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勇気無き村に死を!  作者: 北田 龍一


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12/28

村八分

 若者が村人全員に声をかけたのだろう。全員が狼女の家に集まり、その惨状を確認している。村長は周囲を見回っていたていで待機し、初めて確かめるような様子で扉を開けた。そこで初めて、全員が『鍵が開いている』事を確認した。部屋の中の様子を確かめるが、内側は荒らされておらず、犯行は外であるのは間違いない。特別不自然な動作も見られないが、現場検証もそこそこに広場に向かった。


「こ、今度は狼女さんが……うぅ、うぅぅ……っ」

「泣いても、過去は取り返せませぬぞ」

「これで三人目かぁ……流石にちょっと怖くなって来たなぁ」

「わしも酒を控えるかのぅ……」


 昨日まで生きていた人がいなくなる寂しさ、悲しみ。そして犯人への怒りを隠せなくなる。絶対に特定してやると、村長も腹の中で決め……表向きはいつも通りに、村長は促した。


「じゃあ……毎回で悪いが、昨晩の行動を聞かせて欲しい。順番は昨日と同じで、ハーピィ娘から頼む」

「オッケー! 昨日はねぇ……夜風に吹かれたくなって、外をふらふらしてたよ」

「あ、相変わらずマイペース……」

「家の上あたりを飛んでいたけど、特に変な事は無かったよ。その後はぐっすり!」


 額に手を当て、村長は天を仰ぐ。これが彼女の平常運転で、非常時でも全くペースを乱さないのだから笑えない。ある意味大物なハーピィ娘に、村人全員は疲れたようなため息を吐いた。

 次は臆病な悪魔の証言。狼女の惨状を見てしまった彼だが、昨日よりは錯乱が落ち着いていた。


「き、昨日は……流石に、疲れすぎて……ぼくも深く眠っていたから、人の事は言えないかな……」

「気を張ってたんじゃ無いッスか?」

「今日までずっと気を張ってた、から……もう、限界が近かった、んだと思う。そ、村長にも、気持ちを落ち着けるようにって、言われていたから……」

「睡眠不足は判断力を鈍らせる。どこかで休む事は必要だろう」


 元々臆病な気質に加えて、殺人犯のいる村にいて、いつ自分が殺されるかもしれない環境……心をすり減らして当然だ。今も疲労が見えるが、眠れたおかげで回復したようだ。

 次はドワーフ……と言いたい所だが、前日を同じだったので割愛。植物オタク兄貴の証言だが、興味深い部分があった。


「実は……標本の整理中に、うっかり落としてしまいまして……右手を怪我してしまいました。今も痛みます」

「えぇ~? 大丈夫~?」

「あまり良くは無いですな。私も私で、疲れているのでしょう」


 右腕をふらふらと動かした直後、痛みが走ったのか顔をしかめる植物オタク。最後に若者へ視線を向けると、彼は暗い表情で俯いていた。


「どうした? 何があった?」

「村長……いや、村のみんな。聞いて欲しい事があるッス」


 すっ、と顔を上げて、溜め込んだ何かを吐き出そうとしている。しばし気まずい沈黙の後に、若者は一冊の分厚い書物を取り出した。


「それはなんだ?」

「俺の父親が書いていた日記ッス。家の荷物を整理していたら、出てきたんッスよ」

「ん~……でも、何か意味があるの?」

「これの中に今回の事件……『勇気無き村に死を』と犯人が言い出した理由が、書かれていたんッスよ」

「な、な、な……なんだって⁉」


 未だ誰も、今回の犯人が何者か? どのような動機で殺人に至ったのか不明なまま。そんな中明かされた情報は……昨日村長が竜人娘から聞いた物と、限りなく近い内容だった。


「この村で……三年前、村八分があったらしいッス。これが『勇気無き村に死を!』って、殺しを始めた理由なんじゃないッスか?」


 村人全員が「ギクリ」と固まり、気まずそうに若者から目を背ける。どうやら三年前の村八分は事実のようだ。

 何食わぬ顔で、村長は若者の言葉を掘り下げた。


「……どういう事だ? 三年前? 俺が村長になった裏で、村でそんな事が起きていたのか?」

「あぁいや、村長は知らないと思うッス。日記の日付を見ると、以前の村長が村八分の責任取って辞めて……その空白を埋める形で、今の村長が就任したって書いてあるッス」

「にしたって、今まで気づかなかった。誰も俺に話す事も無かったが?」

「無理もないッスよ。就任直後にバレたら、村長が村全体に不信感持っちまう。こんな事でも起きなきゃ、きっと村長は知らないままだったんじゃないッスか?」

「それが『勇気無き村に死を』の文言に繋がる……か」


 空気が異常に重い。三年前の不実が、今の殺人事件の動機に繋がるなど……誰も予想していなかったのだろう。最初に悲鳴を上げたのは、臆病な悪魔だった。


「だって……だって、仕方がなかったんだ! 仕方がなかったんだよぉ!」

「あ、悪魔殿⁉ 急にどうされたのです⁉」

「ぼく……ぼく、忘れようとしていて。でも、ぁぁ……ぁぁぁ……」


 十字架に張りつけにされるような表情で、懺悔しても許されないであろう罪を……悪魔は、三年前の罪の告白を始めた。


「あの時……三年前、魔族との戦争が激しくなって……長老の一族と村長の知人が、戦線で魔族に皆殺しにされたんだ……それで、それが引き金で……ぼくたちみたいな、悪魔や竜人に当たりが強くなって」


 三年前の戦争……国を挙げての殺し合いに、身内が巻き込まれたとなれば……暗い感情の一つや二つ、人間ならば抱いて自然。問題は……感情の矛先を無関係な相手へ向けてしまった事と、激情に駆られた人物が権力者だった事――


「戦争とぼくたちは関係ない、今まで通りに過ごしたい。そう思ったし、説得もしようとしたよ! で、でも……長老も、村長……前の村長は、こう言ったんだ。

『お前の姿かたちを見るだけで、吐き気がする』って。『お前の仲間が、家族を殺したのが悪いんだ』って」


 酷い差別発言かもしれないが……身内を、戦争で、殺した相手がいて、その相手と同じ種族に対して、憎しみを欠片ほども持たずに居られるだろうか? 無関係だと言い聞かせても、湧き上がる感情を押さえつけられるだろうか?

 もしすべての知性を持つ生き物が、そうして冷静でいられるなら……きっと最初から、戦争なんて起きていないだろう。非常に話しづらい空気の中、沈黙を破ったのは――

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