、勇者であることを証明せよ」


 そこで俺は気づいた。普通は式典より先に聖剣を抜かせるのではないかと。式典までやっているが、聖剣が抜けない可能性もあるのではないか。


「聖剣の安置されている場所までご案内いたします」


 メイドが俺を聖剣の安置所まで連れて行くというので、《読心》の魔法でメイドの心を読む。


(どうせこんなスラム上がりには高貴な聖剣は抜けないわ。ふふふ、心が完全に折れるのが楽しみね)


 なるほど。今まで王侯貴族の中から勇者を輩出してきたから、王侯貴族しか勇者になれないと勘違いしているのか。


 まあ、時間が経てばそう勘違いする者もいるか。


 そして、俺が聖剣を抜けず、国王が「やはりスラム上がりには高貴な聖剣は抜けないようだ」と笑い話として締めくくる。といったところか。


 証人として、式典に招かれた王侯貴族たちも着いてくるらしい。


 やがて着いたのは王城の中庭だ。確かに中心に石壇に突き刺さった聖剣がある。この王城は、聖剣を中心に建てられているということか。


 さて、どうするか。もし、聖剣が単純に力量を測って合否を選別しているのだとしたら、別に問題はない。何も細工しなくても問題なく抜けるだろう。


 だが、例えば魂や心の奇麗なものでないと抜けない。とかだとすると、俺の魂は敵対している魔族のものだ。聖剣が抜けるとは思えない。


 仕方ない。前世のコレクションは使わないつもりだったが、少々ズルをしよう。


「手袋をしてもいいか?」


「いい心がけです」


 メイドの言った「いい心がけ」というのは恐らく「お前のようなスラム上がりが聖剣に素手で触れるなんて恐れ多い」といったところだろうか。


 まあいい。そう思ってくれた方が都合がいい。


おれは懐に手を突っ込むふりをして《召喚》の魔法を使い、手袋を取り出す。


白と黄色を基調とした手袋だ。これは魔族にとって毒になる聖剣から放たれている力「聖力」に魔族でも触れられるようにと開発した手袋だ。


右手にはめ、聖剣の柄を握る。クスクスとあざ笑うような眼を向けてくる連中に配慮して、一瞬で抜いてやろう。


「よいしょっと」


 ポンッと音を立てそうな勢いで聖剣が抜けた。


「さてと。式典は終わりか? それとも続きがあるのか?」


「あえ、えっと……」


 俺を案内してきたメイドは困惑して言葉が出ないようだ。


「認めん、認めんぞ!」


 声を張り上げたのは、知らない貴族だ。だが、他の貴族が道を譲っているところを見ると、中々上位の貴族のようだな。


「勇者に相応しいのはマッシュだ! 王よ、今からでも息子を聖剣に挑戦させてくれ‼」


 どうやらマッシュの父親のようだ。取り巻きはともかく、マッシュ本人はそこそこまともな人間だったはずだがな。


「父上、私はスペルビアに勇者試験で敗北した身です。政権に挑戦する資格がありません」


 マッシュが父親を宥めているが、父親はまだ何か喚いている。


「仕方あるまい。聖剣に認められた以上、スペルビア・ダークロードを勇者と認める」


 王様は渋々といった感じだが、俺を認める方針のようだ。




 謁見の間に戻り、式典の続きをする。


「これが今代の最高の職人が作った聖剣の鞘だ。受け取るがよい」


 メイドが盆に乗せた鞘を持ってきた。茶色の革に勇者の聖剣を引き抜く一場面を模した彫り物がされている。


「そしてこれが支度金だ。この金で装備を整えよ」


 メイドが盆に乗せた革袋を持ってきた。正直、そこまで中身が入っているようには見えない。


「これで式典は終わりだ。魔王討伐を始まりの魔王の名を持つ者に任せるとはな」


 やはり王様も思うところがあるらしい。だがまあ、認めてくれるなら問題はない。




「ねえルビア。この後どうするの?」


 式典が終わり、俺は王城から追い出されるようにして出てきた。


「とりあえず、支度金が幾らもらえているか数える」


「何で? ルビアは魔法で金貨作れるじゃない」


「支度金の金額によって、俺への期待度が分かる」


 革袋をひっくり返し、中身を手の中に出す。中には十枚の金貨が入っていた。


十枚。正直、市民権といい勝負だ。勇者試験を受けるために出した金額を考えれば赤字だ。


 そんなことを思いながら歩いていると、前方に人垣ができていることに気づいた。


「何だ? あれは」


「だれかがいじめられてる!」


 エルマが人垣の中に突っ込んでいった。人垣で何も見えないのに何が行われているかわかるとは。スラム育ちだからか、人の悪意に敏感なのかもしれない。


「無茶をする。シスターはここで待っていてくれ」


 俺は人の足を避けて四つん這いで人垣の中に入っていった。

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