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勇気無き村に死を!  作者: 北田 龍一


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追い詰めた相手

 標本整理で怪我をした……そう主張する植物オタクへ、村長が詰め寄る。彼は狼女のダイイングメッセージを受け取り、負傷は彼女が噛んで負わせたのだと。

 もし標本整理であれば、重量物による打撲か……ガラス瓶や、標本を保護するガラスが割れた事による切り傷になる。オタク兄貴が主張する通りなら、だが。

 一方、村長の主張する通りであれば……腕に残っているのは、獣の噛み跡となる。昨晩狼女を襲撃し、その際彼女が決死の反撃により……この者こそが殺人鬼であるという、動かぬ証拠が刻まれている。

 ――無実の村人であるなら、素直に傷を見せるだろう。だが血塗られた殺人鬼であれば、傷を見せるわけにはいかない。しかしこうして、広間で村人が集まる中では、逃げる事も断る事も不可能。全員の視線を一身に受けたオタク兄貴は――高笑いと共に、堂々と右腕をまくり、包帯を解いた。

 腕に残る傷跡は――『噛み傷』だった。


「全く……どこまでも忌々しい女ですよ」


 村を騒がせていた『犯人』――長老を殺し、噂好きのオバチャンを殺し、狼女をも手にかけた犯人は、やっとその正体を見せた。村長を除く全員が、思わず一歩下がる中……村長だけは問いをやめない。


「何故だ? 何故こんな事件を起こした? 原因は村八分か?」


『勇気無き村に死を!』の真意を、村長は問わずにはいられなかった。植物オタク兄貴を――否、犯人を最終的に裁くにしても、どのような処遇にするにしても、この村で生きる一人の人間として、殺人の動機を知らずに、葬る事は出来ない。誠実に迫る村長の問いを、殺人鬼は嘲笑う。


「村八分? 直接の原因ではありませんが……そうですね、唾棄すべき素養な事は確かですな」

「なんだと?」

「長老も、オバチャンも、偏見と雰囲気で新たなモノを取り込めない……非合理的で、愚かしい連中でした。それが殺人の動機ですよ」


 それが動機? いまいちしっくり来ない理由に、村長含め多くの者が顔をしかめる。化けの皮が剥がれた犯人は、胸に溜めた鬱憤をぶちまけた。


「あの馬鹿ども、私が新開発した肥料を撒こうとしたのに……色合いが悪いだの、古い農法が云々かんぬんで、全く聞き入れやしないのです。他にも雑草を周囲に植える事で、作物への被害を減らせる農法も……私は村のためを思ってお教えしたのに……」


 語る植物オタク兄貴の表情には、隠しようのない怒りが滲んでいた。殺人鬼としての顔であり、同時に真摯な植物研究者の顔にも見える。村人たちが沈黙する中、彼の言葉は止まらなかった。


「オバチャンもオバチャンです。村長に金魚のフンの様に付き従うばかりで……根拠の無い偏見を、村中に広めるのだからタチが悪い。古臭く頭の固い連中が、新しい文化も技術も知識も受け入れず……衰退していく村と自分たちを尻目に『昔はよかった』などとほざく! 変化する勇気を持てない村なんぞ、若者に見捨てられ、廃れて死んでいくしかない。でしたら、良いではありませんか。緩やかに死んでいく者たちを、今すぐ滅ぼしてしまっても」


 その主張は、犯行予告の張り紙――『勇気無き村に死を!』の文言に酷似している。あの犯行声明を書いたのは、間違いなくコイツだろう。殺意も憎悪も本物だが、一つ腑に落ちない点があった。


「その二人を殺した理由は……許されないにしても一理ある。だが狼女は? 彼女は聡明な人物だった。ちゃんと話せば……お前の主張や研究成果に、理解を示してくれる相手だったんじゃないのか?」


 村長が問いかけると、オタク兄貴の表情が苦悶に染まった。痛い所を突かれたのか、それとも他の要素だろうか? しばし口ごもった後、ふてくされた態度で言う。


「……そうですね。実際、彼女は良い話し相手でしたよ。平和な頃は……色々と良くしてくれた相手でもありました」

「なら、何故?」

「見られたからですよ。昨晩、外に出て……あなたを殺そうと、夜間遅く出て来たところを。彼女……いえ、あの女、張ってたんです。見張っていたのですよ。私を疑って」


 発言の内容に違和感は薄い。しかし言動の節々に『嘘をついている』気配が滲んでいるように思えてならない。完全な嘘でないにしろ、隠している何かを匂わせた。


「見られた以上、殺すしかない。ですが……はは、流石ですよ。見事に一本取られました。それで? この後私の処遇はどうしますか? このまま大人しく無罪放免? それとも……うさ晴らしでもしますかね?」


 やはり何かを隠している。村人たちは怒りを見せているが、村長は見逃さない。煽って冷静な判断力を失わせようとしている。露骨に嘲る犯人に対し、村長は狼女の証拠を胸にしまいつつ、厳かに裁きを伝えた。


「不満と怒りに任せて、人を殺したらお前と変わらん。確か……長老の家の一角に、猛獣捕縛用の檻があったはずだ。お前をそこにぶち込んで、一時的に拘束する。処遇、罪状、刑罰は……脱出した村人たちが帰還した後に、村全体で裁判を行う! それまでキッチリ反省していろ!」

「……随分と甘い考えですな」

「黙れ」


 村長は――『犯人の発言の本当の意図』を理解している。理解した上で、あえて怒りに任せたように見せている。もちろん、本当に荒々しい感情は湧き上がっているが……まだここで爆発させる訳にはいかない。


「そ、そ、村長……ぼ、ぼくは」

「腹が立つのは分かる。今すぐブン殴りたいのも。だがもう一度言うぞ? それをやったらコイツと変わらん。全員、取り押さえろ。拘束して、牢にブチ込む」

「うッス!」

「腕が鳴るわい!」

「臭いメシの時間だーっ!」


 村人全員で取り囲み、植物オタク兄貴を拘束する。抵抗は全くせず、大人しくお縄につく。やっと犯人を捕らえ、村に平和が戻った……多くの人がそう思っていた。

オタク兄貴、アウトー!

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― 新着の感想 ―
[一言] 元々全員を疑っているのだから、血文字が犯人の名前なら、意外な人物であっても予想外の事実と驚くだろうか。 血文字がオタク以外の名前、アクマ・竜人娘・酒飲みなどならオタク兄貴と一緒に拘束すればよ…
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