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一歩前進

 

 キャッティー村の付近にまで広がった戦いは数時間に及んだ。

 キングクラスを倒し終わったあとは、後衛部隊の冒険者が魔物を退治すると張り切ってくれた。



「おかしいな、大サソリを倒した数が報告より一体少な……」

 ヒダカがそうつぶやこうとした時、カーシが30m程先から吹っ飛ばされてきた。


 ゴイィィィン!!

 ドサッ!


「「「大サソリだっ!!」」」

 みんな油断していた。

 大サソリの中でも稀に高い知能を持った個体が存在する。

 そういった個体は、岩場などで気配を消して奇襲攻撃をしてくる。


「カーシさん! 大丈夫ですか!?」

 ちょうど目の前に落ちてきたカーシに手を差し伸べた。

「あ、ああ……。あれ、何ともない?」

 カーシが首筋を触って不思議そうな顔をしている。


「確か、サソリの爪が背後から直撃したと思ったんだが……」

「良かったです。私のかけた魔法の効果がまだ続いていたみたいです」

 はぁ~と、安堵の溜め息が出た。


「あ、ああ。命拾いした。まさかこんなに強い防御魔法だったなんて。心から感謝する!」



 そんな会話をしている隣で、ウィンとヒダカは既に大サソリに向かって駆け出していた。

 大サソリが出没した付近にはビッグバンビのメンバー3人しかいない。戦力不足だ。


 カーシが飛ばされて奇襲に驚いたメンバーだったけど、すぐに態勢を立て直していた。

 ハートが風魔法で攻撃を仕掛け、弓使いも目を狙って応戦している。

 もう一人の剣士も攻撃しては弓と魔法攻撃のタイミングで一歩引いている。

 しかし、不利を悟った大サソリが前衛の剣士を尻尾で薙ぎ払った。


 ゴイィィン!

 前衛の剣士は私達とは逆方向へ飛ばされる。

 残るはハートと弓使いだけとなった。


 そこに、駆け付けたヒダカとウィンが攻撃を始めた。

「ウィン、お前は右側を頼む! 俺は左脚をやる!」

「はいっ」

 2人は的確に関節に狙いを定めて、脚を切っていく。


「尻尾は俺だっ!」

 体勢を立て直したカーシもいつの間にか駆けつけて参戦した。


「最後は頭で終わりだ!」

 動けなくなった大サソリにヒダカの最後の一撃で決着がついた。



「「「おおお~!」」」

「さすが、ギルドマスター!」

「ヒダカさんかっけー」

「あの美少年だれ?」

 それを見ていた冒険者達が興奮した声をあげていた。特に、後衛部隊はDランク以下のパーティもいるのだ。

 自分達では倒せない大サソリを倒したのだから尊敬の眼差しで見ている。

 最後、女性の桃色の声も聞こえた気がしたが。




 キャッティー村の中を見渡すと、まだ所々に魔物がうろついていた。


 村は見る影もなくなり、村を囲む柵は壊されて家も半壊、全壊状態である。


 ギルドマスターのヒダカが指揮を執った。

「魔物の暴走はひとまず収束した。しかし、残党がまだ村の中に残っている。あと一息だ! 気を抜かずに退治するぞ!」


「「「おおー!!」」」

 死者が出ていないおかげか、冒険者達の士気はすこぶる高い。



 冒険者達の奮闘の甲斐あって、それから1時間ほどで村の中にいた魔物は片付いた。

 村を一巡してヒダカが音花火を3回打ち上げ、青い狼煙も焚いていた。

 3回の大きな音。これは魔物が安全が確保された合図なのだ。人間も獣人も共通である。青い狼煙は遠方にも安全を知らせる合図。


 その後は冒険者がみんな手分けして魔物を魔法袋に入れたり、解体したりと大忙しとなった。

 基本的には自分達が倒した魔物は各パーティの取り分だ。


 私が倒したのは、光線銃でオークキング1体とオーガ2体。

 ウォーターカッターでオークキング1体、オーガ1体、魔物30匹。

 バリア水中は弱らせただけなのでカウントしない。

 バリアかまいたちで倒した大サソリは見るも無残だった。真っ先にそそくさと回収した。


 ウィンはオークキング1体とオーガ1体、魔物20匹。キングクラス以外にも他パーティの援護に回ったりもした。

 ヒダカと一緒に倒した大サソリは半分ずつに、最後にビッグバンビを襲った大サソリはウィンが切った脚部分をもらってきていた。


 ビックバンビはオーガ1体、大サソリ2体。

 女性パーティと中堅パーティはそれぞれゴブリンキング1体。

 若手パーティは大サソリ1体。

 年配者パーティは魔物を20匹ほど撃退してくれた。


 後援部隊も多くの魔物を退治してくれた。

 今回は魔物の数が多すぎたため、魔物を取り合う冒険者もおらず、各パーティで持ち帰れない魔物はキャッティー村の復興の為に使うことになった。


 明け方から戦いが開始して、一旦落ち着く頃には夕刻に差し掛かっていた。



「俺は獣人といえども魔物の被害に遭った村を放置はしたくない。少し復興を手伝うつもりだ。これは、魔物討伐の任務ではなく任意だが。しかし、残ってくれるものがいれば復興が進むだろう」

 ヒダカは声を大にして冒険者達に話した。


「そ、それは困ります! マスターがいなければ事務処理が……」

 サブマスターへの連絡係が戸惑っている。

「ギルドには暫く戻らないからとサブマスターに伝えてくれ」

 連絡係は少し粘ったけど、ヒダカの性格を分かっているのか最終的に納得した。


 ヒダカの『復興を手伝う』という宣言に、暫く冒険者達は騒然としていた。


「獣人なんて助けたくないぞ」

「僕はキャッティー村の獣人にいきなり殴られた事がある」

「俺は昔ダンジョンで獣人に助けられたから借りを返すぞ」

「まあ、マスターがそう言うなら手伝ってやってもいいけどよ」

「倒した魔物を早く町の買取りに出さなきゃ腐っちゃうよ」



 そこへ子供の明るい声が聞こえた。

「あ! ウィン兄ちゃん、トウコ姉ちゃん!!」

「トウコお姉ちゃ~ん!」

 ネロとモモが走ってきた。


 ぼふっ。

 すごい勢いで走ってきたネロをウィンが、モモを私が受け止めた。

「良かった! 無事だったんだね」

 本当に無事で良かった。


 ネロとモモの後ろから大人獣人が5人こちらに向かって歩いてきた。

 両親と村長達だ。

 何かとすぐに攻撃してくる獣人に対して冒険者の一部は臨戦態勢に入った。


 しかし、村長は私達人間に深々と頭を下げた。


「この度は、魔物の暴走を止めていただいて……ありがとうございました」

 村長の異例の態度に、冒険者達も困惑気味だ。


「先日は我が子を村に送り届けていただいたのに、お礼も言わぬまま申し訳なかった」

 次は、ネロとモモの両親が私とウィンに頭を下げた。


「「ありがとうございました」」

 続いて、側近と連絡係の男2人も頭を下げた。


 ギルドマスターのヒダカも含め、冒険者達はさらに困惑した。

 獣人の村に住んでいる者が人間に素直に礼を言うことなんて今までなかったのだ。




「村長! ご無事で!!」

「あれ? なんで人間なんかに頭を下げているんですか!!」

 そこへ、避難場所へ避難していた獣人達がぞろぞろとやってきた。みんな音花火に気付いて出てきたのだ。


 洞窟から出てきた獣人は人間に警戒を強めながら近づいてきた。

 そして、冒険者はその獣人達に警戒をする。

 一触即発の事態になったかのように思えた。



「お前達! この状況が分からんのか! この冒険者達が魔物の暴走を食い止めた」

 村長が獣人に一喝するが、獣人は納得できてない。


「ま、魔物の暴走なんて放っておけば、いずれ立ち去っていたんですよ」

「「「そ、そうだ、そうだ!!」」」


「……もし、そうだったとしてもだ。それでも、この者達は命を懸けて魔物と戦ったんじゃ。命は我々獣人も人間も一緒じゃよ」


「……はい」


「それに、教会の地下で過ごした儂らはここにいる人間のおかげで今生きておる」


「村長、どういうことですか?」


「儂らが逃げ込んだ教会の地下には食糧は1つもなかったんじゃ。トウコさんとウィンさんが孫に食糧を持たせてくれてなかったら、いくら儂らといえども1週間過ごせたかどうか……。確かに獣人にとって人間は我が子を誘拐するような存在だ。しかし、みんながみんなそういう人間ばかりでない事を知った。人間と見れば見境なく攻撃する儂らも反省しなければならん。それに、こんな儂らの村の復興を手伝ってくれると言っている人間もいる」


 …………。


 少し獣人達も冷静になってきたようだ。



 みんな、頭では分かっているのだ。獣人に助けられた人間もいるように、人間に助けられた獣人もいる。

 実際に人間に会った事がない獣人もいれば、獣人に会ったことがない人間もいる。噂話や人伝いの話で固定観念を抱いていた事があるのは否めない。


 ただ、今目の前で実際に見えている事実は、人間の中にも村の復興を助けようとしている者と、裏表のない子供が人間を信頼して近付いているという事。


 獣人にも人間にも悪い者は沢山いる。

 しかし、それだけではないという事をみんな頭の中では分かってはいたけど、今までの慣習や事例で悪循環になっているのだ。 


 お互いにいがみ合っているが直接の私怨がある者は意外に少ない。



 暫く膠着(こうちゃく)状態が続いたが、やがて獣人の中からポツポツと言葉が出てきた。


「……魔物を退治していただいてありがとうございます」

「復興を手伝ってくれるとありがたい……」

「実は……私は森で遭難した時に人間の冒険者に助けられたことがあります」


 冒険者の中からも声が上がりだした。

「なに、困った時はお互いさまだ」

「俺も獣人に食料を分けて貰ったことがある……」



「さあ、ここでうだうだ話していても日が暮れるだけだ。村の復興は任意だ。俺は手伝う。だが、みんなそれぞれ思うところもある。予定がある者や帰りたい者は帰っても誰も責めることはないさ。それに、あまり日数を置くとせっかくの魔物が腐っちまう」

 ヒダカが仕切り直した。1つの町のギルドマスターだけあって威厳がある。



「あの! もし宜しければ村の近くを通る大きな川を利用してください。山道を戻るとなればフギ町まで3、4日かかりますが、風魔法を使いながら川を下ると半日程で着くと思います」

 ネロとモモの叔父であるトトが提案してきた。


 魔物の暴走があったけど、川の中央に浮かべている(いかだ)までは被害に遭っていなかった。

 少し修理すれば使えるようだ。


 キャッティー村からフギ町までは、大きくて流れの緩い川が流れている。


 今まではキャッティー村とフギ町で互いに関所を作って閉鎖していたのだ。

 しかし、キャッティー村で関所を解放してくれると、あとは下るだけ。

 フギ町の関所で人間であることが証明されればすぐに入ることができるだろう。




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