キャッティー村の復興
船が使えるならフギ町への帰還がかなり楽になる。
徒歩で3、4日の距離が半日で帰れるのだ。
船は30~40人乗りの筏船だ。
暫く使っていなかったみたいだけど傷んでる箇所をロープなどで補強すれば、明日には使えるそうだ。
引き続きみんなで魔物を回収したり、解体したりと忙しく動いていた。
骨折などの大怪我をしている冒険者にはギルド負担でポーションが配られた。
スタンピード討伐のための部隊だから今回は特別の計らいだ。
大きな打ち身や切り傷などは年配パーティのおばあちゃんが治癒魔法で治してあげていた。
おばあちゃんと言っても現役冒険者だけあって威厳もあるし、溌剌としている。
小さな怪我のものは自然治癒になる。弱音を吐いていた若手冒険者は背筋を伸ばされていた。
今からだと日が暮れるから今夜はみんなキャッティー村で休ませてもらうことになった。
とは言え、眠れる建物もないため各自テントを張ったりして野営になる。
夜ご飯は各自携帯食で済ませたりするみたい。
アイテムボックスに入れておいた温かいお弁当なら素早く食べられるけど、さすがに人目が多すぎて目立つから今日はやめておこう。
それにすごく気になる食材があるのだ。
実は大サソリは地球のカニのような味なんじゃないかと思っている。
さっき、ひっそりと鑑定魔法でサーチしてみた。
身の部分に毒がないのは確認済み。尻尾の毒は加工すると薬になる。
最近使い始めた便利な魔法の一つだ。
大サソリの殻はかなり硬くて弾力があるから、主に防具などの素材として使われる。
但し、火に弱いという欠点がある。
火で炙ると変色して殻が脆くなって弾力性が失われるらしい。
素材として売るために、火で退治すること自体が少ないから、それを食べた人も少ない。
だから食用としてあまり認知されていないみたい。
それに大サソリを退治するのって命がけだから、それを食材にってあまり思わないのかも。
さっき、「バリアかまいたち」で倒した大サソリの一部を取り出して火で炙ってみる。
すると、やはり香ばしい匂いがしてきた。
「美味しいっ!」
塩気がないから少し塩を振ってもう一度パクッ。
「ねえ、ウィンも食べてみて?」
「……美味い」
恐る恐る口にしたウィンも目を少し見開いて驚いている。
身自体には少し甘みがあって、塩を振りかけることで味が引き締まって甘味が強化される。
「トウコお姉ちゃんたち、なに食べてるの?」
「大サソリよ」
「ええー! キャー怖い」
「美味いぞ」
「ウィン兄ちゃんも怖いー! きゃははは」
子供たちが大サソリが怖いと言いながら、はしゃぎだした。
大サソリを食べるなんて! と、ツボにはまったようだ。
子供ってそういうところあるよね。
暫くして落ち着いてきてから「食べてみる?」と勧めてみると、少し怖がりながらも口に入れて「美味しい!」と喜んでいる。
そんな私達を見て、周りに人が集まってきた。
近くにいた人に分けたりしていたら、いつの間にか行列になっていた。
じゃあ、みんなで焼きましょう! と、崩れたレンガや炭などを集めて焼き場を作ってバーベーキュー大会のようになっていた。
私が大サソリを提供していることを知ったヒダカがオーク肉を取りだし、それを知った他のパーティがまた別の肉を、獣人からは酒を――と、気付けば獣人も人間も関係なく肩を組んで楽しく酒を飲み交わしていた。
*****ヒダカとカーシ
「ヒダカさんも一杯いかがですか?」
「お、カーシか。いただくとしよう」
「俺たち、生きてるんですね」
「ああ。人生で一番ハードな1日だったな。気付けば難なく終わっていたがな」
ヒダカもカーシも冒険者として知識もこれまでの経験もある。
だから、今回の魔物の数を知った時は本気で死を覚悟していた。
そして自分達が死んだあとにフギ町に訪れるであろう悲劇を想定して絶望を感じていたのだ。
それが、蓋を開けてみると誰一人欠けることなく戦いが終わったことに奇跡を感じていた。
いまだ信じられず、フワフワと宙に浮いて夢を見ているような奇妙な感覚だ。
その奇跡を起こしたのがトウコであり、助力したのがウィンである事を思い返していた。
トウコの魔法は見たことがないものばかりで圧倒的な強さに驚きを超えて畏怖を感じるほどだった。
だが、本人はいたって普通の少女だ。いや、お人好し過ぎる。
今も村の中央で大サソリや肉をみんなで焼いている。
始めはずっとフードを被っていたが、戦いの最中に外れたんだろう。
人見知りだからフードを被っているんだ、と思っていたがそうでもないらしい。
珍しい紺色の髪に整った顔立ち。目を合わすと美しすぎる目元に吸い込まれそうになる。
余計な争いを避けているのだろう。
今は隠すことをしていないから、多くの男どもが彼女に近付こうと機会を窺っている。
「ふっ……、ウィンは極度のシスコンだな。モテるのに勿体ない」
ヒダカが少し笑いながらつぶやいた。
村の中央では、トウコに話しかけようと魔導士が近付いた。そこにウィンが当たり前のようにトウコの肩を抱いて魔導士から遠ざけている。
それでも別の男が話しかけると、トウコを自分の膝の上に乗せてしまった。
完全に幼い子扱いだ。
そうこうしている間に、巷で人気の戦乙女がウィンに話しかけている。
ウィンがニコリと笑うと女性の顔がみるみる赤くなっている。
しかしウィンは気付いていないのか全然興味はなさそうだ。
そのまま、器用にもトウコを膝に乗せたまま話しかけられれば答えている。
「兄妹にしては距離が近いですね。まるで姫を守るナイトのようだ」
カーシもそれを見て口元を緩めた。
ウィンも圧倒的な強さで魔物退治に貢献した。
Bランクの自分達より明らかに強い。
なのにあまり目立とうとせず、手が空いた時は別のパーティを援護して怪我人がでないように立ち振る舞っていた。
それにどれだけ助けられたか。
「今はすこぶる穏やかな気分だ。あの2人がいれば暫くは安泰な気がする」
「死を覚悟したはずなのに今はこんなに穏やかに過ごしているなんて。不思議な気分です」
遠目にトウコとウィンを微笑ましく眺めながら、人生で一番美味い酒を交わした。
*****
翌朝、起きると村の中央から良い匂いが漂ってきた。村の女性達がみんなの為に温かいスープを作ってくれていたのだ。
そこにワイワイと村人や冒険者が集まっていく。
普通の冒険者にとって、ホームではない場所で朝から温かいスープが飲めるなんて大変ありがたいことなのだ。
それからは私も炊き出しを手伝い、魔物退治で余ったオーク肉をミンチにして豚肉の肉団子を作ったりと大忙しだった。
筏船の修理は昼前には終わって、荷物や魔物を載せる用の筏も追加で繋げてくれていた。
せっかくだから、倒した魔物が腐らないうちに先にフギ町のギルドへ運ぼうという話になった。
キャッティー村で復興の手伝いをするパーティの分は、ヒダカが目録を書いて、年配パーティのおじさん達が責任を持ってギルドへ運んでくれることになった。
年配パーティの平均年齢が50歳と言っても、治癒魔法を使えるおばあちゃんが70歳だから平均が上がっているだけで、他3名は40代だったりする。
脂の乗った年頃だ。冒険者としての経験と信頼は厚いみたい。
まず、復興を手伝うグループの魔物を船に乗せる。
それから帰還組が船に乗り込もうとしていた。
フギ町に帰還する者のほとんどは、後衛部隊のメンバーだ。
「船なら半日で帰れます。徒歩で帰ったことを考えると3日程時間に余裕がありますよね? 復興にご協力いただけると嬉しいです」
後衛部隊のリーダーがちょうど船に乗り込もうとしていたので挨拶がてらに提案をしてみた。
この人はいち早く応援に来てくれたから、期待を込めて言ってみた。
「は、ハイっ! もちろんです!」
少し声が裏返っていたけど、思ったよりも気持ちの良い返事がもらえた。
その上、船に乗ろうとしている他の人たちにも声を掛けてくれて、結局全員3日間は復興を手伝ってくれるみたい。
良い人だな。
3日の間に村人の共同仮設住宅は完成して、荒らされた建物などの廃棄物も大方片づけが済んだ。
小さな村だから獣人の力と冒険者の大人数で手分けすると意外に早い。
そして後援部隊のメンバー達は船に乗ってフギ町へ帰っていった。
この3日間で人間と獣人の距離感はかなり縮まったと思う。
カーシ率いるビッグバンビが積極的に獣人とコミュニケーションを取って、力を合わせて建物を修復していった。
キャッティー村は薬草栽培や農作物が豊富で薬草の調合や知識に長けた者も多いため、村に残った冒険者達の怪我を進んで治療してくれた。
たった3日間だけど同じ釜の飯を食べて同じ力仕事をして、お互いに大切な家族がある事も知って。
人間も獣人も命は1つなのだ。大切な物も同じ、思いやる心も同じなのだ。
互いに許せない部分もあるけれど、それでも少しでも関係が良くなる事を願う。
私とウィン、ヒダカなど前線部隊の大半はフギ町へは戻らずに引き続き復興の手伝いをした。




