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招かれざる客

 

 その後の旅は、驚くほど順調に進むことができた。


 高原を行くルートはほとんど魔物の襲撃はなかった。

 探知魔法を使っている上に見晴らしも良いため、魔物がいてもすぐに対処できる。



 そして出発から7日目。


「わぁ! 僕の村が見える!」

「ほんとだ~! わ~い!」

 ネロとモモの故郷。キャッティー村が見えてきた。



 キャッティー村は、簡易な木の柵で囲まれた小さな村だった。


 村近くには大きな川が流れていて、村の中にも小川がある。

 小川沿いに色とりどりの花が植えられていて、畑も多く、薬草も栽培されている。

 自然の中に調和するように可愛い小さな煉瓦造りの家が並んでいる。

 100人程の集落だ。


 でも、ところどころで木の柵や家が壊れていた。この世界の小さな村ってこんな感じなのかな?



「俺達が送っていくのはここまでにしよう」

「え? でも、村までまだ距離があるよ。それにまた誘拐されるかと思うと心配だし……」

「じゃあ、もう少し進んだところまでにしよう。俺達人間は獣人の敵だから」

「うん……そうね」


 今はネロもモモも懐いてくれているから、すっかり忘れていたけど、確かにこの子達も初めて会った時はかなり警戒していた。

 ここは穏便に済ますためにも、私達は近付かない方がいい。

 せっかく、仲良くなれたのにお別れするのは辛いけど、仕方がない。胸が痛くなった。



 暫く歩き、お別れの場所に着いた。

「ネロ君にモモちゃん。もうお別れだわ」

「やだ! モモ、お姉ちゃんもいっしょに暮らしたい」

「モモ! パパとママが心配してるんだよ。でも、僕も……僕も……」

 もうすぐお別れしなければならない事に気付いたのか、モモが泣いて駄々をこねだした。そして、モモを(なだ)めようとしたネロまでも泣きだした。

 ああ、2人とも可愛すぎる~!!


「2人とも、元気でね……」

 私も鼻の奥がツーンとする。2人を抱きしめた。

 暫くしゃがみ込んで別れを惜しんでいると、探知魔法に人の反応が出始めた。10人ぐらいだろうか。


「トウコっ!」

「うん」



 あっと言う間に獣人に囲まれた。

「あっ、トトおじちゃん!」

「……。ネロか……!?」

「うんっ! モモもいるよ」

「ネロに、モモ! 無事だったか!! こっちへおいで」

 そっと2人の頭を撫でて「行っておいで」と解放した。


 ネロとモモは私の顔とトトの顔を交互に見たあと、名残惜しそうにトトに向かって歩き出した。

 トトはどうやら、ネロとモモの叔父のようだ。

 トトの耳や尻尾はネロと同じでトラ柄だけど、大人獣人だけあって大柄の中年男性。右の額に大きな傷がある。


 2人は無事にトトに保護された。

「パパとママは元気?」

「ああ、お前達の事を心配しているよ。すぐに会いに行こうな」

 そんな会話が聞こえてきて一安心したから、よいしょっと、立ち上がろうとした瞬間、背中に鈍い痛みを感じた。



 どんっ!!


 突然、槍のような物で背中を押された? 前のめりに倒れた。普通なら槍が刺さるんだろうけど私の体はどうやら硬いみたいで押された感覚になった。

「うっ……」

 

「トウコ! 大丈夫か!?」

 ウィンは獣人に剣を向けようとはせずに、上手く槍を避けて一瞬で私のそばまで来た。



「やめてー!!」

「キャー!! みんなやめて!」

 あまりに一瞬の出来事で呆然と見ていた、ネロとモモが事態を分かって取り乱し始めた。

「こら! お前達やめんか!」

 これにはトトも驚いたようで攻撃した獣人を叱責した。


 サビ色の毛の獣人が突然、私とウィンに攻撃を仕掛けたのだ。

 話も聞かずにいくらなんでもこれは酷いよね。


 ウィンに抱き起こされ、ゆっくり立ち上がる。

 不意打ちの攻撃にビックリしたけど、体は全然大丈夫。防御Sランクのおかげね。


「な、なんだお前っ! 怪我もしてないのかっ!」

「……何ともないわ。私達はネロ君とモモちゃんを送ってきただけよ。あなた達に危害を加えようとは思ってない」


「嘘を吐くな! お前たち人間はいつもそうやって俺達を油断させて子供達を誘拐するじゃないか!」

 他の獣人達も「そうだ! そうだ!」と言って聞く耳を持ってくれない。


「トウコお姉ちゃんと、ウィンお兄ちゃんは僕たちを助けてくれたんだよ!」

「モモ、トウコお姉ちゃん好きなの~。ううっ、ぐすん……」

 モモがまた泣き出した。


 …………。


 暫くの沈黙のあと、トト達が私とウィンを縄で拘束した。

「悪いな……お前達の話が本当か嘘かは村長が判断する」

 村長の元へ連行されるようだ。


 拘束を避けようと思えば避けることもできたけど、そんな事をすれば獣人達の間にまた溝ができると思い、おとなしくすることにしたのだ。

 念の為、ウィンと自分にバリアを張った。


「トウコ、怪我はないか?」

「うん、何ともないわ」



 村の中心にある屋敷が村長の家。

 屋敷といっても、小さな村だからそんなに大きくない。

 屋敷前にはネロとモモの両親と村長らしき人物が待っていた。


「ネロ、モモ! 無事だったか!!」

「うんっ!」

「おじいちゃん、パパ、ママ~!!」

 ネロとモモが走って行く。


 みんな、子供達との久々の再会に花を咲かせていたが、こちらに気付き私達は屋敷内に案内された。

 まあ、連行されたと言った方が正しい状況だ。


 応接室に通されると、やっと拘束を解かれた。

 トトと数人の獣人に監視をされながら1時間ほど経った頃、ようやく村長が部屋に入ってきた。



「この度は、孫を村まで送ってくれて礼を申す」

 礼を申す、と言う割にはソファーに深く腰をかけて横柄な態度だ。


「…………」


「しかし、孫達はダンジョンで魔物に襲われ大変危険だったそうじゃな。これも全てお前達人間が誘拐したからじゃ。孫を危険な目に合わせたのも人間、助けたのも人間……儂らは人間が信用できんのじゃ。それに最近は魔物の襲撃が増えて人間にかまっている時間も勿体なぐらいだ。悪いが、このまま帰ってはくれんかの」


「ええ、そのつもりです」

 こんなにも、獣人と人間の間に隔たりがあるのかと思うと悲しい。



 席を立ち、出口に向かおうとした所でウィンが厳しい表情で獣人達を見据えた。

「おっしゃる通り帰ります。しかし、いくら何でも無抵抗な人間に攻撃を仕掛けてきたことは俺は納得いきません。たまたまトウコだから無事だったものの普通なら致命傷だ」

 ウィンは、私が攻撃を受けた事を酷く怒っている様子だ。


「それに関しては悪かった。申し訳ない……」

 村長は何も応えず、トトが謝罪の言葉を口にした。


「あなた達は人間を見ると手当り次第攻撃する。だから、獣人は野蛮な種族だと思っている人間が多いはずです」

 ウィンの怒りを含んだ悲しそうな表情と共に、私達は屋敷を後にした。



 結局、最後にネロとモモにも会うことも許されないまま村を出て、最寄りの『フギ町』へ向かうことになった。

 フギ町へは徒歩3、4日の距離だ。急ぐ旅でもないからウィンとのんびり行くことにした。



「……獣人と人間って、こんなに仲が悪かったんだね」

「そうだよ……トウコは知らなかったの?」


「うん。獣人も初めて見たぐらいだからね」

 ウィンには開き直って、本当に何も知らない事を言う。


「人間は獣人の事を野蛮な種族だと思っている。獣人は人間を見ると、否応なしに攻撃してくる者が多いからね。獣人に無差別に攻撃された人間も少なくは無いんだ。だからこそ人間は獣人を奴隷にした時に辛く当たる者が多い。そんな人間や獣人ばかりではないんだけどな。でも、いつの頃からか悪循環になってるんだ」


 少なくとも、人間の町で冒険者をやっている獣人はそこまで人間に敵対心を持っている訳ではないようだけど、僻地へ行けば行くほど人間と獣人の仲は良くないらしい。


 今までは一方的に人間が獣人を差別しているだけかと思っていたけど、人間と獣人の間柄はそんな単純なものではないようだ。


 つくづく、私はこの世界の事を何も知らないと思い知った。




 久しぶりにウィンと2人だけの野営をして、5日目の昼にフギ町へ到着した。


 普通にいけば3、4日の距離だけど、早い時間から野営をして料理を作って水場があれば休憩してと、ゆっくりと過ごしたのだ。

 1つだけ大きな山はあるものの、それ以外は比較的歩きやすい道が続いている。



 フギ町はラーナ町と雰囲気が似ていたけど、まだお昼だというのになぜか宿屋は満室が多かった。

 やっとの事でツインルームを確保することができた。

 銭湯が近くにあり、ゆっくりとお湯に浸かれるのは12日ぶりだ。



「ふぅ。さっぱり!」

 やっぱりお湯に浸かると疲れが取れるわ。それに、髪も体も石鹸で洗えるから良い匂いがするのが嬉しい。

 洗浄の魔法だけだと、汗の臭いや汚れは落とせるけど石鹸で洗った時のスッキリ感はなく無臭になるだけだから。


 銭湯を出ると、ウィンが待っていてくれた。


「お待たせ、待った?」

「いや、俺も今出たところだよ」

 今出てきたところの割には髪が乾いているから、少し待たせてしまったみたい。

 歳の割にウィンは紳士的だよね。




 翌朝はフギ町の冒険者ギルドへ行ってみた。もちろん、ウィンの言いつけ通りにフードを深く被る。

 ギルド内は朝は賑わっている事が多いけど、それにしても職員までもが慌ただしくしていた。


「あの、何かあったんですか?」

 隣にいた冒険者に聞いてみた。


「山の向こうで魔物の暴走があった」



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