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悪党とお花畑

本日2話目の更新ですので、順番ご注意ください。

 

 翌朝。


「あれっ? 肩掛け鞄どこに置いたかな?」

「どうした?」

「えっと、肩掛け鞄が見当たらないの。朝ごはんの支度をしようと思ったんだけど」

 アイテムボックスの存在を知られない為に、物の出し入れは肩掛け鞄を魔法袋に見せかけて使う習慣が身についている。

 でも、実際は鞄の中には大したものは入れてないから、結構ぞんざいに扱っていたのだけど……。


「昨日、夕食を食べ終えて眠る時にはテントの中にあったはずだけど……」

 すると、ウィンが何かを思い出したように、外に出て行った。


「ウィン、外にあった?」

「……いや、やられたよ」

「へっ?」

「恐らく、昨日スープを持ってきた連中に盗まれた。昨日の奴らは既にテントを畳んで出発している。狩りの途中から視線を感じていたけどあいつらかっ」


 ウィンが言うには昨日の狩の途中から私たちを見張っているような視線を感じていたらしい。恐らく捕った獲物を横取りするためだろうと――。



「ええっ――!? どうしようっ!!」

「何か大切な物入れてたの!?」


「いや……、あの……、ああ~!」

「なにを入れてたの? トウコ、落ち着いて!」 

 頭を抱えながら赤くなったり青くなったりする私を見て、よほど大切な物を入れていたと思ったようだ。


「トウコ、ここで少し待ってて。俺が取り返してくる!」

「ああああ~! ちょっと待って! 行かないで!」

「すぐにでも追った方がいい」

 勢いよく飛び出そうとするウィンの腕にしがみついて何とか止めた。


「大丈夫、取り返さなくてもいいからぁ……!」

「でも大切な物でしょ?」

「…………」

「どうしたの?」

「いや、無くても大丈夫……デス」

「俺に気を使わなくていいよ」

 ウィンはポンポンとやさしく頭を撫でてきた。ぐすん。いろんな意味で泣きたい。


「……ぎを入れてたの……」

「え?」

「だから! 下着を入れていたの!」

 こうなったら、逆切れだ! 恥ずかしいっ!

「…………」

「しかも、洗ってないやつ! 昨日はいつもより早く眠くなったから洗ってないの!」


 …………。



「ふっ。ははっ。はっはっは」

 ウィンが大爆笑している。

 こんなに笑ってるウィンは初めて見たけど、イケメンの笑った顔はかっこいいけど、しかし今は腹立つ――!!



「ふんっ! もういいよ」

「笑い過ぎた。すまない……。でも、奴ら今頃……ふふっ、はっはっは」

「ふんっ!!」

 ウィンの笑い過ぎには腹が立つけど……。盗人(ぬすっと)どもめ、袋の中の魔物を期待して盗んだ鞄に下着しか入ってなかったら大層期待外れだろう。

 ぷぷぷっ! 自業自得だ!


 ああ、泣きたい。




 ******盗人の冒険者達



「もうここまで来たら大丈夫だろう。あいつらは今頃まだダンジョンの中でぐっすり眠っているだろうからな」

「さてさて、魔法袋ちゃんの中には何が入っているかな~」

「あいつら、少なくともカウミーツ2頭に食用魚5匹、薬草も入れてたぞ」

「そんだけ魔物が入るってことは、魔法袋だけでも高く売れるな」

「今回はラッキーだぜ」


「何だこれ? 女もんの下着?」

「はあっ? あいつら2人とも男だろ?」

「ちっ、ガキの癖に何て趣味してやがる」

「おいおい、下着なんてどうでもいいから、早く獲物を出してみようぜ」


 …………っ!!


「何だこの鞄!? 普通の鞄じゃねえか!」

「待て! 何かこの下着に仕掛けがあるんじゃないか!?」


 …………!!!


「ただの、洗ってねえ下着じゃねえか!」

「クソッ! ド変態な奴らめ!」

「こんなものその辺に捨てておけ」


 こうして下着は草原のお花畑の一員になっていった……。




 ******


 盗人冒険者に『変態少年2人組』という不名誉な称号を与えられた事など露知らず、私達は今日も通常運転でフローズン草の採取を始めた。

 鞄がなくなったからウィンのベルトに付けてたポーチ型の魔法袋に入れるフリをすることにした。


「まさか、鞄を盗まれるなんて思ってもみなかったわ。レッドサンダーのメンバーやギルドの職員が良い人達ばかりだったから油断していたわ」

「俺も油断していたよ。狩りをしている時から何度か視線を感じてたけど、もっと警戒するべきだった。それに昨日のスープに強力な睡眠薬が入っていたみたいだ」


「スープに睡眠薬が混じってたんだ……だからいつもより早く眠くなったのね。これからは人に物を貰う時は注意するわ」

 なんせ私の中ではお菓子をくれる人は良い人という持論があったから食べ物をくれる人も良い人と思っていた。今更ながら、どんな持論だ!


 それに、狩りの途中でウィンが時々考え込むような仕草をしていたのは、視線を感じたからだ。全然気付いてなかった自分が情けない。

 私がスープを受け取ったばかりにウィンまで巻き込んでしまって本当に申し訳ない。



 それから地下5階で黙々とフローズン草の採取を進めたけど、薬草が減ってきたので、地下6階まで降りることにした。



 地下6階。

 森が広がっている。念のため再度バリアを2人に張る。


「トウコ、地下6階まで来ると魔物の数も増えて強い個体が多くなるから気を付けて」

「分かったわ。薬草も多くなるみたいね」

 フローズン草以外にも解熱作用のある薬草や、止血作用のある薬草も沢山生息していた。薬草の種類は冒険者登録の待ち時間にギルドで読んだ図鑑に載っていたものをざっくりだけど覚えていたのだ。



 魔物と同様に薬草もすぐに生えてくるらしいので、片っ端からフローズン草や薬草を摘んでいった。ウィンはその間、周りの警戒をしてくれている。


 地下6階は本当に魔物が多く、薬草摘みの為に1つの場所に留まっていると5分に1回ぐらいは遭遇する。


 ほとんどは、『コッケドリ』と言って角が2本の鶏のような鳥や、『ホーンラビット』と言って角が1本の大きなウサギのような魔物が多い。

 2種類とも角や噛みつき、くちばしで攻撃してくるけど牛の魔物のカウミーツに比べれば弱い。


 順調に狩りと薬草採取をしていると、奥の方から大きな唸り声と悲鳴が聞こえてきた。



 ガルルルルッ! ヴオォォォォ!!!

 キャー!!


「ウィン!?」

「ああ、行ってみよう!」


 即座に声のした方へ走った。

 何度か見かけた、商人と獣人奴隷の子供達が『ホーンベア』という魔物に襲われようとしているところだった。


 ホーンベアは、角が1本生えた大きな熊で、2足歩行で高さが8m程ある。

 ダメだ! 距離が遠すぎて間に合わない!!


「おいっ、お前っ、囮になるんだ!!」

 商人の男が子供1人を突き飛ばしたため、子供がホーンベアの前に転がるように躍り出た。


 ひょいっ。パクリ。


 !!!!!


「キャアアア!!」

 残った2人の獣人の子がパニックになって、商人を置いて逃げ出した。


 そして逃げ遅れた商人2人も。

 ひょいっ。ひょいっ。パクリ。モグモグ。


 ヴオォォォォ!!

 獣人の子と商人2人を捕食したホーンベアは更に逃げた子供2人を追い掛けて、爪をむき出しにした大きな手の平を子供に向かって振り下ろそうとした。


「ダメェ――!! バリアァァァ!!!」

 子供2人を目掛けてバリアを飛ばした。


 ゴイィィィーン!!


 子供に爪が当たる前に、何とかバリアが間に合ったけどホーンベアの手の平に弾かれて子供達がこちらへ飛ばされてきた。

「ひぃぃぃ! お兄ちゃん!!」

 2人は恐怖のあまり、そのまま座り込んでしまった。


 ホーンベアの視線がこちらに向いた。私とウィンの事も視界に捕らえて獲物が増えて喜びのような雄叫びをあげだした。

 ヴオォッ! ヴオォッ!!


 ホーンベアがこちらに向かって一直線に突進してくる。

「ちっ! トウコは後方に下がって!」

 ウィンが前に出て剣を構えた。

 素早い動きでホーンベアの右足に攻撃を仕掛けたが、皮が分厚すぎるのか足の半ばで剣が止まってしまった。


「光レーザー照射!」

 ホーンベアの目を目掛けて照射した。


 ヴオォォォォ! ボフッ! ボフッッ!!

 ホーンベアが毛を逆立てて怒っている。


「光レーザー照射! もう一つの目まで届けっ!!」

 あと、片方の目にも光レーザーを照射する。

 ホーンベアは目が見えなくなったせいか、跪いて手当り次第に暴れだした。

 このままだと子供達が踏みつけられる。2人の手を引っ張って物陰まで連れて行く。



「いい? あなた達はここで隠れてて! もし危険が迫ったら迷わず逃げるのよ!」

「「っ!」」


「分かった!?」

「「はいっ」」


 再びウィンの援護するために戻ると、ウィンの重なる攻撃により右後ろ足を失くしたホーンベアが跪いたまま少し体勢を崩していた。

 目が見えないホーンベアは暴れ狂うように両前足を振り回しウィンに攻撃を当てようとするけど、ただ乱暴なだけな動きではウィンに当たるわけもなく、ホーンベアの動きに合わせて振り下ろした剣が右前足を半ばまで切り付けた。

 やはり皮か硬すぎるのか剣は途中で止まってしまうけど、何度か攻撃を繰り返して右前足を切断するとホーンベアが大きく体勢を崩して転がった。

 

「トウコ、離れて! 血が出るっ!」

 転がったところで留めに首元を狙って剣を振りかざしていた。


 ザシュッ! グサッ!!


 ザアァァァッ!!

 恐ろしいぐらいの量の血の雨が降り出した。ウィンの振り下ろした剣が首筋の動脈を切ったのだ。

 バリアをしていたからか、直接肌に血が触れることはなかった。

 魔物の血は毒を含んでいることもあるから外敵扱いされて弾かれたんだと思う。



 ホーンベアの威力と血の雨の恐怖、目の前で人が死ぬところを見たという事が重なって暫く動くことができなかった。

 

 そこに獣人の子達が恐る恐る私に近付いてきた。

「「お姉ちゃん……助けてくれてありがとう」」

 その言葉を聞いて子供が助かったという安心感も重なって、2人を抱いて自然と涙が出てきた。

「よかったね。2人とも助かって……よかった……!」



「トウコ……、一度セーフティエリアまで戻ろうか」

 ウィンが頭をポンポンと優しく撫でながら、声をかけてきた。

「うん……。取り乱してごめん」

 最悪だ。子供たちの方が怖い思いをしたのに私の方が動揺してどうする。


 ホーンベアをアイテムボックスに入れるのを忘れずにその場を移動した。


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