三日目
殺人犯のいる村で眠りこけ、目覚めた三日目……自分が生きている事に感謝しつつ、村長はすぐに外へ出た。
今日あたり殺される覚悟もしていたのだが、犯人は村長を狙う気が無いのか? 信用を得ているから? しかし事件に積極的に関わり、主導している立場な以上……犯人側としては目障りなはずだ。今から村長を犯人に仕立てる? 馬鹿な。それをやるなら、発狂している悪魔や引きこもった竜人娘の方がたやすい。三年前の村八分が事実なら……彼らの方が罪を被せやすいはずだ。
(まだ、村八分が事実かも確認できていないが……くそ、時間が足りるか?)
竜人娘が嘘を言っている可能性は、ゼロではない。事実と断定するには、複数の人間から証言を得なければ。しかし下手に発言すると、これ見よがしに竜人娘を犯人と言い出しかねない。どう議論を進めるか……悩みながらも、村の様子を見なければならない。憂鬱ながらも、村長は外へ歩き出した。
空白の住居を通り過ぎ、若者の家も通過する。人気が無くて不安になったが、そちらの不安はすぐに払拭された。しばらく先の家――狼女の小屋前に、若者が呆然と突っ立っていたから。
「どうした、そんな所で立ち止まって」
「村長……くっ」
若者は一瞬だけ表情から緊張を解いて……すぐに俯き拳を固く握る。ちらりと小屋を見ると、丸太の一部に新しい傷がつけられていた。大ぶりな刃物によるものだろう。血痕も一部飛び散っている。
「今度は彼女か……」
「まだ死体は見てないッスけど……多分、室内で」
「くそっ……お前は先に広場に行って、生き残っている奴らに伝えてくれ」
「村長は?」
「先に周囲を調べておく。突入は全員が揃ってからにする」
「みんなに伝えて、呼んでくるッス」
頼む。と短く告げると、若者は広場に駆け出していく。村長は小屋に残り、外周を丹念に調べ始めた。
小屋の外観に傷はあるが、窓を破られた様子はない。周囲に飛び散った血痕と狼の体毛……推察するに、争いがあったのは外だろう。
村長は不思議に思った。狼女は冷静沈着、頭も冴える人物だった。室内に押し入られ、抵抗虚しく……なら分かるのだが、外に争いの痕跡があるのは何故だろう? 誰かの工作か?
(いや……それも考えにくい。別の人物が『狼女が犯人だ』と工作しようにも、狼女本人に発見されるリスクも高い。素直に狼女が外で襲われたと、考えていいだろう。あるいは細工中にもめ合いになったのか? これだけでは……)
何かに気が付いたのか? 犯人に呼び出された? それとも彼女が外に出ていたのか? 痕跡だけでは判別できない。小屋の一角から始まった血の跡は、家の入り口の方へ続いている。扉の手前で激しく出血し、ここで致命傷を負ったのだろう。
飛び散った出血の痕とは別に、犯人が扉を攻撃した痕跡が見られる。彼女は家に立てこもり、死の間際まで抵抗し――犯人はトドメを刺す事を諦めたのだろうか? 犯行は夜間だから、襲撃の痕跡はそのままだったのか? 扉にもキチンと鍵をかけて――
「空いている、だと?」
ドアノブに手をかけ、回して押し込むと……あっさりと扉は開いた。一瞬頭が真っ白になり――飛び込んできた死体に、目を背けそうになる。
狼女が、目を閉じて死んでいる。調べると背中に鋭い刺し傷に、腹部と腕にも重症。最後まで犯人に対し、抵抗を試みたのだろう事が伝わる。軽く目を閉じて黙祷を捧げ、すぐに死体の違和感に気が付いた。
「これは……手帳か」
狼の頭部、ずらりと生えた牙を含む口腔に、一冊の手帳が挟まっていた。手帳は血で濡れ、布の切れ端も手帳と牙の間に挟まれている。最後まで彼女が犯人に抵抗し、死の間際に村のため、残したのだろう。すぐに手に取りページをめくり、彼女が残した言葉を拾い集めると……最後のページ、血で書かれた三文字に――村長は言葉を失った。
(この情報を村には……今は、犯人たちには漏らせん!)
全く予想外の事実に、村長は背筋が凍り付いた。ダイイングメッセージに嘘がある訳もない。心から狼女に感謝しつつ、村長は静かに扉を閉め直した。
狼女のメッセージは現状、犯人側に気づかれていない。つまり、やっと村長は犯人に対して、一つアドバンテージを得れたのだ。その点を注意しつつ、今日の話し合いを進める必要がある。彼女の死を無駄にしないためにも……
村人たちが集まる前に、扉を静かに閉め直す。これで『家の扉が開いていた』事を知っているのは、現状村長のみだ。犯人が気が付いていたなら、こんな重大な手掛かりを残した手帳は回収されるに決まっている。口元の血液と布の切れ端もだ。
(そうか……狼女は、こうなる事を予想していたのか)
最後まで抵抗し、犯人の侵入を防ぎ切った狼女。恐らく犯人が遠ざかった後で、扉の鍵を開けたのだ。閉じたままにしていては、また村の何名かでドアを蹴破って突入することになる。どさくさに紛れて、村人に紛れた犯人に証拠を取られるかもしれない。
そうなる前に……広場までの通り道に、村長が通る事を見越して鍵を開けたのだ。村の若者か、村長以外はここを通らない。仮に来たとしても、犯人であれば『最後まで抵抗した狼女が、自分たちが去った後扉を開けている』なんて事は、想像外に違いない。
「俺を信用してくれたのか……」
不確定な事もある中……狼女が残した物を、胸にしまう村長。
俯いてばかりもいられない。この手がかりを使い、まずは犯人を追い詰めなければ――
三日目犠牲者 狼女
補足説明。本作は吊りは毎日行う訳ではありません。そうですね……ゲームアプリの宇宙人狼ことAmong Usや、アヒル人狼と呼ばれる形式……合議はするが、スキップ投票も出来るタイプとお考え下さい。




