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初めてのダンジョン

 

 翌朝からはダンジョンに潜った。

 初めてのダンジョンにドキドキ!


 ダンジョン内は石造りで閉鎖空間だというのに、壁が青白く発光して想像よりも暗くなかった。

 

 魔犬も青白く光っていたけど、同じようなものかもしれない。


「ダンジョンは初めて入るわ」

「そうか。ダンジョン内は外とは違って何も無いところから突然魔物が発生するから気を付けて。性質(たち)の悪いダンジョンの場合は罠もある」

「ウィンはよく潜ってたの?」

「ああ。ポメアン王国にいた頃は国からの命令でよく潜らされていたよ」 

 苦々しい表情でそう答えた。



 朝からダンジョンに潜る冒険者が何組かいたからダンジョン内は意外にも賑わっていた。

 先に入った冒険者が始末したのか、地上1階と地下1階には魔物は出てこなかった。


 地下2階までくると、だんだん冒険者達もまばらになっていき、魔物もちらほら現われだした。その度にウィンが素早く倒していく。

 主にスライムや植物のような魔物が多い。フローズン草は地下3階以下にあるから、さらに先に進むことにした。



 地下3階まで来ると、景色が一変した。所々に沼地のある草原が広がっている。


「わあ! すご~い。さっきまでと景色が全然違うね」

「……トウコ、恐らくこの階からこのダンジョン特有の魔物が出てくるから気を引き締めて。それにさっきも言ったように何もない場所から突然魔物が出現するから不意打ちもあり得る」

「あ、うん……」

 ダンジョン内にも関わらず、まるでピクニックのような発言をしてしまった自分が恥ずかしい。

 それに、不意打ちって怖い……。


 不意打ちから守る方法を考えると『バリア』が思い浮かんだ。


「バリア」

 自分の周りを、マシンガンでさえ防御するぐらいの頑丈な透明の膜で覆う事をイメージした。すると、私の身体が一瞬薄っすら緑色の光に包まれた。

「ウィン、私の身体を叩いてみて?」

「えっ? ああ……」


 ゴイーン!

 ウィンが遠慮がちに私を叩いてみた。手が私に触れる前に何か膜のようなものに弾き返される。


「念のため、次はもっと力いっぱい叩いてみて?」


 ゴイィィーン!!

 何か察したようにウィンは今度は力いっぱい叩いた。よし、強度は大丈夫そうだ。


「バリア!」

 ウィンの身体も一瞬だけ薄っすらと緑色の光に包まれた。


「トウコの魔法は何でもありだね。それに、詠唱も短いね」

 驚いたような、呆れたような、そんな様子で言われたので開き直ることにした。

「ふふっ、これで不意打ちに合っても多少は大丈夫なはずよ」



 ゴイィィィーン!!

 言い終わると同時に、背中のバリアに衝撃が走った。

 振り返ると斧が私の身体のぎりぎり手前で止まっている。

「カウミーツだ! トウコ、大丈夫か!?」

 ウィンは、私の無事を横目で一瞥(いちべつ)してすぐに魔物に向かって走って行った。


 カウミーツという魔物は牛の魔物でオークのように2足歩行をしている。

 体はオークの2倍ほどあり、ゴブリンの様に武器を持つ。先ほど背中のバリアに当たった衝撃はカウミーツが投げた斧が当たったものだった。


 ザシュッ!!

 ウィンは一瞬でカウミーツまで辿り着き、一太刀で首を刎ねていた。

 もはや、物語の中の勇者のようである。



「ごめんね、油断していたわ」

「ああ、トウコに怪我がなくて良かったよ。カウミーツ持って帰る? 美味しい肉の素材だよ」

「うん! ありがとう」

 魔法袋に入れるフリをしてアイテムボックスに入れた。

 この時、私は遠くからの視線に気付いていなかった。


 地下3階では目的のフローズン草を10株採取して、そのまま地下4階で20株を採取した。フローズン草は凍らせて持ち運ぶのが条件だからアイテムボックスに入れる前に氷魔法で凍らせてから入れていった。


 下層階に進むほど、魔物の数やフローズン草の数も増えるようだ。



 地下5階。セーフティエリアがある階層だ。

 ちょうどお昼の時間なので、セーフティエリアで休憩することにした。いつものように温かいお弁当を出して休憩していると昨晩の商人と獣人の子供達もやってきた。


「おい、お前ら! 何だこの収穫量は!? やる気あるのか!!?」

 またまた商人が子供達を苛めている。

「「「すみません……」」」

「自分達が悪いって分かっているようだな。昼飯は抜きだ」


 ええ~!? また? さすがに酷過ぎるよ。


「ウィン、本当にこんなのがよく見る光景なの?」

「……そうだよ。獣人は体が丈夫だから、数日間食べなくても生きる事ができるんだ。だからといってさすがに酷すぎるけど……」


 私が近付いても昨日のように警戒されるから、商人2人が「用を足す」と言って離れた隙に通りすがりに見せかけて携帯食を子供達の前にすっと置いてきた。

 携帯食なら腐りにくいから好きな時に食べられるだろう。


 お弁当や携帯食は町でたらふく買い込んであるのだ。

 私とウィンが2人で1日3食ずつ食べても10日間は過ごせる量だ。それに手料理や食材もあるからね。



 ちょうど、お昼の食事を終えたころに他の冒険者達もぞろぞろとセーフティエリアに入ってきた。私達は休憩を終えたので、再びバリアを張って午後の狩りを始めた。

 バリアはまだ解けてなかったけど念の為に張り直した。


「せっかくダンジョンまで来たんだから今日は一晩ダンジョンに泊まっていかない? 食用の魔物も豊富だし、フローズン草も50株よりも多めに採取すればまた売れるかも知れないし」

「そうだね。それにトウコが張ってくれている結界があるから精神的にもかなり余裕があるよ」


 午後からフローズン草20株をスムーズに採取することができた。

 これで、取り敢えずの目的は果たせた。


「ウィン、沼ってどんな魔物が生息しているの?」

「沼に限らず水辺では、主に『ケルピー』っていう魔物が有名だよ」 

 ケルピーは水辺の近くに現れる馬のような魔物で、間違って乗ってしまうとそのまま水中に引き込んで食べられるらしい。

 お、恐ろしい!!


「食用なら『ボンフィッシュ』という白身魚の魔物や、『ソモンフィッシュ』という赤身魚の魔物かな。両方とも鋭利な牙を持っていて、水面では自由に飛ぶから注意が必要な魔物だよ」

「美味しい?」

「ああ、美味しいよ。食べたい?」

「うんっ!」


 こうして、沼地の近くまで来た。

「魚の魔物ってどうすれば出てくるの? やっぱり魚釣りの要領で釣るの?」

「はははっ。そんな事をしなくても、水面を覗いていると勝手に出てくるよ。

 大きさは1m以上あるから気をつけて」


 じぃー。

 水面を覗くことにした。


 ザバザバッ! ザッバーン!!


「ひっ!!」

 突然飛び出してきたからビックリした! 心臓に悪い……。


 水面から飛ぶように現れたボンフィッシュをウィンが素早く仕留めてくれた。

 その後も、私が水面を覗くと魚の魔物が水中から飛んできて、を繰り返して結果的にボンフィッシュ2匹とソモンフィッシュ3匹を確保した。


 ……ていうか、私って完全に囮だったよね。エサだ。エサ替わりに使われた感じがする。むむっ。

 バリア張ってるから、どうせ襲われても大丈夫なんだけどさ。ウィンってたまにSっ気あるよね。



「……ん?」

「どうしたの、ウィン?」

「いや、なんでもない」

 ウィンが何か考え込むような表情をしていた。思ったより魚が小さかったのかな? 遠くからの視線にも気づかず、私は呑気に魚の肉のことばかり考えていた。



 そろそろ夕刻だ。

 セーフティエリアの場所取りは早い者勝ちだから少し早い目に寝場所を確保しに行くことにした。


 セーフティエリアには既にひと組の冒険者がテントを張って、鍋で夕食の準備を始めていた。

 私達もテントを張って、野営の準備をする。


 今日の夕食はミートソースパスタと『サナダ村』で買った野菜でサラダにしよう。

 他の冒険者の目もあるからテントの中で準備したことにして、一応テントの外で食べることにした。テントの中で食べると匂いがこもるからね。


「ミートソースパスタっていうの。食べたことある?」

「初めて食べるよ。この長細いのは?」

「これはパスタっていって、小麦粉で作ったものなの」


 …………。


「美味しい! このソースは昨日のグラタンっていう料理に似ているね」

「へへっ。ほとんど同じものなの」


 夕食を食べていると、先に野営をしていた冒険者がこちらにやってきた。

「こんばんは。よろしければスープいかがですか? ちょっと作り過ぎてしまって余ってしまったので……」

 線の細い、そばかす顔の12歳ぐらいの少年がスープを持ってやってきた。


「えっと……」

「君は?」

 ウィンが訝しげに少年を見る。


「そこで、野営をしていて……僕はジョンといいます」

 ウィンが目を鋭くして見ると、少年は目を逸らしながら答えた。どうやら、冒険者メンバーにスープを持って行くように言われたそうだ。


 ふと、冒険者メンバーの方に目を向けてみると、この少年以外はゴツくて少し人相の悪そうな男達だった。

 この少年は小間使いでもさせられているのだろうか? 

 美味しそうな匂いにつられて受け取ることにした。


「ありがとう。それじゃあ頂くわ」

 ウィンは怪訝そうな顔をしていたが、私が受け取ったので2人で食べることにした。

 そしてスープを飲んだあと、器を水魔法で洗ってから冒険者達に返しに行った。人相の悪い男たちが怖いから何となくいつもより深くフードを被る。


「スープご馳走さまでした」

「ああ、残り物を押し付けちまったようで悪かったな」

 ゴツイ男が対応してくれた。

「いいえ。ごちそうさまでした」

「ところで、狩りは順調かい?」

「はい。魔物数匹は狩れました」

「そりゃあ良かった。でも、それにしては荷物少なくないか?」

「ええ、全て魔法袋に入れてますので」

「ああ、肩に掛けてた袋だな。まあ、明日からも頑張れや」

「はい……」


 はて? 何か、世間話にしては少し違和感の残る会話だったけど、まあいいか。


 夕食を食べすぎたせいか、テントに戻って暫くすると眠くなってきた。ウィンも眠そうなので、今日はいつもより少し早い目に寝る事にした。




『おい、あいつらちゃんとスープ飲んでたのか?』

『はい、間違いありません』

『それにしては眠るの遅かったじゃねえか。普通は魔物でも食ってから30分以内には眠る薬だぞ』

『えっと、でもやっと眠ったようです』

『まあいい。ジョン、これからもちゃんとやれよ。お前が一番警戒心を持たれずにやれるんだからよ』

『はい……』

 不穏な会話を聞く事なく、私は既に夢の中だった。


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