誰が夏を殺したんだ?
誰が夏を殺したんだ?
熟れた柑橘のように濃厚な太陽から放たれる、瑞々しい陽の光。
それが髪を熱し、頬を焼き、瞼の裏を黄色く染める。
そんな夏を。
誰が夏を殺したんだ?
青空と新緑、入道雲、どれも色濃く、物々しい。
その狭間に立つ存在が、とても小さく感じてくる。
そんな夏を。
誰が夏を殺したんだ?
暑さで広げたTシャツの襟に、潜り込んでくる湿った風。
蒸発した汗を纏って、遠くの草原へと消えていく。
そんな夏を。
誰が夏を殺したんだ?
世界を埋め尽くしていく、様々な生物が生き抜く音。
たくさんの音が混ざり合い、音があるのかすらわからなくなる。
そんな夏を。
誰が夏を殺したんだ?
熱せられた葉の匂い、水田に溜まる泥の匂い、腐葉土の匂い。
排気ガスの匂い、湿って乾いていくアスファルトの匂い、隣を歩く君の制汗剤の匂い。
そんな夏を。
打ち合わせまでの数分間、クーラーを効かせた車内で、プレゼンのための書類を眺める。
外は夏、にも関わらず、光も景色も風も音も匂いも、何一つ感じられない。
誰が夏を殺したんだ?
それはきっと、俺自身だ。
あの頃の夏を生かすも殺すも、俺自身に他ならない。