冒険者登録 1
翌朝、しっかり宿屋の朝食を食べてから冒険者ギルドに向かう事になった。
「冒険者ギルドってどんな所かな。楽しみ」
「気性が荒い人が多いから気を付けた方がいいよ。それと、トウコはそのままローブを被っておいた方がいい。あまり顔を見られないように」
ウィンは笑顔のはずなのに目が笑っていない。爽やかイケメンなのに怖いのはナゼ? 言う通りにローブのフードを被ることにしよう。
冒険者ギルドに着くと、中は1つの大きな空間になっていて、左側半分が飲食スペース、正面奥に冒険者の登録や仕事受付のカウンター、その横に仕事依頼の掲示板があり、右側の奥は素材買い取り等の仕事完了の報告受付がある。
朝のこの時間は受付が混んでいるようで、新規登録者は一通り仕事受付が終わるまで待っているように言われた。
「そう言えば魔犬って、右の奥の素材買い取りコーナーで売れるのかな?」
「さあ、どうだろう? 俺もこの町の冒険者ギルドは初めてだからね。行ってみようか」
「おい、お前ら、魔犬を持っているのか?」
そこへ私達の会話を聞いていたのか、ガラの悪そうな冒険者3人が声をかけてきた。
「え……?」
「何匹だ?」
「3匹ですが……」
私を値踏みするようにジロジロ見てくる。怖い。
「何か用ですか?」
ウィンが間に入ってくれた。
「ああ? お前らまだ登録も終わってないガキだろ。どうせどっかで魔犬を盗んできただろうから、俺達が貰ってやろうと思ってな」
私達を囲むように言ってきた。
「3匹とも俺が倒した」
「は~ん? 嘘吐いてんじゃねえぞ。隣の小さいガキを連れて魔犬なんて倒せる訳ねえだろ」
小さいガキとは私のことだろうか? 確かに15、6歳の男の子にしては小さいけど、私女の子だもん。
周りを見ると、人だかりができていた。私達を見ているなら助けてくれたらいいのに……。
ドンッ!
「きゃっ」
「なんだ、こいつ。女じゃねえか」
連中の1人に押されて転んでしまった。その拍子にフードが外れてしまったのだ。
「お前ら、カップルで冒険者なんてやめとけ。どうせ彼女ちゃんに良い恰好をしたいんだろうけど、2人とも死んじまうぞ」
「へえ~可愛い顔してるじゃねえか。俺のパーティに入れてやるよ」
もう1人の男が私の顎をもって上を向かせた。
ニヤニヤした顔で上から下まで舐めるように見てくる。気持ちが悪い。
「これは、俺の妹だ。そっちが先に暴力を振るったという事は、こちらも反撃して良いという事だな」
ウィンも反撃態勢に入って、一触即発の雰囲気になっている。
かなり怒っているみたいで、なぜか私が妹って事になっているけど気にしないでおこう。いや、めちゃくちゃ気になる。
そこに、人だかりを割って青年が入ってきた。
「お前達また揉め事か。いい加減にしろ!」
「リップスさん! いや、これはこいつらが魔犬を盗んだから俺達が……」
「だから、魔犬は俺が倒したって言っているだろ」
「3匹もお前1人で倒せるわけねえだろ!」
ガラの悪い連中3人組はウィンの言う事を本当に信じてないようだ。
ウィンは本当に一瞬で倒していた。普通じゃ倒せないってことは猛者の子孫って一般人より桁違いに強いのかも知れない。
「お前達は3人とも厳重注意だ。次にギルド内でトラブルを起こした場合はランクを下げるから気を付けろ」
リップスという青年はこのギルドの職員で、元Bランクハンターのようだ。ギルド内では、なかなかの権力を持っているみたい。
3人のガラの悪い連中を下がらせたあと、私とウィンはギルドの奥の小さな部屋に連れて行かれた。
リップスは3人組に怖がられていたけど、見た目は中肉中背で、私達には口調も穏やかで好青年といった雰囲気だ。怒ると怖いタイプなのだろう。
「さっきは悪かったね。あの連中はいつも問題を起こすからギルド内でも手を焼いているんだ」
「「……いえ」」
「ところで、魔犬を君1人で3匹倒したっていうのは本当かい?」
「…………」
なぜか、ウィンは答えない。下手に自分の能力を見せて万が一でも猛者の子孫とバレるのを警戒しているのかも知れない。
「冒険者ギルドの職員が冒険者の能力や個人情報を漏らすことはないから安心して。それとも、本当に盗んだのかい?」
「いえ、俺が3匹とも倒しました」
冒険者ギルドは各国の兵力とは独立した組織で、例え国同士が戦争をしていたとしても、冒険者ギルドが他国のギルドと争うことはない。
その為、ギルドが国に冒険者の能力や個人情報を密告するような真似はしないようだ。
ただし、冒険者の中でもランクの高い者達は指名依頼などから自ずと名前が知れ渡っていくため、その限りではないらしい。
また、冒険者同士も同じパーティーではない人の能力の詮索や知り得た情報を口外することはしないという暗黙のルールらしい。まあ、これについては個々の性質の問題だからなんとも言えないらしいけど。
「よし。では、僕と手合せを願おう。冒険者登録をするには君達のランクを見定めることが必要だからね」
こうして、ウィンとリップスは手合せという名の冒険者ランク測定をすることになった。
冒険者のランクについて、「F・E・D・C・B・A・S」の順で上がっていく。今は現役のSランク冒険者はいないらしい。
Aランクになると全ての冒険者ギルドが把握しているほど有名で、国家間で引き抜きをして取り合いになる程の戦闘力らしい。
BからAランクへ昇進するにはハードルが数十倍膨れ上がるようだが、リップスはあと少しでAランクに昇格予定だったらしい。
なので、元Bランク冒険者のリップスは相当の手練れということで、ラーナ町のギルド登録者のランク測定を受け持っているらしい。
測定は冒険者ギルドの裏手の会場となる建物内で行われる。判定にはギルドのサブマスターが監督として来ている。
サブマスターの名前はゴンゴという。名前の通り、岩のようにゴツゴツしていて大柄で怖そうだ。
測定は怪我防止の為に刀剣は刃のない木刀で行われる。
「では、これよりランク測定を行う。両者、構えて。始めっ!」
ゴンゴが合図を取る。
ウィンとリップスはお互いの出方を見ているようで両者一歩も動かない。今か、今かと、見ているこちらの方が緊張の頂点に達した時に、先にリップスが動いた。
正剣で真正面からウィンに木刀を振り下ろし、ウィンは冷静に一太刀目を受け止めた。
カンッカンッカンッ!
その後も何度かリップスの木刀を受け止め、打ち合う音が会場に響く。
リップスの攻撃は速さを増し、足払いや変則的な攻撃に発展しているが、ウィンは顔色を変えていない。
何度目かの攻撃でリップスの木刀がウィンの首に当たる! と思った瞬間、ウィンの姿が一瞬消えたように見え、次の瞬間リップスの身体が宙に浮いていた。そして、リップスの身体が地面に着くと同時にウィンの刀剣がリップスの首筋を捕らえていた。
「勝負ありっ! 両者やめい」
ゴンゴが測定終了の合図をした。
リップスはまさか自分が負けるとは思っていなかったのか、呆然と横たわっている。私も呆然だ。まさかウィンがこれほど強かったとは。
「確か、ウィン君と言ったかな。さっきの君の攻撃は私でさえも目で追うのがやっとだったよ。素晴らしい!」
ゴンゴが、興奮気味にウィンに話かけている。どうやら、ウィンの身体が一瞬消えたように見えた時、体勢を低くして、リップスに足払いをしたようだ。
「僕が測定で負けたのは初めてだよ。本当に驚いた。君を甘く見ていたようだ」
リップスは負けたと言うのに気を悪くすることなく真っすぐにウィンを見つめて、握手交わして測定が終了した。
元Bランク冒険者でブランクがあると言っても、一太刀も浴びずにリップスを制圧したウィンは、最低でもBランク冒険者並みになる。ただ、冒険者に登録したての初心者はどんなに強くてもCランクからのスタートになるらしい。
さて、次は私の番だ。
お読みいただきありがとうございます!
定番の冒険者登録で絡まれる、されました!