奴隷と獣人
※金額はあまり気にしなくて大丈夫です……。当初、異世界で所持金なしの状態だったので気になっていましたが、トウコちゃん強すぎて魔物サクサク退治できるので今は余裕あります。
翌朝、冒険者ギルドに行くと今回の護衛代とオーク22匹、魔犬3匹分の買取価格で合計金貨が約51枚になった。
・護衛代 1人 金貨8枚(2人分で金貨16枚)
・オーク 1匹 銀貨15枚(22匹で金貨33枚)
・魔犬 1匹 銀貨7枚(3匹で金貨2枚と銀貨1枚)
ウィンと話し合った結果、今回はそれぞれ倒した分を分け合って今後は均等割にすることにした。そこからパーティーとしての活動費を差し引いて宿代や食費に割り当てる。
きちんと決めておかないと気付かないうちにウィンが多く払いそうだったからね。
ちなみにオークキングと、オーク4匹分は私のお願い通りレッドサンダーに支払われる。
ロマンには、「どうせ自分たちでは持って帰れなかったからトウコの好きにしていい」と言われたけどそれでは忍びない。オークキングはレアだから貴重な収入源のはずだ。
仕事受付カウンターの隣にある依頼掲示板で仕事を探していると、薬草採取の仕事があった。
10株で金貨1枚、1度に50株まで受け付け可能という内容だ。なかなか良い条件だ。
仕事依頼用紙を持って、リップスに詳細を聞いてみた。
「2人とも昨日はちゃんと帰れたかい?」
「はい。いろいろとお世話になり、ありがとうございました」
「いやいや、2人の初任務で危険な仕事を紹介してしまって申し訳なく思っているよ。礼を言うのはこちらの方だよ。ところで薬草採取の仕事かい?」
依頼の薬草は『フローズン草』といって、主に火傷の治療に使われる。
持ち運びが難しく、加工する直前まで冷凍したまま持ち運ばなければならない為、ダンジョン内ではポピュラーな草の割に採取の依頼を請け負う冒険者が少ないから報酬が良いらしい。
まず、氷魔法が使える者が少ない上に高い技術を持つ冒険者なら薬草採取のような地味な仕事はあまり請け負わないようだ。
それに、ダンジョン内は危険が伴う為にわざわざ薬草を取りに行く冒険者も少ない。
ダンジョンは至る所に存在して、各ダンジョンにより特色が異なる。
魔物を倒すと経験値が豊富なダンジョンや鉱石が豊富、武器のドロップアイテム、防具のドロップアイテム等さまざまな特色がある。
そして、今回の目的地となるダンジョンはラーナ町から片道8時間の距離で主に食用の肉になる魔物が多いようだ。
但し、どこのダンジョンでも魔物との戦いになるので注意が必要だ。
ダンジョン内には『セーフティーエリア』というものがあり、この場所は魔物が近付くことができないので休憩や宿泊の場合はこの場所を使うと良いらしい。
常時採取依頼がある仕事で急ぐ必要はないから明日の出発にすることにした。
今日のうちに食料や旅の支度を整えておこう。
――翌日は早朝に出発した。
適度に休憩を挟みながら歩いて小高い丘まで辿り着いた。
丘の頂上には大きな木が1本だけ生えていたからその木の近くで少し早いお昼ご飯にすることにする。
空を見上げれば視界を遮るものはなくどこまでも青く、白い雲が形を変えて流れていく。
丘の下には幅3m程の小川が流れていて振り向けば古い石造りの橋と更にその先に遠くラーナ町が一望できた。
「何だか長閑ね」
「ああ。気候も最高だ」
ウィンもこの景色に満足しているみたい。隣で空を見上げている。
「そうだ、今日のお昼ご飯はこの前作ったものにしようかな」
「宿屋の厨房で作ってたもの?」
「そうなの。実は私の故郷で食べてた料理の一つなんだ。口に合うか分からないけど食べてみる? あれっ?」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
アイテムボックスからミートソースグラタンと町で買った丸パンを出した。
グラタンやスパゲティが一つずつ少ないと思ったのは気のせいかな。借りた厨房で急いで作ったから数を勘違いしたのかも知れない。
「良い匂いがする。それに作りたてのように見えるけど?」
「ウィンには言っておこうかな。実は私のアイテムボックスは時間停止なの。だから今回のフローズン草の採取にも役立つと思うわ」
先日からウィンに言うかどうか迷っていたのだ。でも、今後も一緒に過ごすとなると黙っていた方が何かと都合が悪いと思ってカミングアウトすることにした。
「トウコ、君は一体何者なの? ……いや、すまない。時間停止で大容量のアイテムボックスは遥か昔の猛者の伝説で聞いたことがある。俺の知っている限りは王宮の上級魔導士でさえ時間停止のアイテムボックスを使える者は聞いた事がない」
「えっ、そうなの!?」
レアな能力だとは思っていたけど、現存しない程のレア度合だとは知らなかったので思わず私が驚いてしまった。
「ははっ、トウコは面白いね。時間停止については他人には知られない方がいいよ」
何だか先日からの周りの反応を見ていると、私はエニフにとんでもないチート能力を与えられたようだ。
気を取り直して、2人で「はふはふ」言いながらグラタンを食べた。
我ながら美味しい! どうやらウィンも気に入ってくれたみたいで一安心。
「この料理なんていうの?」
「ミートソースグラタンだよ」
「とても美味しい。こんなに美味しい料理初めてだ」
「ふふっ。良かった。次回はミートソーススパゲティをご馳走するね」
やっぱりグラタンはみんな好きよね。
もっと慣れてきたら、カルボナーラやペペロンチーノも作りたい。
食事のあと再び歩いて、暗くなる前にダンジョン近くのキャンプ場に到着した。
ダンジョンに潜る前の冒険者がすでに何組かテントを張っていて鍋で夕食の準備を始めている。
私達も空いているスペースに手早くテントを張っていく。
「夕食、お弁当でいい?」
「もちろん。それにしても旅の途中で普通のご飯が食べられるなんて不思議な感覚だ。普通はみんな、塩漬け肉や干し野菜のスープや携帯用の固いパンを食べているんだ。もちろん俺も今まではダンジョンの中でもそんな食事だったよ」
私達が夜ご飯を食べていると、隣の空きスペースに商人風の男2人と、3人の酷く汚れた子供達がやってきた。
子供達をよく見ると頭の上に耳が生えている。
「ねえ、子供の頭の上に耳生えてない?」
「獣人だよ」
「何だか、汚れていて服もボロボロみたいだけど?」
「……奴隷だから酷い扱いを受けているのかも知れない」
多くの国で獣人差別があって、獣人ってだけでモノの様に扱われて人権を無視した酷い扱いを受けることが多いようだ。
人間と獣人はいつの頃からか理解し合えない程、仲が悪いらしい。
この世界での獣人は地球上で言えば動物が擬人化した者達を指すらしい。 例えば猫獣人なら耳や尻尾、爬虫類系なら腕や体にウロコといったような。
獣人は人間よりも身体能力が高くて体が丈夫だから魔物狩りや力仕事に重宝される。
自分の身体能力を活かして冒険者になる者も多いけど、人間の町では獣人と分かると差別を受けるからローブを羽織る人が多く、町でローブの人が多いのはそのせいでもあるみたい。
商人は人間より獣人の方が利用価値がある為、高く買う。
子供達がテントの準備をしている間、商人2人はふんぞり返ってその様子を見ている。
「いいか、お前達。今晩はここで野営をして明日の早朝にダンジョンに潜る。1匹でも多く食用の魔物を狩るんだぞ!!」
「「はい」」
「おい、ネロ。お前、今返事しなかったな。今日の晩飯は抜きだ」
商人は、ネロと呼ばれた子を蹴りながら言った。商人の言葉に対して返事をしなかったからだ。
「お兄ちゃん!」
もう1人の女の子が近付いて蹴り倒されたネロを起こそうとしている。
「なんだ、モモも晩飯はいらないようだな。よし、連帯責任だ。今晩は3人とも飯抜きだ。フハッハッハ」
商人の男が卑しそうな顔で笑っている。
「なにあれ、酷いっ!」
「トウコ、落ち着いて。こういう光景はよくあることだ。いちいち腹を立てていたら身がもたないよ」
「でも……!」
「トウコの気が済まないなら後でこっそりご飯をあげるといいよ。でもきっと警戒されると思うけどね」
「……分かったわ」
獣人の子供達はみんな外で寝るようなので、商人がテントで寝たのを確認してから、そっと子供達に近付こうとした。しかし、人間に警戒心を持っているのか、3人とも立ち上がってこちらを威嚇してくる。
私はローブを脱いで近付くことにした。
「怖がらなくて大丈夫よ」
小声で話かける。
「何だ、お前! 俺達を転売しようとしても無駄だぞ」
ネロと呼ばれた子供の声にテントの中の商人が起きる気配がした。
携帯食の干し肉と固パンを3人分置いて、その場は立ち去ることにした。
立ち去った後ろから商人達の声が聞こえた。
「おい、何かあったのか?」
「いえ……何もありません」
「ちっ、騒がしくしやがって。とっとと寝やがれ」
テントに戻ってくると、ウィンが困ったように微笑んでいた。
「おかえり」
「うん……ウィンが言ってた通り、すごく警戒されちゃった」
「獣人は人間にすごく不信感を持ってるんだよ。それにトウコの様に親切な人間も珍しいからね」
「何だか哀しいね」
「ああ、ほんとに」
*****神界
「エニフよ、何を食しておるのだ?」
「ごふっ、げほっげほっ!」
「お主、口の周りが真っ赤じゃ! まさか、そんな……!」
「お前急に現れるんじゃねえ。これか? ミートスパゲティーという食べ物だ。美味いぞ」
「なんじゃスパゲティか。吐血かと思ったぞ」
「んな訳ねーだろ。てか、お前これ食ったことあるのか!?」
「もちろん。他にも明太子スパゲティやカルボナーラ、色々あるぞ。ところで妾の世界の食べ物だと思うのだがどこで手に入れたんじゃ?」
「……ちょっとトウコのアイテムボックスから拝借しただけだ」
「勝手に取ったのか。ドン引きじゃ……」




