スタンピード
ギルド内が慌ただしい。
山の向こうで魔物の暴走が発生した。
このままでは、山を越えてフギ町にも被害がでる可能性があるからギルド職員達は対応に追われている。
魔物の暴走とは、オークキングのような存在が1体だけでなく何体か現われたり別の種族の魔物と合同で群れをなして大移動しながら人の村を襲ったりすることだ。
ただ、多数の種族の合同の場合は統率が取れているわけではなく、いつもより狂暴になって荒れ狂った状態になる。
暫くすると、ギルドマスターが出てきて説明を始めた。
「ギルドマスターのヒダカだ。みんなも知っている通り、山を越えた付近で魔物が暴走している。すでに、ギルドの斥候に様子を見に行かせているが、このままだと山を越えてフギ町にまで魔物が入ってくる可能性がある。フギ町を守るため、魔物の暴走を止めるため、有志で討伐隊を結成する!」
山を越えて直接魔物を討伐に行く前線部隊と、それを後方で援護しながら防衛線を張る部隊の2部隊に分けるようだ。
しかし、有志による募集のため依頼料は安い。そのため、後方で防衛線を張る任務の希望者が多い。
みんな安いお金で命をかけるのは嫌なのだ。
それは理解できるが、だがそれ以外の理由もあるようだ。
「俺は、防衛線の希望だ。わざわざ、獣人の村なんか守りたくないぞ」
「獣人は獣らしく魔物と遊んでやがれ」
そんな声が次々と上がってくる。
「あの! 魔物が暴走している場所って、もしかしてキャッティー村ですか!?」
思わず、ギルドマスターに駆け寄った。
「そうだ。獣人の村付近での暴走だ。だから行きたくないとバカな事を言う奴がいる。獣人だ、人間だって言っている場合ではないんだがな」
フギ町付近の地理関係がよく分からなかったから周りの雰囲気を見ていたけど、どうやら暴走地はキャッティー村の付近のよう。ネロとモモの村だ。
「魔物の暴走はいつからですか?」
「昨日情報が入ってきたところだが恐らく3日前だ。まあ、ここ数週間前から兆候が見られていたがな」
3日前と言えば、ネロとモモを送り届けた日から2日後だ。
私達がのんびり旅をしている間に、そんな事があったなんて。
「あの、キャッティー村は無事でしょうか!?」
「うむ、分からんが、数週間前から兆候があったはずだから対策は取っていたとは思う。しかし、多少の犠牲は免れないだろうがな」
ヒダカの言葉に血の気が引く思いがした。
そう言えば、キャッティー村の村長も、魔物の襲撃で今は人間にかまっている時間はないと言っていた。
それに私とウィンが獣人に拘束された時もみんなが武装していた。
もしかしたら、村の周りを魔物の警戒に当たっていたのかも知れない。
「トウコ、俺達も討伐隊に加わろう」
「うん」
ウィンも村を心配している。
何だかんだでネロはウィンにすごく懐いていて、時間があれば剣術を教えてあげたりして弟のように可愛がっていた。
討伐隊は先に山を越えて前線に立つ部隊が30人、後衛部隊が50人。それ以外に連絡係など。
思ったよりも前線部隊の人数が多いことに安心した。
中堅冒険者になってくると、獣人に助けられた経験や獣人の冒険者に接する機会がある人達も増えてくるらしく差別意識は薄いみたい。
前線部隊にはギルドマスターのヒダカも同行することになった。
ギルド内での仕事が山積みだと、半泣きのサブマスターに止められていたけど、ヒダカは戦いとなると出陣したがるようだ。
出発は正午。
あと3時間ほどあるからお弁当や携帯食、調味料を多目に買っておいた。
本当は今すぐにでもキャッティー村に向かいたいところだけど、ウィンに止められた。
魔物の暴走は侮ることができない。それにまだ規模も分からないから私達だけで行くのは無謀らしい。
正午。
私達の所属する前線部隊は、後衛部隊よりも先に出発する。
前線部隊の目標は通常3、4日かかる道のりを、3日目の朝にはキャッティー村へ到着するように歩く。
歩く速度は速いけど難なくついていける。
一方、後衛部隊の今回の主な仕事は、いざと言う時の前線部隊の援護と、魔物が町へ侵入するのを防ぐことだ。
出発から1日目の夜、おおまかに自己紹介が行われた。
前線部隊は危険が伴うため、それぞれの役目は重要になってくる。
「あ~、知っている者も多いと思うが、フギ町のギルド長のヒダカだ。俺は指揮をメインにするが、こう見えても元Bランク冒険者だ。自身も剣士として戦う予定だ。よろしくな」
次にBランクで4人パーティの『ビッグバンビ』の紹介だ。
「俺はリーダーのカーシだ。前衛で剣士」
「私はハート。火と風の攻撃魔法が得意よ」
他2人のメンバーは前衛の剣士、後衛の弓使い。
リーダーのカーシは、体が大きく強面の赤髪だけど目は鹿のように愛らしい。25歳の男性だ。
ハートも赤髪でカーシの妹。だけど、カーシとは違ってスレンダー美女。
他2人の剣士と弓使いは幼馴染らしい。
全員Bランク冒険者で、この辺りでは有名なパーティらしい。
私とウィンも簡単に自己紹介する。
「俺は『ペガススアイ』のウィン。前衛で剣士」
「私はトウコ。治癒魔法と攻撃魔法を使います」
ビッグバンビ以外にも、4組の冒険者パーティがいる。
Bランクパーティが1組、Cランクパーティが3組だ。
・Bランクで、平均年齢50歳という年配パーティ 4人
・Cランクで、18歳から29歳の女性だけのパーティ 5人
・Cランクで、25歳から30歳の中堅パーティ 5人
・Dランクで、15歳から23歳の若手パーティ 10人
ちなみに若手パーティ10人組は、個人のランクはBからDと幅広い。
各パーティにはそれぞれ魔術師や剣士、弓使いがバランスよく組まれている。
基本的にパーティごとに魔物に対峙する。いつもと同じパーティの方が連携が取りやすいからだ。
「各自怪我をした場合は基本はポーションで治療。持ち合わせが無くなった場合には治癒魔法使いを頼るように」
ヒダカが指示を出した。
ちなみに治癒魔法が使えるのは、年配パーティ所属のおばあちゃんと私の2人しかいない。
村への到着予定の前日になると魔物が増えてきた。そして、先発していたギルドの斥候2人と合流した。
報告内容によると、魔物の数は100~150匹。
通常の魔物以外にもオークキングが3体、ゴブリンキング2体、その他、オーガや大サソリがそれぞれ5体程。
「何だって!? くそっ! 魔物の数が多すぎる。それにオークキングクラスが15体もいやがる。後衛部隊に応援を頼もう。連絡係2名は至急、後衛部隊に連絡を取ってくれ」
ヒダカの指示を聞き、連絡係はすぐに後衛部隊へ駆け出した。
「みんな、聞いての通り、魔物の数が多すぎる。明日には村に着く予定だったが、取り敢えずここで待機する。村は壊滅的な被害のようだ。それとだ、ここも襲われたらひとたまりもない。あまり魔物を刺激しないように今夜は静かに過ごしてくれ」
目と鼻の先にキャッティー村があるのに、待機しないといけない。仕方がないのは分かっている。でも、そんな状況に私もウィンも憤りを感じていた。
ネロとモモは無事なのかも分からない。
せっかくご両親に会えたと言うのに、こんな事になるなんてタイミングが悪すぎる。
「お前達、そんなに焦ってキャッティー村に知り合いでもいるのか?」
ビッグバンビのリーダーであるカーシが話しかけてきた。
「はい。実は……」
ネロ達との出来事を大まかに説明した。
「なに、きっとどこかで避難しているさ。それに、戦いに焦りは禁物だ。これでも食って心を落ち着かせるといい」
そう言って、飴玉をくれた。
「飴玉……?」
「ん? 嫌いか?」
「いえ……」
「いやぁ、昔からのクセだ。飴玉食べると甘くて落ち着くだろ」
そう言って、フードの上から頭をワシワシと撫でてきた。
「それはお兄ちゃんだけよ……」
カーシの妹のハートがつっこんでいる。
兄妹仲が良さそうだ。
「まあ、何にせよ今の状況は多勢に無勢だ。村の奴らの心配も良いが、自分たちが多数の魔物から生き延びることを考える方が先だ」
「はい」
さすがBランク冒険者だけあって、落ち着きを感じさせられた。
今までも数々の困難を乗り越えてきたのだろう。
カーシの言う通り、焦燥感に駆られていた。
今はキャッティー村も心配だけど、魔物を倒す事を優先して考えよう。
「ねえ、ウィン、少ない魔力で倒せる方法ってないかしら」
「以前オークキングが出た時に、光のようなものを撃ってたよね。あれは魔力を多く使う?」
「そんなに消費量は多くはないけど、1匹ずつ命中させないといけないから時間がかかるわ。ウォーターカッターは離れた場所じゃないと味方を巻き込む危険があるし……」
「確か、ネロ達を助けた時に遠くのネロ達にバリアを飛ばしていたよね」
「うん、そういえば飛ばしたわね」
「じゃあ、そのバリアを張って中をミンチに……」
またウィンが想像するだけでも残酷なことを言おうとしている。こんな時に、半分からかっているのだ。
けど、ウィンのおかげで良い方法を思いついた。
以前、ラーナ町で商隊護衛した時に、レッドサンダーのケニックが、オークキングと戦うロマンを魔法で援護していた。
その時ケニックは、魔法で水幕をオークキングの顔に張り付けて息ができないように弱らせていた。
バリア内に水を張ると、それが遠方からでも簡単にできる。
生き物を効率よく殺す事を考えている自分に嫌気がさすけど仕方がない。
弱ければ殺されてしまう世界なのだ。




