森での出会い 2
「簡単に言うと、こんなところだよ。俺は、ポメアン王国で育ってきた。まあもう二度と戻ることはきっとないけど。ちなみにさっき一緒にいたのがポメアンの第二王女のアリーサだよ。俺は1年前に成人したんだけど、その時に有事の際の戦いに対する協力の意思を問われて断った。自分の力を人を殺める為の道具として使われるのは嫌だからね。それならせめて猛者の子孫を残そうと、第二王女と結婚させようとしたけどそれもまた断った。思い通りに動かない俺のことが邪魔になったんだろうな」
ポメアン王国と言うのは、私が今いる場所の隣国にあたるらしい。
今の王になってから周辺国と争いごとばかりしているらしく、最近では本気で戦争をしかける為か各地から強力な力を集めているらしい。
自国で猛者の子孫を始末するのは、さすがに都合が悪かったらしく旅の途中の事故という口実を作って別の国でウィンストンを殺そうとしたのだろうという事だ。
アリーサとは幼い頃から親しくしていたらしい。
ちなみに、この世界では15歳で成人になるらしい。
親しい人に裏切られる辛さは痛いほど分かる。
両親が私を残して夜逃げした時。良い企画が浮かんで、一緒に喜んでくれた上司に企画書を取られた時。そして、結婚目前の婚約者に裏切られた時。
この少年はたった16歳で命を狙われてこんなに辛い思いをして……。
日本でいうと高校1年生だよね。平気な顔をしているけど、どんなに辛いだろうか。
「大丈夫だよ。今日がどんな日でも朝日は必ず昇るわ」
無意識に幼い子にするみたいにウィンストンをギュッと抱きしめて、くしゃくしゃと頭を撫でていた。
「んなっ……!?」
「ねえ、ウィンストン。あなたは私がいなければ一度死んでいたよね。だったら、今からは自由だよ。猛者の子孫でもなく、何のしがらみもない、ただ1人の人間。これからは、ウィンストンの思うままに生きればいい」
空を見上げると満点の星空だった。ウィンストンも同じ星空を見上げていた。
…………。
「はははっ、自由か。そんな事、考えたこともなかったよ。そうだね。今から俺は『ウィン』と名乗るよ。猛者の子孫のウィンストン・フランクリンはもういない」
「うん、きっと環境が変われば何度でも生まれ変われるよ」
二人で目を合わせて微笑み合った。
生まれ変われるってことを自分にも言い聞かせて。今はこの世界で新たな自分として生きていく。
グゥゥ。
こんな時にお腹が鳴るなんて、最悪だ。
まじめな話をしていたのに恥ずかしすぎる。こんな時でも腹時計は正確なのね。
「えっと、お腹空いたね。夜ご飯を食べて今日は寝ましょう!」
ウィンにジト目で見られたような気がしたけど気にしない。
アイテムボックスから、購入しておいた葉っぱに包まれた温かいお弁当を2個取り出して夕食にした。
「はい、どうぞ。ウィンは嫌いな食べ物はない?」
「いや、食事まで提供してもらうのは申し訳ないよ」
「お弁当嫌い?」
「いや、食に好き嫌いはないよ。ダンジョンに潜ったらそんなことは言ってられないからね」
「じゃあ、もう出しちゃったから食べて」
このままだと遠慮して受け取ってもらえなさそうだったから一方的に膝の上に置いた。
味は日本の料理と比べると劣るけど、空腹が一番の調味料なのだ。
「いつの間に作ったの? まだ温かい」
「ううん、森に入る前にウエチ村で買ったのよ」
「ええっ!? そうだとしたら、何日前の……」
しまった。時間停止アイテムボックスって特別なんだっけ? う~ん。
「お弁当はね、冷凍しといたのを温めたのよ! 腐ってないわ! 大丈夫!」
「……? 失礼な事を言ってすまない」
ウィンは不思議そうにしていたけど、ここは開き直ってスルーしておこう。でも、これからは人の目のつくところでは気をつけようと思った。
翌朝、私達は出発の準備をした。と、言ってもテントをアイテムボックスに入れるだけなのだけど。
「おはよう、ウィン。私は予定通りラーナ町へ向かうわ。ウィンはこれからどうする?」
「まだ何も決めてないけど、俺も町へ行って冒険者登録して働くよ。それに、このボロボロの服もどうにかしたいからね」
明るい所で改めてウィンを見ると、かなりボロボロで昨日の私と同じだ。
幸いなことに私が覆い被さった胴体や肩の部分は大丈夫だけど、両手両足部分は破けて素肌が剥き出しになっている。
さすがに、その格好で旅を続けるのは難しいだろう。
「分かったわ。じゃあ、町まで一緒にいきましょう。それまで宜しくね」
「ああ宜しく。それと、改めて助けてくれて本当にありがとう」
張り切って森の中をつき進んで行く。1人より2人の方が楽しいから例え獣道でも足取りは軽い。例え獣道でもね!
「トウコ、どこに向かってるの?」
「うん? ラーナ町よ」
「本気で言ってる?」
「本気よ?」
どうやら、私はまたしても遭難ルートを進もうとしていたらしい。ウィンの指導のもと軌道修正され、暫く進むと、獣道ではなく人が通っているであろう道へ出てきた。
お昼ご飯は、干し肉の携帯食で済ませて、先を急ぐことにした。
途中、旅人がいたからラーナ町までの距離を聞いてみると、普通に行けばあと1日ほどで着くとのことだった。
夕方になり、そろそろ今夜の野営場所を探そうとしていた時に私のサーチ魔法が反応した。
それと同時にウィンも腰の剣に手を当てて警戒態勢に入っていた。ウィンも魔物の接近に気付いていたみたい。
「ウィン、右横から3匹魔物が来るわ」
「うん。トウコは下がってて」
「へっ? 逃げないの?」
「逃げる必要はないよ。まさかドラゴンが来てるわけじゃないでしょ?」
「うん、そんなに大きくないけど」
サーチで魔物の大きさは大体分かる。
ガサガサガサッ
「ワオーン!」
「やっぱり魔犬だな。ここは俺に任せて、トウコは下がっていて」
鳴き声と同時に1匹の魔犬が茂みから飛び出てきた。
魔犬は2m程の大きさで青白く発光しており、大型の犬が高温の火を纏っているような姿だ。
でも、森の葉っぱは燃えていないので、火ではないみたい。
ザシュッ!!
ウィンが素早く1匹を仕留める。すると、遅れて出てきた2匹もウィンに狙いを定めた。
「ガルルルルッ」
「ガヴヴッ!」
2匹が同時にウィンに飛びかかったが、ウィンは冷静に残り2匹も仕留めた。
時間にして1分程だろうか。
あまりにも手際がよく、動作が美しい。まるで、あらかじめ準備された剣舞を見ているかのようだった。いや、瞬殺された魔犬は少し気の毒だけど……。
「ウィン、大丈夫?」
「ああ、何ともない」
「ウィンって強いんだね」
「魔犬は魔物の中でも比較的倒しやすいからね」
ウィンの剣捌きが上手いのか、返り血一滴も浴びてなかった。
魔犬は死ぬと、纏っていた青白い発光も消えた。やっぱりちょっと可哀想。
「魔犬、埋めてあげる?」
「は?」
「えっと、魔犬、可哀想だから埋めてあげる?」
「はぁ? トウコ、魔犬は俺達を襲ってきたんだ。何もしなければ俺達が殺されていた。埋めている間に血の臭いで他の魔物も寄ってくるかも知れないんだよ?」
すっごくニコニコしてるけど目が怖い。これ多分、いや絶対怒ってるやつだ。
「うう……、だってお腹空いてて仕方なく襲ってきたのかも知れないし……」
「…………」
「…………」
「はははっ、何だかトウコには毒気を抜かれるよ。魔物を見たことはあるでしょ?」
「うん、ウエチ村でゴブリンなら見たことがあるよ」
その後は、魔物の基本行動を教えられた。どうやらほとんどの魔物は人間を見つけると本能的に襲ってくるらしい。
それから、魔物の素材は防具や武器、種類によっては薬や食料になるので売れるらしい。
「じゃあ、町に持って行って売るわ」
何の素材にもならずに、無駄死にも可哀想な気がした。
「町に持って行くって言っても3匹もどうやって? 結構大きいよ」
「私が持っていくわ」
そうして、アイテムボックスに3匹の魔犬を入れた。ウィンは何だかもの言いたげだったけど気にしない。
その後は、トラブルも何もなく野営をした。
お弁当をアイテムボックスから出して、ウィンに隠れて温めるフリをした。お弁当はこれで最後の2つだから大切に食べよう。1人だと2日分残っていたお弁当だけど、2人だと今日で最後になる。
ウィンは『俺は1、2日ぐらい食べなくても大丈夫』って言うけど、そんな訳にいかない。
16歳と言えば、一番食べ盛りである。
成長期だからちゃんと食べさせないと。
翌日は夜明け前に起きて、果物とパンだけで朝食を済ませて日の出と共に出発した。
もうすぐ町に着くと思うと嬉しくなって、ついつい速足で歩いてしまったけど何度かウィンに道の間違いを指摘された。
「ウィン、町が見えてきたわ! それにしても、すごいわね。町全体が囲まれているわっ!」
ラーナ町は石造りの門があって、町は石の壁か、壁がない所は石造りの建物の背で覆われていた。
まるで中世ヨーロッパの町みたいで写真や絵でみるよりも美しい。
ウエチ村は木の柵で簡易的に囲っていたから異世界って実感があまりなかったけど、こんなに美しい建造物を見ると興奮しちゃうよね。
「…………」
ウィンからの生暖かい視線を感じた。
「ん? なに?」
「いや……何でもないよ。トウコ、町は普通は囲まれているんだよ」
ま、まじか。そうか、この世界の町は囲まれているのが普通なのね。覚えておこう。
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