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キャッティー村での出来事

今日は少し短いお話です。

 

 遡ること数日前



 ネロとモモを送り届けたその日は、ちょうどトトや村の男達が魔物の警戒にあたっていた。

 数週間前から魔物の暴走の兆候があった。

 日に日に増していく前触れにみんな気が立っていた。


 ネロとモモが発見されたのはその時だった。

 偶然人の話し声が聞こえてきて、そっと近づいてみると獣人の子と私達がいたのだ。



 一方、村長の家では避難場所などの対策を練っていた。

 そこに誘拐された孫が無事戻ってきたという報告があり、村長は嬉しさ半分、タイミングの悪さを感じていた。

 誘拐した『人間』という種族にもっと文句を言ってやりたかったが、魔物の暴走の恐れがあってそれどころではなかった。さっさと帰ってほしかった。




 ――魔物の暴走が起きた日、ネロとモモは両親や村長と共に村はずれの教会にいた。

 ネロとモモが無事にキャッティー村へ戻ってくることができた感謝の祈りをしていたのだ。


 ――村の男達は、魔物の襲撃で破壊された囲いを強化するために村の外周で修理をしていた。

 その為、男達は山向こうのボーボア村から赤い狼煙(のろし)が上がっていることにいち早く気付いた。

 ボーボア村は主にイノシシ獣人が多く住んでおり、交流がある。

 赤い狼煙は魔物暴走の合図だ。


 ボーボア村のおかげでいち早く気付くことができたが、想像よりも魔物の進行が早かった。

 緊急笛が鳴り響き、トトが指揮を執り女子供は何とか素早く避難させることができた。

 男達も弱い者たちを守りながら命からがら避難所へ逃げ込んだ。


 村長邸へも連絡をよこした。

 しかし、連絡係の男と村長一家はとうとう避難場所に来ることはなかった。

 様子を見に行こうにも外は魔物が溢れて出ていくことができなくなってしまっていた。



 連絡係の男が村長の家に着いた時、村長一家は屋敷にはいなかった。

 タイミング悪く、避難所とは真逆にある村はずれの教会に来ていたからだ。

 

 連絡係が教会に到着した時にはすでに魔物が迫っていた。

 村長一家と側近の男と共に教会の小さな地下室へ入ることになったのだった。


 地下室には食糧などの備蓄品の準備はなく、だからといって止まない魔物の足音で外に出ることもできなくなっていた。


 2日経っても、3日経っても魔物の気配はなくなることなく、助けも来なかった。


「お腹空いたね~」

「あともう少しの辛抱だ」

「ネロ、モモ、もう少し頑張ってね」

 お腹が空いたと言い出す子を両親が宥める。


 側近の男が水魔法を使えたため、今は水だけで過ごしている。

 いくら獣人が数日間は食べなくても大丈夫と言っても、人間より少し強いぐらいだ。

 当たり前に空腹はやってくるし、食べなければ体も弱る。



「あっ! おじいちゃん、腕怪我してる~」

「儂は大丈夫だ」

「あのね、トウコお姉ちゃんって、おまじないするだけで怪我が治せるんだよ」

「そうなの~! 『痛いの痛いの、飛んでけ~』って」

「そんな治癒魔法の詠唱は聞いたことがないぞ」

「え~? でも痣とか傷が消えたの~」


「ウィン兄ちゃんは剣がとっても強いんだ」

「トウコお姉ちゃんはお料理も美味しいんだよ~」

 ネロとモモが嬉しそうに話を始めた。


「お前達はあの人間に大層可愛がってもらったんじゃな」

 村長は人間が獣人の子を可愛がるなんて意外だと言わんばかりの表情をしている。

 周りの大人たちも複雑な表情だ。


「うん! ボロボロだった服やローブも買ってくれたよ」

「リュックと水筒も買ってもらったよ~」

 そう言って、モモがリュックや水筒の自慢を始めた。

 2人はお気に入りのものをずっと見につけている。


「「あっ!」」

 ネロとモモは顔を見合わせる。

 リュックには携帯食が入っているという事を思い出した。

 子供だからか、ただ単にリュックというものが嬉しかったのか、2人はすっかり中身の事を忘れていたのだ。


 普通ならリュックにいろいろ詰めたり出したりしそうだけど、両親に会えた喜びもあってそのままずっと持ち運んでいた。



「トウコお姉ちゃんが言ってた! もし何かあったらこれで過ごせばいいって」

「リュックに携帯食が入ってるって言ってた~」

 2人は大急ぎで中身を確認し始めた。


 携帯食が1人3日分とお菓子として飴玉に干しリンゴ、大判で薄手のタオル。それから、止血用の薬草が数枚。

 携帯食は干し肉や固パンなのであまり重くない。

 タオルも薄手だから嵩張らなかったから、こんなにいろいろ入っているとは2人とも知らなかったのだ。



 次々と出てくる旅用品に大人たちは沈黙していた。

 このリュックの中身は遭難した時に数日生きられるものばかりだ。

 本当に子供達の安全をきちんと考えていないと、ここまでの物を揃えられるはずがない。


 これを見て、両親は目に涙を浮かべた。


 人間の中でも我が子を大切に想ってくれる人がいて嬉しかったのだ。

 それに、そんなに親切にしてくれた人にお礼の一言も言わずに、それどころか攻撃したのに謝罪もせずに嫌な思いをさせたまま帰してしまったことを後悔した。


 お礼も謝罪も、このままもう二度と言うことができないかもしれない。



「儂は、間違っておったかも知れん。人間は全員悪い奴らだと固定観念で物を見とったのかも知れん……」

「「俺達もです」」

 側近や連絡係の男も小さな声で呟いた。


「トウコお姉ちゃんって、すっごく心配性なんだよ」

「これ、みんなで食べよ~」


 教会の地下に閉じ込められたメンバーは、携帯食を少しずつ分け合った。

 また、村長の腕の怪我は薬草とタオルを細長く裂いて応急処置された。


 こうして、魔物が去るのを待っていたのだった。



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