決戦の対話
事件の概要を確信した村長は……いよいよ最後の決戦に挑まんとする。自衛用のメイスを手に、村長は一人竜人娘の家に向かった。
今日この会談の成果によって……村の未来は決定する。場合によっては、村長自身の命もかかっている。緊張し、肩を張り、呼吸を整えいざ決戦の地へ――
「竜人娘……犠牲者が出た」
「そう、ですか。誰ですか?」
「植物オタク兄貴……犯人の一人だ。状況からして、自殺とは考えにくい。恐らくもう一人の犯人が殺ったと考えられる。そして……村の話し合いでは、君が最も疑わしいと意見が出た」
「……」
「面と向かって言うのも気が引けるが……正直、私個人としては、最初から君が犯人の線は切っていた。こんな分かりやすく不審な行動を取る輩が、裏で糸を引いているのはあり得ない。しかし現実問題として……君に対する不信感を、俺一人で拭うのは不可能だ。何とか今日、荒っぽい手が起こる芽は摘んだ。しかし長期的に見て、止め続けるのは難しい。仮に止まったとしても、今回の行動を引き金に村八分が再発しかねない」
竜人娘から返答はない。きっと、流れを予想していない訳じゃない。自業自得と村人は言ったが、村長はここで核心に切り込んだ。
「君は……村と話さない理由を、村が信用できないからと言ったな? 村八分が原因だとも」
「……はい。言いました」
「恐らく君は、嘘はついていない。ただし――それだけが理由じゃない。村を信用できないと思っても、同時に君は『弁明しないと事態が悪化する』現実も想像できたはずだ。過去の村八分の経験から」
「……」
沈黙は、妄想めいた悪評を育てかねない。いわれのない誹謗中傷は、説明や釈明を全くしない事で起こり得る。喋った所でどうにもならない事もあるが、全く根拠のない馬鹿馬鹿しい妄想を、刈り取るぐらいは出来るだろう。
――そのリスクを薄々知りながら、会議に参加しなかった理由は一つしかない。腰を低くして、息を鋭く小さく吐き、言葉を刃物の様に投げかけた。
「にも関わらず、君は沈黙を貫いた。いや、貫くしかなかった」
「村長、あなたは……」
「回りくどい言い方はこれでしまいにしよう――竜人娘、君は犯人を知っていたな?」
空気が固まった。呼吸が止まるかのような気配が、扉越しに伝わった。あぁ、やはりそうだったかと、村長は現実を受け入れつつ、推測を確信に変えていく。
「タイミングまでは分からんが……事件が起きる前に犯人から、直接伝えられたんだろう? 張り紙の前か、長老の殺人の前かは分からんが……ともかく、今も生きている犯人から『これから事件を起こす』と伝えられたんだ。周囲の村人の怯えようも見るに……『君には手を出さない』と、安心させる意図もあったかもしれん。ともかく君は犯人から接触された。そうだな?」
竜人娘の吐息は、悲しみに満ちていた。村長の糾弾に怯えているのか、自分が告白する勇気の無さを嘆いているのか……いや、止そう。村八分の件を思い出し、村長は彼女の心を測り切れないのだと、自らを戒めた。
「……何が正解だったのか、今となっては誰にも分からん。君が早い段階で、犯人を告発したとしても……逆上して君が殺される危険性もあった。だが、展開次第では……死ぬ人間を減らせたのかもしれん。それを責める気は無いよ。
一つはっきりしているのは、君は犯人をけしかけた訳じゃない。血気盛んな犯人が、君のためにと先走った。だが竜人娘、君はそこまでの事を望んでいなかった。村八分を許したかは知らないが……少なくても、報復に走る気は無かった」
『勇気無き村に死を!』と、断罪を権利と振りかざすのなら、彼女も村の合議に参加しているはずだ。出来るだけ疑われないように振る舞い、その裏で夜間に復讐すべき村人を殺害する。いくら彼女が力持ちだとしても、殺人犯と特定されたり、疑われれば追手が来るかもしれない。
村に疑心暗鬼の毒を撒きながら、高笑いできるような立ち回りが上策。だが、現実はそうならなかった。彼女は今回難しい立場であり、そして悲しいほど不器用な人柄だった。
「君は今回……どう行動しても、どこかに不義理が生じるような立場になってしまった。犯人は君を想って行動したがために……どうあがいても、今回の事件の一端を担う事になってしまった。かといって、今までの平穏を受け入れていた君に、犯人の肩入れをする覚悟もない。何より無理だったんだろう? 『村人の中に紛れ込んでいる、人畜無害な演技をする犯人を、見て見ぬふりをする』のが……」
最初から犯人、あるいは共犯者ならともかく……自分が無実の村人なのに、殺人犯を庇えるはずがない。いくら竜人娘を想ってだと言われても……いや、そんな言葉を投げかけられたからこそ、ますます誰にも合わせる顔が無かったのだ。
きっとどこかで、自分が相手か、必ず不自然な所が出る。歪みが出れば疑われ、竜人娘が真っ先に死ぬ未来もあり得た。黙っているしかなかった。引きこもるしかなかったのだ。村も殺人犯にも、信じ切れず踏み込めない彼女には……
だから、彼女は家に引きこもった。演じ切る自信も無ければ、殺人犯に手を貸す事も出来ず……村への不信も強かった彼女には、これ以外の選択肢はなかったのだろう。
「巻き込まれた不運は認める。だが君はどう転んでも、もう村で平穏に暮らせない。前回の村八分のトラウマ、今回の事件での複雑な心象、未来に再発しうる村八分の危険性……すべての面から見て、君は転居すべきだろう」
「……でも、それは」
「あぁ、分かっている。もちろん犯人とも決着をつけるさ。――今も、聞き耳を立てているだろうからな」
竜人娘がギョッとする。どこかから微かに、草が揺れる音がする。
――村長は理解していた。すべて分かった上で彼はここに来ていた。『犯人は竜人娘と自分との会話を、必ず聞きに来る』と予測していたのだ。
「もうすべて分かっているぞ。随分と捻くれた表現じゃないか――」
次回より、解答編に入ります! 推理を深めたい方は、ここで一度読むのを控えると良いでしょう。




