キャッティー村へ
「ネロ君とモモちゃんの事だけど、できれば2人を故郷の村に送って行きたいと思うの」
「ああ。俺も同じことを考えていた」
「いいの?」
「もちろん。幼い子は家族と一緒にいるのが一番だから」
ウィンも同じ意見であることに安心した。
ウィンも5歳の頃に母親と離れたらしい。父親は元々いなかったから色々と経てポメアン王国の貴族に引き取られた。自分が寂しい思いをしたらかこそ、子供達には同じ思いをしてほしくないということだ。
ウィンは生い立ちの詳細は語らなかったけど、言い回し的に母親との別れは不本意なものだったんだろう。複雑な話だと思うし本人が言いたくなった時に話を聞けばいい。
ちなみにポメアン王国はウィンと出会った時に一緒だった3人組のいる国だ。
「それと、送り届けた後はそのまま旅に出た方がいいと思う。できればこの国を出て、更に隣国に行くのはどうかな?」
「……気を使わせてすまない」
それから、「ありがとう」とウィンが真っ直ぐな視線を向けてきた。
ウィンが暗殺されそうになった経緯も含めて、ラーナ町に長く留まるのは避けた方がいいと思った。
ラーナ町はウィンがいたポメアン王国との国境とも近いから、いつウィンの存在が相手に漏れるか分からない。なるべく遠くに行った方が良いよね。
大まかに話がまとまったから子供達にも話をする。
「ネロ君にモモちゃん、あなた達の故郷のキャッティー村へ行けば、お母さんとお父さんはいるの?」
「うん! いるよ」
「ママに会いたい……」
「じゃあ、故郷まで送り届けるわ」
「えっ? ほんとう!?」
「わ~いっ!!」
ネロは戸惑いながらも目を輝かせ、モモは子供らしく素直な反応を示している。
やっぱり両親に会いたいよね。
「んじゃ、旅の支度と冒険者ギルドへ挨拶に行くから出発は2日後ね」
「「うんっ!!」」
モモとネロの故郷は、『キャッティー村』といって人里から少し離れた場所にある。
調べたところ、距離的にはかなり遠いって訳ではないけど街道沿いに旅をするとラーナ町から徒歩で20日ほどかかる。子供を連れて歩くとなると更に日数がかかるだろう。
距離でいうと、例えば江戸時代の「江戸と京都間の東海道五十三次」に似た距離である。なかなか遠い。
1週間程で行ける近道もあるけど、その道は水源が一切なく食料を調達できる販売所も何もない道になるから、現実的には通る人はかなり少ないらしい。
私の場合は、時間経過しないアイテムボックスがあるから馬を使わずに食糧等を大量に持ち運べる上、水魔法も使えるから近道で高原を通るルートで行くことにした。
翌日、旅支度の食糧や日用品の買い出しをした。
ついでに盗まれた鞄の代わりに新しい鞄と、モモとネロにはリュックと水筒を買っておいた。
また、万が一の時の為に数日分の携帯食やお菓子、薄手で大判のタオル等をリュックに入れてあげた。薄手のタオルは軽い上に、体を保温するのにも怪我をした際に裂いて止血するのにも役立つ。
それに、長旅というのに荷物があまりに少なくても不自然だから。
夕方に冒険者ギルドへ挨拶に行った。
リップスとゴンゴにはお世話になったからラーナ町を離れる挨拶だ。
「トウコちゃんとウィン君のことだから、2人を故郷まで送り届けるって言うと思ったよ」
「お前達、もうラーナ町には戻ってこないのか?」
「そのつもりです。皆さんにはとてもお世話になり、本当にありがとうございました」
「そうか……せっかくお前達のような逸材に出会えたのに、こんなに短期間でお別れなのは寂しいな。でも、まあ冒険者ってのは、毎日が旅のようなものだ。居場所はお前達の自由だ。気が向いたら、また戻ってきてくれ。それから、トウコの冒険者カードを出してくれるか」
ゴンゴに言われたまま、冒険者カードを渡すと、ランクを書き換えられた。
「トウコは今日から『Cランク』だ」
「えっ? 良いのですか?」
「治癒魔法以外にも攻撃魔法、アイテムボックスまで使える奴をDランクにしていたんじゃラーナ町ギルドの名が廃る。実績があるからな。それに、お前達ペガススアイはCランク以上の実力を持っている。俺が保証する。今日からお前達はCランクパーティだ」
「ありがとうございます」
私達はしっかりと握手を交わした。
こうして冒険者ギルドを後にした。本当はレッドサンダーにも挨拶をしたかったけど、護衛の仕事で暫く町を空けているらしい。
冒険者をしているとまたどこかで会えるかもしれない。
久しぶりに自分のステータスも確認しておこう。
『ステータスボード開きます』
名前:東大寺 透子 レベル:5(前2)
体力:240/240(前210)
魔力:B-(前C+)
防御:S
腕力:C
俊敏:B+(前B)
属性:無
特殊効果:アイテムボックス(時間停止)/魔法操作自由
レベルや体力がまた上がっていた。それに、魔力量が増えたのはかなり嬉しい。
護衛の時にいろいろ使ったからかな。
ちなみに、ステータスの『レベル』は15歳ぐらいまでは、特殊な場合を除いてだいたい年齢と比例するらしい。
私はまだレベル5だからこの世界でいう5歳児と同じレベルになる。レベルが低いからアップも早いのかもしれない。
15歳以降は個人の資質や日々の生活習慣が顕著に現れる。
例えば20歳になってもレベル15や、20歳でレベル25であったりもする。
翌朝からは旅が始まった。
「さあ、みんな準備はいい? 忘れ物はない?」
「大丈夫だよ」
「うんっ!」
「へへ~、リュックに水筒うれしいな~!」
ネロとモモは、自分専用のリュックと水筒がえらく気に入ったらしくご機嫌だ。
「みんなの食事は私が持ってるけど万が一、私と逸れるような事があったら、リュックの中に携帯食やお菓子、薄手の毛布が入ってるから、それで過ごすのよ。念のためローブのフードはずっと被っておくこと。それから――」
「大丈夫だよ~。トウコお姉ちゃんってば、心配性だね!」
「トウコお姉ちゃん、ママみたい」
だっていつ何があるか分からないじゃない。あぁ、こんなに可愛い子たちのママになりたいわ。
旅は、日の出ている時間は休憩を取りながら歩き夕暮れ前に野営の準備をする。
「トウコお姉ちゃん、そっちじゃないよ~」
「えっ? そうだったかな」
おかしい、同じような道が続いているわ。
「トウコ、1人でどこに行く気だ?」
「えっ? ははは……」
こんな会話が何度か繰り返され、とうとう私は方向音痴の烙印を押された。
出発の時は張り切った私が先頭で、次に子供達を挟んでウィンが最後尾だった。
半日も経たないうちにウィンが先頭で私が最後尾に着任してしまった。
精神的には私が一番年上なのに、なんだか情けない。
子供2人を連れているからあまり早くは進めないと思っていたけど、さすが獣人だけあって体力的には人間の大人に匹敵したもので、通常かそれ以上のスピードで進むことができた。
私も、体力が200以上あるおかげなのか全然疲労は感じなかった。
昼食は簡単なものでさっと済ませて進んでいくと、初日に予定していた野営地にかなり早く到着した。
まだ進んでもいいけど、初日だから子供たちも無理しているのかも知れない。
早くご両親に会いたい気持ちは分かるけど、今日はゆっくり休もうということになった。
テントを張り終わって、お茶を飲みながら明日以降の予定を再度見直しているとウィンが突然立ち上がった。
アォォォーーウォォォーー!
動物の遠吠えだ。
ウィン曰く、魔犬が縄張りを荒らされた時の鳴き声らしい。
魔犬と言えば、以前にも出くわしたことがある2m程の大きさで青白く発光している魔物だ。
探知魔法で確認すると距離にして200m以内に魔物8匹、100m以内に人間が3人。こちらの方向に向かってすごい速さで近づいている。
位置関係から、人間が魔物の縄張りの中に入って襲われそうになって逃げているのだろう。
ネロとモモをテント内に避難させてバリアを強化した。
ウィンは私を信用してくれているらしく、一緒にテントの外で攻撃態勢に入っても何も言わなかった。
距離も近かったから十数秒の出来事だった。
「助けてくれー!! 魔犬だ!」
3人の男たちがこちらに到着したとほぼ同時に魔犬へ攻撃を開始した。
魔犬はすでに30m程の距離に来ていた。
一旦勢いを止めて様子をみながら私達を囲むようにゆっくり近づいてきている。
「光レーザー照射、光線銃」
魔犬はオーク以上に素早く動くから狙いを定めにくかったけど、スピードが落ちた今がチャンス。
何とか光レーザー照射で3匹を倒した。
隣でばたばた倒れていく仲間に一瞬驚いたようだけど、その様子を一瞥しただけで、狙いを私達人間に定めたままだ。
そこでウィンが魔犬の方に走り始めた。それに反応するかのように魔犬も狙いをウィンだけに定めて一斉に飛び掛かった。
ザシュッ! キャイッ! ガルルルック
剣を振るった音や、魔犬の一瞬の鳴き声、唸ったあとに事切れた声がほぼ同時に聞こえるぐらいの速さだった。
以前3匹退治した時のように、ただ剣舞を舞っているかの優雅さなのにほぼ一瞬で5匹を撃退していた。
魔犬の体から青白い発光が消えていった。何だかその瞬間を見るのは切ないけど仕方がない。
後ろを振り向くと3人の冒険者たちは腰を抜かしたまま立ち上げれそうになかったから、先にウィンの方に行って魔犬を回収することにした。
「ウィンってまるで戦ってないみたい」
「えっ?」
「だって返り血も浴びてないし、一瞬で倒すし、舞を見ているみたい」
「返り血はトウコがバリアを張ってくれているからかな」
そんな会話をしながらテントの方に戻っていくと、中からネロとモモが顔を出した。2人とも大人しくテントに隠れていたみたい。えらいえらい。
だけど、もう少しテントの中に入っているように言っておく。
それから、まだ腰を抜かしている冒険者の方を見ると、う~ん……。
「……なんか見たことあるような気がする」
「ああ、俺も同じ意見だ」




