告白
「そんな事があったんだねー全然知らなかったよー」
全く空気を読まないハーピィ娘が、他人事目線で言ってのけた。追い詰められたような目つきで悪魔が睨むが、慌てて村長が止めに入る。
「待て待て! キレたくなる気持ちは分かるが、落ち着け!」
「村長……! で、でも……でも……っ!」
「……ハーピィ殿、流石に今のは無神経が過ぎますぞ」
「えー? でも分からないモノは分からないし。引っ越してきたのも一年前だし」
「あー……そうか。本当にお前さんにとっちゃ、他人事になる訳じゃのぅ……」
一瞬騒然となる、村の面々。真剣な罪の告白に、茶々を入れればそうもなろう。これは彼女、ハーピィ娘の気質面の問題もあるが……今、酒飲みドワーフが言った『他人事』の側面も大きい。
「村長が知らなかったんだから、ハーピィのねーちゃんが知らないのも無理ないッスね……村八分が『勇気無き村に死を!』とイコールなら、彼女は多分犯人じゃないと思うッス」
「どうでしょうなぁ……確かに犯行動機に思えますが、まだ確定ではないでしょう? これだけ終始能天気なのも『実は犯人だから、自分が殺される心配を全くしていない』線も残っていますぞ」
「だとしたら、大した役者じゃのぅ……」
議論が活発になるのは良いが、話が村八分から離れている気がする。村長は一旦悪魔を休ませるために、そして情報を得るために他の人物にも村八分について質問した。
「ハーピィは当時いなかったから、知らないで終わり。若いのはよく覚えていない感じか?」
「村の雰囲気が『なんか変だな?』とは感じていたッス。あと両親に『竜人娘とは遊ぶな』とか『目を合わせるな』とか『喋るな』とか言われたのは、なんとなく覚えているッスね」
「変に庇ったり、関係性を持ったら、自分たちも村八分の対象になるかもしれない。だから両親は強く止めたんだろうな……ドワーフと植物オタク兄貴はどうだった? 村八分は事実か? 当時はどうしていた?」
問いかけると、二人とも表情が渋くなる。後ろめたい過去の話を振られれば、すぐに口は開けまい。しかし村八分に対する態度が、今回の事件の引き金かもしれない。だからだろうか……オタク兄貴はしばらく喋れず、先に話したのはドワーフ側だった。
「そうじゃなぁ……長老や前の村長に酒をふるまっていたわい」
「どうして?」
「村の空気が悪いと、酒もマズくなるしのぅ……勢いに任せて、気持ちを吐かせれば、村八分も少しはマシになるかもしれん。そう思ったが……むしろ、悪酔いさせてしまったの……」
「……何かあったのか?」
「竜人娘の母親……あぁ、普通の人間じゃったけど、前の村長が酒の勢いで……」
「……………………」
恐らく……いや間違いなく、致命的な事件があったのだろう。確か三年前に亡くなったと認識しているが……止そう。そこまで追求していたら、今の事件に手が回らなくなる。気を取り直してオタク兄貴に目を向けると、彼は軽く肩を竦めた。
「私は……村の人々の行動が理性的ではないと、馬鹿馬鹿しいと思っておりましたぞ。そんな時間と暇があるのでしたら、かわいいかわいい植物たちを、じっくり舐め回す方が有意義です」
「…………あれ? 舐め回すように見るんじゃなくて? 本当に舐め回すの?」
「愚問ですな! 肉厚な葉や外敵から身を守る棘! 柔らかくも美しく咲き誇る花! 循環を担う瑞々しくも固い茎! 繊細に地中に広がる隠された根! そのすべてを舌で味わい尽くしてこそですぞ!」
「へ、へんたいだーっ⁉」
……研究の方法は自由だし、探求の方針も個々人に依る。それで迷惑もかけてないから、別に何も言う事は無いが……村長は、ちょっと引いた。どうやら村八分には無関心だったようだが……
張りつめっぱなしの悪魔も、少しだけ気が緩んだようだ。ここから追い込むのは申し訳なく思うが……ここから彼を追い込まねばならない。鬱屈とした気持ちを隠しつつ、村長は悪魔から見た村八分を尋ねた。
「村八分を受けたのは……いや、それに近い状態になったのは?」
「ぼ、ぼくと、竜人娘の家族……母親と今いる娘さん、です」
「父親は……竜種の誰かだろうから、何か事情があって村にはいない……もし父親が存命なら、抑止力になったり、今頃娘を村から遠ざけているだろうし」
「せ、戦争で、亡くなった……らしい、です」
「どうして、ご存じなのですか?」
オタク兄貴が問いかけると、悪魔の男はいよいよ顔を青くした。しばらくの沈黙は、彼の中にある罪を自覚させ、その懺悔を促しているのだろう。頭を抱えて、地面にへたりこんで、ここにいない誰かへ向け告白した。
「村八分が、始まる前は……ぼくも、同じ魔族だからと、仲良く、していて。で、でも……村八分が、始まったら……ぼくは、ぼくも、危うい立場になったから、だから、ぼくも、村、八分に、加わって……」
そこから先は、言葉にならなかった。
村を上げた迫害。孤立無援の環境……のけ者にされる恐怖から、近い種族、近い間からの相手を裏切った……
彼が終始臆病だったのは、心の奥深くで罪を自覚していたから……なのかもしれない。村人に怯え、罪に怯え、そして過去の己の過ちと報復に怯え……これでは、引っ込み思案にならない方が無理と言うものだ。
多くの者が同情を寄せる中、厳しい言葉を向けるのはオタク兄貴だ。
「となれば……あなたが、今回の事件の犯人なのでは?」
「何、言って……」
「他に誰が犯人と言うのです? 村八分の恨みを溜め、今回の報復行動に走った。違いますか?」
「違う。違うよ! そんな事するぐらいなら……どこか、遠くに逃げて忘れたいよ。でも無理なんだ。どんな所に逃げても、ふとした拍子に思い出すんだ。自分がやったことを、自分のせいで、竜人娘の母親を……深く深く、絶望させてしまった事を……」
「ですから、それが動機なのでしょう⁉ いい加減、観念したらどうなのです⁉」
強い声色で迫る相手に、必死の形相で違うと叫ぶ悪魔。――そろそろいいだろうと、村長は犯人を追い込みにかかる。




