ギルドへ報告
地下5階のセーフティエリアまで戻って来た。
「ごめんね、あんな危険な場所で取り乱して」
あんな場所で泣いてしまうなんて。ほんともう、穴があったら入りたい。
「そんなことないよ。トウコはよく頑張った」
またウィンにまた頭を撫でられた。これじゃ本当に兄と妹だ。
「お姉ちゃん、守ってくれてありがとう」
「ううん……、もう1人の子、助けられなかったわ……」
「でも、お姉ちゃんはモモとお兄ちゃんを助けてくれた!」
「きっと、ミントも仇を討ってくれて、天国で喜んでるよ!」
下を向いていた私に、2人の兄妹が慰めるように言ってくれた。
ふと、兄弟を見ると、顔や腕など至る所に痣や切り傷があった。
「あなたたち、怪我してるじゃない」
「これは、あの商人たちにやられたんだよ」
「痛いの、痛いの飛んでけー!」
この子達の痛みが取れますように。ヒールをかけて治してあげた。
「「えっ?」」
…………。
「このお姉ちゃんは、傷を治すおまじないをしてくれたんだよ」
ウィンが子供達にいたずらっぽくウィンクした。
「お姉ちゃんすご~い! ママもね、モモが転んだ時におまじないしてくれたよ~。その時は痣までは治らなかったけど。でもね、不思議と泣きやんじゃうの!」
「そうだ! お姉ちゃんが干し肉やパンもくれたんだよね。ありがとう」
私が不甲斐ない姿を晒したせいか、すっかり警戒は解いてくれているようだ。
2人とも猫獣人で、兄の方はネロ。妹はモモだ。
取り敢えず、みんな少し落ち着いたからダンジョンの外へ出る事になった。
地下5階のセーフティエリアからダンジョンの外に向かう間、ウィンがすれ違う冒険者にホーンベアが出たことを警告していた。
「地下6階にホーンベアが出没したのでお気をつけください」
「本当か!? ホーンベアなんて地下10階以下の魔物じゃないか!」
「ええ、すでに誰かが倒していましたが念のため警戒を」
「ああ、ありがとう。情報助かる!」
自分達が倒したとは言わなかったけど、ダンジョン内はただでさえ危険なうえ、想定外の出来事があれば生存率に直結する。
ウィンはなるべく異常な出来事は他人のパーティであっても冒険者に共有しているらしい。できるだけ犠牲者が減るように。
ホーンベアは、このダンジョンでは地下10階以下の階層の魔物らしい。
モモとネロに事情を聞いたところ、欲を出した商人が強力な魔物寄せのアイテムを使用していた為に下層階の魔物も寄ってきたということだった。地下6階エリアの魔物の沸き方も異常だった。
商人2人の死については自業自得ではあるけど、犬獣人のミントに関しては可哀想だ。
「ミント君も、誘拐されて奴隷になったの?」
「ううん、ミント君はね、親に売られたって言ってた」
貧しい村では、自分の子を奴隷商に売る親もいるらしい。
今日は濃い1日だった。鞄を盗まれたり子供を囮にする商人を目の当たりにしたり、人間の裏側を見ることになった。
ダンジョンの外に出るまでは、強い魔物に遭遇することはなく無事にキャンプ場まで辿り着くことができた。
子供達はすごく汚れてるから、取り敢えず固く絞ったタオルで体を拭いてあげた。
服はウィンが着替え用のシャツを貸してくれたからそれを着させることにした。
本当はシャワーを浴びたいんだけど、町へ帰るまでの辛抱ね。
何だかんだで動いていたらお腹が空いてきた。すっかり夕方だ。
「みんな、ご飯にしましょう」
干し肉と干し野菜で温かいスープを作って、買っておいたお弁当を取り出した。
「これ温かい! 美味しい……」
「お兄ちゃん、ちゃんとしたご飯、久しぶりだね」
モモとネロは涙を浮かべながらご飯を食べていく。温かいご飯を食べるのはかなり久しぶりのようだ。
そんな2人を見ているとまた涙が出てきそうだったから、そっと視線を逸らせた。
今からでは移動中に夜になるからキャンプ場で一晩休憩して翌朝にラーナ町へ帰ることにした。
もちろん、モモとネロも連れていく予定だ。
眠るときはテント全体にバリアを張った。大人4人用のテントの大きさだけど、難なく張ることができた。これで万が一、魔物の襲撃や泥棒が寄ってきても大丈夫だ。
昨晩もバリアをしていればと後悔したけど何事も経験だよね。これからは毎回バリアを張ろう。
翌日は早朝に出発したから夕方になる前にはラーナ町に到着した。
――道中の草原のお花畑に白い布のようなものを発見したけど見なかったことにした。決してパンツではないはずだ……。
町に着いて、まず先に子供用の服屋に向かった。
本当は先に宿屋を確保したいけど、獣人差別があるから先にローブを羽織らせた方が良いだろうとなったのだ。
モモには可愛いワンピースとピンクのローブ、ネロには動きやすいズボンとTシャツにブルーのローブを買ってあげた。
モモは薄い金髪の髪の毛に白色の耳がちょこんと付いている。目はくりくりぱっちり、尻尾も白色。
ネロは、トラ猫のような印象で耳や尻尾もトラ柄だけど、モモと一緒で目はぱっちり。
2人とも可愛すぎて、ついついニヤニヤしてしまいそうになる。
宿屋も無事4人部屋が確保できた。
小奇麗な宿屋で大浴場もあるから少し割高だけど、先日オークを倒した時のお金があるから余裕がある。
それに今回のダンジョンの素材も買い取ってもらえば暫くはお金の心配はしなくて大丈夫。
冒険者ギルドに出かける際、ネロとモモは宿屋でお留守番してもらおうと思ったけど、2人を宿屋に残している間に誘拐される可能性もあったから一緒にいくことになった。
念のため私はモモと、ウィンはネロと手を繋いで冒険者ギルドに向かうことにした。
人ごみの中、ウィンと逸れそうになったけどモモのおかげでどうにか逸れずに冒険者ギルドに着く事ができた。
猫族は人間よりも鼻が利くようだ。
「こんにちは、リップスさん」
「ウィン君にトウコちゃんじゃないか。お帰り。あれ? その子達は?」
「ええ、ちょっとダンジョンでトラブルがあったので保護しました。それと、予定外の魔物が獲れたので見積もりをしていただきたくて……」
「大変だったね。もしかしてその子達は獣人かい?」
「えっ? どうして分かったんですか?」
「2人ともローブを頭から羽織ってるからね。それに、ダンジョンでトラブルがあったと言ったから獣人の子かなと思ってね。ところで、予定外の魔物って何だい?」
「ホーンベアです」
「ええっ? 君たち、地下10階以上潜っていたの?」
「いえ、地下6階です。この子達を連れていた商人が欲をかいて強力な魔物寄せのアイテムを使用していたみたいなんです」
その後、解体場でホーンベアを見せる事になった。
どこから聞きつけたのか、いつの間にかゴンゴも解体場に来ていた。
ホーンベアの素材は貴重らしく、特に角は強い刀剣を作る為に品薄になっているようだ。
ゴンゴの姿が怖いのか、モモとネロが警戒して私とウィンの後ろに隠れるように肩からひょこっと顔だけ出して、ゴンゴを見ている。
「大丈夫だよ。ゴンゴさんは見た目は怖いけど、やさしいからね」
リップスが2人を安心させるように言ってくれている。
「では、出します」
ドンッ! ドサッ!
「よしっ、これで全部です」
ホーンベアの体と、切断した右前足と右後ろ足を出した。1体で2トン以上ある。
「状態は良いみたいだな。それにしても、ほんとにトウコのアイテムボックスは大容量だな。普通なら数人の冒険者の魔法袋で持って帰らないとならないっていうのに」
ゴンゴはそう言いながらも、私の大容量に少し免疫がついたようだ。
それから、ゴンゴとリップスにダンジョンの地下6階で起こった事を大まかに話した。
2人の商人に連れられて、獣人奴隷の子供達が狩りをさせられていたこと。
商人のせいで犬獣人の子が犠牲になったことと、商人も食べられたこと。
「そうか……。大変だったな。ホーンベアはオークより2段階程強い魔物だ。ウィンとトウコだから倒せたんだな。それにしても、子供2人だけでも助かって良かったな」
冒険者ギルドには獣人も所属する事が多いから、獣人に対する差別意識は特にはないようだ。安心した。
「ところでトウコちゃん、魔法袋替わりはどうしたの?」
リップスが私の鞄が無い事に気付いたので、冒険者に盗まれた件も話しておいた。
ギルドでも盗人冒険者に関して警戒してくれるとのことだ。
今回のダンジョンでは、ホーンベア以外にも沢山の魔物や薬草を採取した。
・カウミーツ 5頭
・コッケドリ 17匹
・ホーンラビット 12匹
・ボンフィッシュ 2匹
・ソモンフィッシュ 3匹
・スライム 5匹
・フローズン草 110株
・その他薬草 50株
主に魔物の大半が地下6階で倒したものだ。地下6階は同じ場所に留まれば5分に1回は魔物が出てきていたし。
もしかすると、これも商人が使った魔物寄せのアイテムのせいかも知れない。
この中から、どの素材を買い取ってもらうか、考えていたところ、銀貨1枚~2枚で解体だけをしてくれるという事だったので、食材になる魔物は半分ほど解体してもらって、そのまま自分達で食べることにした。
結局、素材ごと買い取って貰ったのは、
・カウミーツ 1頭 銀18枚(4頭で金貨7枚と銀貨2枚)
・コッケドリ 1匹 銀1枚(7匹で銀貨7枚)
・ホーンラビット 1匹 銀1枚(6匹で銀貨6枚)
・スライム 1匹 銅5枚(6匹で銀貨3枚)
・フローズン草 10株 金1枚(50株で金貨5枚)
・その他薬草の半量(銀貨3枚)
・ホーンベア(金貨8枚)
合計で金貨約22枚。
「お前達はこれからどうするんだ? まさか、そのガキどもを連れて冒険者をするってんじゃないだろう?」
「もしよければ、ギルドが提携してる孤児院もあるけど――」
リップスが孤児院を紹介してくれようとしたけどここは人間の町だ。
また誘拐される可能性もあるみたい。
ネロとモモの今後の身の振り方に関しては、私だけでは判断できないから一度宿屋に帰ってゆっくり話し合おうと思う。
できればこの子たちを両親のもとへ返してあげたい。




