間の悪い冒険者
ウィンが冒険者3人組に向けて静かに剣を構えた。怒っている。
「す、すみませんでしたっ!」
1人の男が土下座すると、残りの2人も土下座で謝罪してきた。
そうなのだ。この人たち、色々とやらかしている。
まず、魔物に追われて誰かに助けて欲しい気持ちは分かるけど、そのまま魔物を引き連れて他人の野営地に逃げ込むなんて論外だ。
そんな事をしていると、野営をしている人も一緒に襲われて被害が大きくなるだけだから。
それと、どこかで見たことがあると思ったらこの人たち、私とウィンが冒険者登録をしようとした日に「魔犬をよこせ」と絡んできた冒険者だ。
「トウコはどうしたい?」
「どうしようか」
意見を聞かれても、この世界の常識とか分からない。
こうやってちゃんと謝罪してきてるし、どうしようか。
「3人まとめてここで会わなかったことにする?」
「え?」
「こいつらは、ここで魔犬に喰われてすでに死んでたってこと」
ウィンがすごく良い笑顔。いや、怖いよ?
「ひぃぃぃ!」
「どうか! お助けを」
「すみませんでした!!」
3人の体が目に見えるぐらい大きく震えている。
「またギルドで新人が絡まれても迷惑だからね」
美形の冷たい笑顔。コワイよ?
「ちょっと! でも魔物を殺すのと人間は違うと思う! えっと、それに、これからは新人には親切にするって約束しよう。うん、そうしましょう!」
焦って自分でも何を言っているか分からなくなってきた。
私とウィンが言い合っている間にも3人は地面と同化するぐらいぺったりと頭をつけてブルブルと震えている。
――クスッ。
ウィンの肩も少し震えている。笑いを堪えているらしい。
「こんな時に……」
なに笑ってるの? って言おうとしたら人差し指を口に当てられた。
「仕方ない。俺はここで出会ってなくても良かったけど、妹が可哀想っていうから今回だけは見逃してやる」
ウィンが冷めた目でそういうと男達は恐る恐る顔を上げた。
ウィンってたまにSっ気あるんだよね。
そして、また私の事を妹って。その設定続けるのかと遠い目になった。
なんで男たちがここにいたかっていうと、野生のコッケドリや小さな魔物を狩るうちに方向を見失って、この2日間彷徨い歩いていたらしい。
疲れ果てて歩いているうちに、誤って魔犬のテリトリーに入ってしまったみたい。
一応、1対1だと何とか倒せるけど群れでぞろぞろ出てきたから勝ち目がないと思って逃げてきたっていうことだった。
魔犬を1人で3匹も倒せるはずがないって絡んできたのは、冒険者経験3年目の自分達でも1対1が限界なのに、初心者が3匹も倒せるはずがないって本心から思っていたらしい。
魔犬に追いかけられていただけにしては、やけにボロボロだと思ったら2日前から遭難していたのね。
この人たち見た目は怖いのに、なんていうか、色々と残念な感じなのかも知れない。
私達が話し込んでいると、ネロとモモが「もういい?」とテントから顔を出してきた。
「なっ! 獣人!?」
素早くウィンが男の首に剣を向けた。
「いや、あ、違います! 誰にも言いません!」
私達が獣人の子を誘拐したと勘違いしたみたい。
確かに、さっきからのウィンの言動を見ていると非道な人に見えなくはない。
「誘拐じゃないよ。モモを助けてくれたの」
私の後ろに隠れながら、こてっと首をかしげて言うモモは最高に可愛い。
ネロとモモがいるから、あまり信用できない人をそばには置きたくないけど、じきに日が暮れる。
今からではラーナ町に帰れないだろう。
ウィンは嫌そうだったけど、見捨てることはできない。
予備に持っていたテントを貸してあげて、一緒に野営することにした。
トラブルはあったけど、夕食の時間まではまだ余裕がある。
3人組のことはウィンに任せて、私はその間にご飯を作ろう。
念願のハンバーグ作りに挑戦しようと思う。
オーク肉とカウミーツ肉を合わせて、豚肉と牛肉の合挽きミンチを作る。
始めは包丁でミンチを作っていたけど、さすがにキツイ。
どうにか魔法でできないかと、肉にバリアを張り、そのバリア内に風魔法で「かまいたち」のように切り刻むのをイメージする。
「バリア内、ミキサー!」
すると、手や道具を汚す事なくミンチが完成した。
肉が細かくなり過ぎないように調整。
玉ねぎや硬いパンもミキサーにかけて、玉ねぎのみじん切りとパン粉を作る。
そこに塩コショウや卵と肉を混ぜて、後は形を作って焼いていく。
地球にいた時よりも簡単にハンバーグのできあがりだ。
自家製ケチャップをかけてブロッコリーやニンジンを付け合せて、一緒にパンとスープも用意した。
もちろん、3人組の冒険者の分も用意したよ。流石に自分達だけ食べるってないよね。
3人組は少し離れて食べることになり、ウィンが持って行ってくれた。
暫くして「美味い」と、すすり泣くような声が聞こえた。
「さあ、私達も食べましょう」
「おいひ~」
「お肉なのにやわらかい~」
「トウコの料理は何を食べても美味しい」
子供達もウィンも大喜びだった。
「沢山作ったから、いっぱい召し上がれ」
自分が作ったものを美味しいと言って食べてくれる人がいる。幸せだ。
もし、地球で婚約者を寝取られることなく結婚してたら毎日こんな光景を目にしていたかもしれない。
ちなみに、猫に玉ねぎは体に毒だから、モモとネロに事前に確認したけど普通に食べて大丈夫とのことだった。
汚れた食器類の片付けも魔法で簡単。
油や食べかす等の汚れを分解するイメージを作り、それを丸くまとめる。丸くまとめた食べかすは、捨てると魔物のエサになるからアイテムボックスにしまっておく。
夕食後、汗をかいたみんなの身体に魔法をかけて、汚れを落としていく。
最近はだんだん慣れてきて、かなり便利な魔法をいくつか発見できた。
ちなみに3人組も魔法で汚れを落としておいた。
申し訳ないけど、汚れたまま貸しているテントで寝られるのには少し抵抗があった。
ついでに怪我もしていたから治しておいた。足を引きずって歩いたり、明らかに腕を庇っていたから。
就寝時はテントから半径10mにバリアを張って、探知魔法で警戒して眠る。
私のテントの周りは悪意のある人間からも守れるようにバリアを足した。ダンジョンで盗難被害に遭ってからの追加オプションだ。
テントの中は私とウィンの間に子供達を挟んで眠ることになった。幼い子って体温が高いから温かい。
「トウコの魔法ってほんとすごいね」
「へへっ。自分でも驚くほど便利よ」
「言いにくいんだけど、『ミキサー』って魔法、トウコの魔力があれば普通の魔物や大型の生物にも使えるんじゃ……」
「えっ!?」
生きている魔物をミキサーにかける。想像しただけでも残酷だ。ウィンのせいで、夜は夢でうなされる事となった。ウィンめ……!
翌朝、悪夢のせいで寝不足気味だったけど、手早く出発の準備をした。
簡単に朝食を食べて、3人組には1食分の携帯食を持たせてあげた。
ここからラーナ町までは大人の足で歩けば夕方までには着くから大丈夫だろう。
*****冒険者3人組
俺たちは小さな村の幼馴染だ。
村では悪ガキ共と言われていたが、人気があった方だ。
農業なんて手伝ってられねえ! と啖呵を切って大きな町へ飛び出して冒険者になったが、人に騙され、身ぐるみ剥がされ、冒険者登録から3日後にはすでに所持金が底をついていた。
大口を叩いて村を出た俺たちはそのまま帰る訳にもいかず。
愛用していた武器さえも女にだまし取られたから、細々と薬草採取の仕事をしながら食いつないだ。
何とか薬草採取で金を貯めて武器を買って依頼をこなしてDランク冒険者まで辿り着いたが、次は商人に裏切られた。
商人護衛の仕事中に魔物に出くわして俺たちは囮に使われて危うく死にかけた。
1人は右足を骨折、1人は左腕を骨折。
複雑に折れていたせいか、一度骨折するとなかなか元通りには動かせない。
都会は家賃も高くそのまま居続けるのは難しく、半年前にラーナ町にやってきた。
そこで、俺も油断のせいで利き手に深手を負った。
自分達の運の悪さにイライラして気付けば俺たちも新人をいびるような人間になっていた。
リップスさんに何度も注意されるけど、一度付いた悪癖は治らない。
苦労してDランクになっても俺たちは魔犬1匹を倒すのが精一杯。普段はコッケドリみたいな報酬の少ない魔物を倒して食いつないでいる。
まだ何の苦労も知らなさそうな新人を見ているとイライラする。
大きな町では俺たちもよく先輩冒険者にいびられた。同じことをしていた。
ちょうどコッケドリの捕獲依頼があって請け負ったものの、俺たちもたまには肉をたらふく食いたい。
欲を出して、小さな魔物を深追いしていたら帰り道が分からなくなった。
2日彷徨いフラフラになっていたところで、魔犬のテリトリーに入ってしまった。
必死で逃げていると、遠くに野営のテントが見えた。
このままでは食い殺される。
まだ死にたくない。半ばパニックになってその場所に向かって走っていた。
ルール違反なのは分かっていた。でも、まだ死にたくない。
すさんだ心は、どうせ死ぬなら誰かを巻き込んでもいいとさえ思っていたかも知れない。
悪い事をしたのは分かっていたから取り敢えず必死に謝った。
顔を見て、以前に自分達が絡んだ新人だと分かったが、なりふりを構っていられなかった。
このウィンっていう奴の目は本気で俺たちを殺してもいいと思っている目だった。
どうにかウィンの妹が庇ってくれて生を繋げることができた。
その後、トウコさんが料理をしている最中はウィンが俺たちの近くで見張っていた。
「トウコさん、女神……」
野営先ではローブを被っておらず、珍しい紺色の髪の毛と透き通るようなきれいな肌、人間離れしたバランスの取れた顔が女神に見えた。
自然に口から出ただけだ。
下心なんてなかったんだ。なのにまた殺意を向けられた。
「名前を呼ぶな。見るな。減る」
シスコンにしては度が過ぎると思ったけど、ただ地面に額を付けて謝ることしかできない。
「あの『ミキサー』って魔法、生き物にも使えるな」
ニコニコしながら俺たちを見ている。
「ヒッ!」
妹との楽しい旅を俺たちに邪魔された事によっぽど腹を立てているらしい。
寝る前にトウコさんが俺たちの身体を魔法で綺麗にしてくれた。
それから『ヒール』と唱えたあと、暫くすると怪我も治っていた。
俺は深手を負って麻痺していた利き手が当たり前のように動くようになった。
以前に左腕を骨折した仲間は、神経痛でいつも痛いと言っていたのにそれがなくなった。
足を複雑骨折していた仲間は、魔犬に追いかけられた際に無理をし過ぎた。疲労も重なり今後は使い物にならないだろうと暗い顔をしていた。なのに、その足が完治していた。
トウコさんは女神で間違いない。そしてウィンは鬼神だ。
――その後、この3人組は女神様との約束通りに新人冒険者に親切にした。
悪い人間の見分け方や、初心者の薬草採取の仕方など、自分たちの経験を踏まえて親切にするうちに、「先輩」と多くの若手に慕われた。
また、一生治らないと諦めていた怪我が治ったことから生気も溢れて、徐々に実力も付けていった。
ラーナ町で人気の冒険者になるのはまた別の話――。




