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プロローグ

 

 それは在りし日の約定。



 忘れ去られた王女が王宮の奥まった場所で薬草を育てていると、飛竜が舞い降りた。

 人の何倍もの体躯、鋭い爪と牙、鞭のようにしなる尾、なにより、大空を飛ぶ翼。それらすべてが人が束になっても敵わない力を発揮することは、一目瞭然だった。だというのに、王女は自分の心配よりもなぜか一所懸命に丹精した薬草園が荒らされることを懸念した。


 案に反して飛竜は薬草の匂いをしきりに嗅ぐ。飛竜は肉食だとばかり思っていたのに、植物も食べるのかと考えていると、ひょいとこちらを向いた。

「ギュワ」

 しゃがみこんで丈の高い薬草の影に隠れていたつもりだったが、飛竜には気づかれていたらしい。


「ギュギュワ!」

 急かされているような気がして、王女は恐る恐る立ち上がる。


「ギュワワ」

 みたび鳴き声を上げた飛竜は鼻先でとある薬草を突く。


「なんでしょうか。もしかして、その薬草を食べるのですか?」

「ギュワ!」

 まるで王女の言葉に反応するようなタイミングだ。


「どうぞ。差し上げます」

 王女はそう言うほかない。飛竜は人にはない甚大な力を持つ。人の中でも弱い部類に入る王女には到底かなう相手ではない。


 飛竜は薬草を食べた。大きな口を開けると牙がずらりと並んでいる。どんな硬いものでも噛み砕くだろう。なのに、ひょろりとした草を食べるというのが妙なおかしみがあって王女は思わず笑った。

「ギュワワワ」

 飛竜も笑った。


「こちらも召し上がります?」

「ギュワ!」

 そんな風に王女と飛竜は奇妙にのんびりしたやり取りをしていた。


 さて、巨大な獣が唐突に空から現れた薬草園は奥宮の片隅に位置しているが、巨大な飛竜は遠目にもそれと分かった。本宮は蜂の巣をつついたような騒ぎに陥った。

 急ぎ軍をかきあつめようとする者、逃げ出そうとする者、この混乱に乗じてよからぬことを企む者。さまざまだった。


 その事態を収めたのは当時の為政者である。英邁えいまいな彼は迅速に指揮を執り、臣たちを鎮めた後、調査に乗り出す。そして、王女とともに飛竜の秘密を知ることとなる。

「まさか、そんな」

「これは危険すぎる。この事実を公表すれば、世界は覆される」

 あまりの影響の大きさを鑑み、秘匿することにした。



 こうして、契約が結ばれる。その真意は伏せられたまま。





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