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勇気無き村に死を!  作者: 北田 龍一


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26/28

事件の結末

 火の手はすぐに広がり、竜人娘の家を包み込む。炎は勢いよく空を覆いつくし、黒煙を上げ大地を焼いた。様々な物が焦げる臭いが漂い、地上の三名はせき込んでいる。

 上空のハーピィ娘も煙たそうだが、竜人娘が逃げる可能性も考慮し、上空からしっかり監視している。誰も逃げ出す様子はなく、飛び火に注意しつつ家が焼け落ちるのを待った。

 支柱を失い、がらがらと音を立てて崩れる住居。灰と炎が舞う光景に、ひやりとする場面もあったが……二次被害は未然に防がれた。焼け野原になったのは、竜人娘の家のみ。

 特に抵抗は見られない。まさか逃げられたのか? 四人が警戒しながら、燻る家の跡地を探す。程なくして見つかったのは、激しく焼けて損傷した『二人分』の死体だ。


「み、み、見つけた! みんな! 来て!」


 悪魔が手を上げ、村人たちを呼びつける。二人分の死骸を見て、村人たちは意見を出し始めた。


「二人分って事は……竜人娘と若者かの?」

「こうも真っ黒こげだと、誰かまでは分からんが……」

「他に人なんていないじゃん。やっぱり、若者君が愛を叫んだけど、竜人娘の心に届かなかった……あぁ悲劇!」


 なんだか変なテンションで、自分の世界に入るハーピィ娘。人の色恋に、ここまで首を突っ込む性質とは思わなかったが……ここで悪魔が疑問を発する。


「で、でも……それなら竜人娘は生きていたんじゃ……? 火をつけられて黒コゲになる前に、家から出てきそうだけど……」

「確かにのぅ。仮に助かる算段があっても、家の全焼は釣り合わんじゃろうし」


 生きていたなら、その通りだろう。竜人娘が行動に移る、動機も時間も十分にあった。そろそろ頃合いと見て、村長は焦げた死体の近くに転がる、小さな銀色の鍵を手に取った。


「なんだこれは? どこかの鍵か?」

「んん? 竜人娘の物?」

「分からん。だが竜人娘の物だとして、もう開ける物なんざ無さそうだけどな」


 しばし見つめている村長に、ドワーフがこんな事を口にした。


「若者の持ち物かもしれん。家の鍵かもしれんのぅ」

「そんな都合のいい事あるかなぁ?」

「他にやる事もないし……そ、村長。試してみたら?」

「……事件の元凶が滅びたのは間違いないだろう。時間もあるし、やってみるか」


 念のため火をつけた住居へ、全員で水をかけて消火を済ませる。その後はもう一度若者の家へ向かい、その入り口に銀色の鍵を差し込む。何の抵抗もなく回り、若者の家は村人たちを出迎えた。

 質素なテーブルの上に、整理された紙の山が置かれている。ドワーフが最初に目を通すと、見る見るうちに顔色が変わっていった。


「ど、ど、どうした、の?」

「若いのが、遺書を……」

「あぁ、二日目だっけ? に言っていたよね。念のため書いていたって。それがどうしたの?」

「それが……遺書には、違いないんじゃが……」


 言葉は呻くように、嘆くように、小さく震えた唇から紡ぎ出された。全員に目くばせした後、村長が内容の解読に努める。一通り読み終えた後、次は悪魔へ。最後はハーピィ娘にも受け渡し――内容を全員で共有した。


「え? え? えぇっ⁈」

「若者が……犯人じゃったと……⁉」

「そ、そ、そんな! じゃ、じゃあ……竜人娘さん、は――」

「……無実だった、と言う事になる」

「わ、わしらはなんて事を! い、いやしかし……疑わしかったのは本当の事じゃし……」

「んー……」


 二日目の昼――『若者は遺書を書いていた』と証言している。確かにそれは事実なのだが、内容は想像からかけ離れていた。

 村側に自らの正体……『勇気無き村に死を!』の犯人とバレた時、何らかの事故によって死亡した場合に備え『自分こそが犯人である』と書き残していたらしい。

 三年前、あるいはそれより前から、竜人娘に感情を寄せていた事。

 しかし村八分によって、竜人娘の心は深く傷つき、そして若者の心にも影を落としていた事。

 それだけの心的外傷トラウマを負わせたにも関わらず、村人たちは平気な顔をして生きている。自分たちから奪った平穏を、済ましたつらで享受している。そのことがどうしても許せなかった。

 自らの罪から目を背け、告白する勇気も、過ちを正す勇気もない村に死を与えたかった――

 つらつらと語られる犯行動機は、その場にいる全員の感情を揺さぶる。村長だけは既に対面しているものの、改めて読むと辛い部分もあった。

 そんな中――たった一人だけ、目を輝かせている村人がいた。


「うーんこの……愛憎入り混じった香ばしい動機だねぇ!」

「妙にテンション高いのぅ……」

「な、なんだか嬉しそう……だね?」

「もちろん! だってこれ、最高の戯曲になるじゃん!」


 ハーピィ娘は、かなり独特な感性をしているらしい。それとも、村に所属している意識が薄いからだろうか? ある種無神経に、自分の感情のまま、彼女は堂々とこの悲劇を締めくくった。


「だってさ、だってさ! 真犯人は若者で、竜人娘は人生にいい所無しの悲劇のヒロインじゃん! 無理解な村人! 燃え上がる火の手! 逃げ道が無い中……絶望と諦観で――あぁ!」

「ダメだコイツ。早く何とかしないと……」

「でも……事実、だよね。悪い事、したね」

「そうだな……悪い方へ流されるような状況があった。避けようのない部分もあった。だが……三年前に村八分を起こさなければ。起きたにしても、何らかのケアをしていれば。ここまで事態がこじれる前に、若いのや竜人娘を説得できていれば……」

「もう、遅い事じゃが……わしら村人は、深く反省し、二度と同じことが起きんようにせんとの……」


 今更ながらの反省。遅すぎた後悔を抱きながら、生き残った村人たちは若者の家を去る。全員が家に帰り、一人きりになった村長は――おおよそ予定通りに終えた事に、人知れず安堵を漏らした。

 と、言う訳で……狼役は植物オタク兄貴、村の若者でした。

 ただ、村の若者は……厳密には人狼を意識して書いていません。完全に同じ立ち回りをする役職はありませんが、意識していた役は『終末ヤンデレ』という、かなりマイナーな役職ですね。


 役職としては――『ゲーム開始時に、終末ヤンデレ役の人は、参加者から一名を選択し、選ばれた人は終末ヤンデレの思い人』となります。

 この段階では『恋人陣営』が近いですね。村と狼、どちらかの陣営が勝利条件を満たした時、二人の恋人が生き残ると勝利扱いになる特殊陣営。しかもこれ、他の役職と被っているケースがあり、狼と村人。占い師や狩人と複合するケースがあり、これが起こると村がカオス状態になる事も珍しくありません。

『終末ヤンデレ』も最初はこれに近い状態で……『終末ヤンデレ』と『思い人』が生き残るのが『一つ目の勝利条件』です。


 じゃあ二つ目って何なの? とお考えでしょう。実は『終末ヤンデレ』は、状況によって勝利条件が変化するのです。

 普通の恋人陣営は、恋人の片方が死亡すると……後追いでもう片方も死亡します。ですが『終末ヤンデレ』の場合――思い人が死亡がすると覚醒し、村、人狼問わず毎晩一人殺害が可能になります。そして『自分以外を皆殺しにする事が勝利条件』に変更されるのです。


 何がマズいって、これ人狼陣営の襲撃と並列で死んでいくんですよ。つまり『一晩で二人死ぬ』んです。幸い、終末ヤンデレの思い人が死亡すると『終末ヤンデレが覚醒しました』と通知が出るので、知らず知らず覚醒した……って事はありません。

 ですので、今回若者は『狼かつ終末ヤンデレ』で、思い人は竜人娘だった……って感じですかね。

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