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ウエチ村 1

 

 昨日まではずっと薄暗い森の中で過ごしてきたから日の光が眩しく感じる。


「んん~、爽やかな朝ね! さて、これからどうやって生きていこうかな」

 大きく伸びをして、これからのことを考える。


 日本で報われないOLをして、彼氏や後輩、家族にも裏切られたけど、私が消滅したって聞いてなんだかせいせいしている。


 だって、何をしても上手くいかない人生なんて罰ゲームじゃない? 


 それにこうやって全く違う環境で再スタートできるってワクワクする。




「取り敢えず仕事探さなきゃだし、冒険者ギルドってところに登録しようかな」


 どこまでも続く一本道をとぼとぼ歩いていく。

 確か、この道を真っ直ぐ歩けば大きな村があるらしい。この世界の神様であるエニフは各所を大まかに把握しているようだ。


 3、4時間程歩いただろうか。特に変わったこともなく無事に村に着いた。

 

 村は『ウエチ村』といって比較的大きく、周りが簡易的に木で囲われている。出入り口には特に警備員はいないようだ。



 早速だけど、宿屋を確保してから買い物をしようと思う。

 実はこの世界のお金をエニフから貰っているから心配ない。エニフはなぜかお金持ちで、金貨100枚をまるで子供に渡すお小遣いかのように渡してきたのだ。

 いつか必ずこの恩は返したいけど、神様にお礼ってどうすればいいんだろう。


 通貨は、[金貨=10,000円 銀貨=1,000円 銅貨=100円]の価値のようだ。

 なので、エニフに貰ったお金は、日本でいうと100万円になる。


 三軒ある宿屋のうち、値段が中ぐらいのところを選ぶことにした。

 1泊翌日の朝食付きで銀貨5枚だから日本円で約5,000円。物価が高くなくて安心した。

 


 すぐに部屋に案内してもらって個室に入ると、この世界に来て初めて心が安らいだ。虫もいないし、危険な魔物もいない。


 一息着くと自分の身なりが悲惨な状態であることに気が付いた。


 3日3晩、昆虫と猛獣の森を歩き続けたから服は泥だらけ。

 右腕部分には、森に落とされた直後に怪我をした時の血まで付いている。この血を見るたびに5cmほどの黒い虫の存在を思い出す。鳥肌ものである。


 ふと、部屋のドア横に小さな掛け鏡を見つけた。顔だけが見える大きさだが、十分だ。きっと顔にも汚れが付いているだろう……。



「……ん、誰っ!?」


 そこには、見たこともない少女がいた。いや、私だ。私なのだが、年は15、6歳に見える。地球では28歳だったのに。

 それに、瞳の色がエニフと同じような青緑色。頭髪の色は青味を帯びた黒色、というか艶やかな紺色のような色になっている。エニフの(たてがみ)の色にそっくりだ。


 顔は……馬面になってなくて良かった。


 ただ、顔の構造も少し変わっているようで私の面影はあるのだけど眼の色に合わせて少し西洋風になっている。簡単に言うと、ハーフ顔みたいなものだ。

 口を大きく開けたり片目を閉じたりしてみたが、やはり自分のようだ。


 こちらの世界に来てから一度も鏡を見る機会なんてなかったからいつの時点で外見が変わったのか分からない。

 地球で体が消滅したから、こちらの世界風に生まれ変わったのかな? 暫く混乱したが、答えが見えてきた。きっとエニフの力の影響だ。



 「ふぅ…………」

 仕方がない。エニフの優しげな瞳の色も好きだし、まぁ良いいか。


 でも、若返っているのはなぜだろう? これに関しては答えがでなかった。


「う~ん。取り敢えず、服を入手してから銭湯にでも行こうかな。冒険者ギルドに登録もしなくちゃ」



 宿屋の主人に、この村のおすすめの銭湯や冒険者ギルドの場所を聞くことにした。

「お嬢ちゃん、冒険者ギルドっていうのは、町にしかないんだよ。この村にはないよ。そんな事も知らないで冒険者を目指しているのかい? それにその髪の色。この国じゃあ、あまり見かけないね。目立つからローブでも買って隠しといた方がいいよ。か弱い女の子が目立っていると、すぐに人買いに売られちまう」



 主人の話によると、冒険者ギルドはこの村から歩いて5日程かかる『ラーナ町』が一番近いらしい。近道で森を抜ける方法だと3日ほどで行けるということだ。

 旅をする時は、干し肉などの携帯食やテントも買っておくと良いらしい。思わぬ出費だけど、冒険者ギルドで仕事を探さない事には生活ができないので初期投資として仕方がない。



 早速、明日にでも出発できるように、銭湯で汗を流してから買い物をした。

 ・テント[金貨2枚]

 ・ローブ(2枚)[金貨2枚]

 ・下着と服(2セット)[銀貨12枚]

 ・毛布(2枚)[金貨1枚]

 ・生活用品(石鹸、歯ブラシ、コップ等)[銀貨1枚]

 ・肩掛け鞄[銀貨3枚]

 ・食品7日分と果物(リンゴ等)、お菓子等[銀貨15枚]

 食品はお弁当に携帯食も混ぜて、合わせて1日3食で7日分として多めに買っておいた。


 いつも何かしらトラブルがあったから人より少し心配性になったのだ。

 地球の時もいつも鞄の中には絆創膏や頭痛薬を入れていた。そして、この世界で魔の森を経験してからは余計に慎重になるのも無理はない。


 お弁当は、パンや角切り肉や薄切り肉とマッシュポテトやイモや野菜を蒸したり湯がいたりしたものだ。それらが大きな葉っぱで1食分ずつ巻かれている。

 出来立てを買って、すぐにアイテムボックスに入れたため温かいまま食べられる。


 自分でご飯を作りたいけど近道の森の中を進む予定だから野外で自炊できる自信がない。落ち着いたら調理器具や食材を買おうと思う。


 また、旅をするのに手ぶらでは不自然と思って鞄も買っておいた。

 この世界には魔法鞄というものが存在しておりトランク約3個分の容量で金貨50枚前後で販売している。

 エニフがアイテムボックス持ちは少ないと言っていたので、私が使えることは知られない方がよさそうなので、銀貨3枚で買った普通の鞄を、魔法鞄のふりをして使おうと思ったのだ。



 洋服は機能重視で動きやすいパンツ(ポケット付き)に白いシャツにベストを買った。魔の森を体験した私はなるべく肌の露出が少ない服を選ぶことにした。

 それにポケットはとても重要だ。地球の時はポケットがあるかないかによって、スマートフォンや小銭、リップクリームなどの小物の持ち運びに大きく影響する。

 ポケットのないスカートだと近所に外出でもわざわざ鞄を持たなければならないので面倒だった。


 頭からローブを被ってもカジュアルなパンツスタイルなので、パッと見は男の子の服装になる。女の子だと危険が多そうなのでちょうどいい。



 宿泊費や買ったものを合わせて、すでに金貨を数枚使ってしまった。

 食費や宿代もあるから隣町に着くとすぐに働こう。エニフから貰ったお金はできるだけ使わずに、自分の力で生きていきたい。




 夕食は宿屋近くの飲食店に入った。客のほとんどは村人でその他は旅人が多いようだった。

 このお店で一番人気の値段の安い日替わり定食にした。

 スープに、薄くスライスした肉とイモ、丸いパンの乗ったワンプレートの料理だ。久しぶりの食事にワクワクした。


 エニフにガブリと噛まれてからは空腹を感じてなかったけど、やっぱり口から何か食べるのはいいよね。


 コーンポタージュのようなスープを一口飲むと見た目とは裏腹に薄いコンソメスープのような味がした。パンを一口サイズに千切って肉と一緒に食べるとこちらもまたやさしい味がまた身にしみる。

 料理全体の味付けは薄いけど久しぶりに食べ物を摂取する私の胃にはやさしくちょうど良かった。



 夕食を食べ終わり、部屋に戻るとすぐに睡魔が襲ってきた。

 この世界に来て初めてベッドでゆっくりと眠れる……。





 このまま朝までゆっくりと…………。


 とはいかなかった。




 バタバタバタッ!

 宿の中が急に騒がしくなった。

「ゴブリンだっ! 誰か戦える者や治癒ができる者はおらんか!?」

「俺達は冒険者だ。ゴブリンは何匹だ?」

「30匹だ。既に家畜が数頭喰われた!」

 兵士らしき男と、宿泊客が会話しているのが聞こえた。

 村に襲撃があった場合は駐在の兵士だけでは足りない為、宿屋にも声がかかるようだ。

 宿屋は冒険者が滞在していることが多いから協力要請がでるらしい。



「報酬は1匹につき銀貨5枚だ」

「分かった。案内してくれ」

 そう言って、冒険者数名と兵士が出ていった。

 気になったから私もローブを被ってから、そっと後をつけてみる。




『グギャギャ!』

「おいっ! 怪我人は下がらせろ!」

『ググギャー!!』

「お前はあっちを守れ!」

「誰か薬を持っているものはおらんか!?」

『グギャッグギャッ』


 その場に着いて、周りを見渡すと、ゴブリンと村人達が戦っていて、辺りは緊迫した雰囲気に包まれていた。


 ゴブリンは『グギャグギャ』と何を言っているのか分からないが騒がしく、槍などで村人を攻撃している。

 戦える村人や兵士が少なく、怪我を負った人達が多数いる。また、ゴブリンの青色の血と人間の赤い血が混じり合い、濃い紫色の血痕が土にしみ込んでいく。


 初めて見る戦闘に、血の臭いに吐き気を覚えながら呆然と立ち尽くしてしまった。


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