商隊護衛
護衛当日の早朝、集合場所へとやって来た。
商人4人に、荷馬車4台を冒険者6名で護衛する。
いつもは荷馬車6~8台程らしいが、今回はオーク被害に遭った直後なので荷馬車は減らして、護衛の数はそのままにしているらしい。
荷馬車の御者はそれぞれ商人が務めるので、守る人数は商人の4人と馬車だけになる。
この商隊は、『ラーナ町』と『サナダ村』を定期的に往復して、食糧や生活用品などをやり取りしている。これから向かうサナダ村は農産物が豊富らしい。
商人の代表者の自己紹介があった後、冒険者達で挨拶と自己紹介をすることになった。有事の際には冒険者同士の連携が必要とのことだ。
合同でパーティを組むのは、『レッドサンダー』という、男性4人組のCランクパーティだ。
みんな10代後半から20代前半ぐらいの年齢で、前衛3人が剣士、後衛1人が魔導士らしい。
「俺がレッドサンダーのリーダー、ロマンだ。前衛で剣士をしていて、個人ではBランク冒険者。今回は経験が一番多い俺が護衛の指揮を執る。宜しくな」
ロマンと名乗ったリーダーは、長身、短髪で筋肉質の、いかにも冒険者という風貌だ。
ロマン以外は個人ではCランク冒険者らしい。
「僕は魔導士のケニックだよ。水魔法が得意だから主に後方から援護をしているよ」
ケニックは長身だけど細身で色白、力仕事は苦手そうだ。
そして、残る2人の剣士の名前はロゼとナポンだ。
ロゼは左耳にピアスをして、髪型はアシンメトリーでちょっとチャラい感じ。
ナポンは長髪を後ろで1つに束ねていて、色気のあるお兄さんって雰囲気だ。
「俺はペガススアイのウィンで、剣士です。こちらは、妹のトウコです」
「治癒魔法が得意です。初めての護衛なので宜しくお願いします」
自然に妹って言ってるけど、もういいや。
「治癒士がいてくれると心強いな。お前達が初任務ってことはリップスさんに聞いているよ。緊急時は俺の指示に従うようにな」
問題なく自己紹介が終わり、商隊が出発する時間になった。
隊列は、先頭にロマンと剣士のロゼ、荷馬車の2号車と3号車の間に私とウィン。
そして、最後尾は剣士ナポンと魔導士のケニックが担当することになった。
初心者のペガススアイを一番安全な配置にしてくれたようだ。
1日目は早朝に出発して、お昼休憩を挟んで夕方には野営地に到着した。
「いつもの場所はオークに襲われた現場に近いので、今日は少し早いですがここで野営をします」
商隊の代表者がみんなに声を掛けている。野営場所には背後に大きな岩山があるため、岩山を背に荷馬車を停めた。
ロマンから、打ち合わせをするために召集がかかった。
「今夜は2組に分けて、交代で見張りをしようと思う。護衛は全員で6人だから3人ずつに分かれる。
メンバーは俺と、ウィンとトウコの3人と、レッドサンダーの3人だ。俺は護衛初任務のペガススアイにつく。時間は夜9時から午前1時までが俺達。午前1時から午前5時までをレッドサンダーに任せる」
今はまだ夕方だから、夕食後すぐに、商人達が眠る午後9時までの間で仮眠を取るように言われた。
夕食は商隊が振る舞ってくれた。干し野菜と肉の塩漬けのスープとパンだった。
明日からは自分たちで準備してきた物を食べないといけないから、沢山お弁当を買い込んでアイテムボックスに入れている。
ついでにウィンには逸れた時の為に、携帯食や毛布などをポーチ型の魔法袋に入れさせておいた。
早めの夕食を取ったあとすぐに仮眠をとり、午後9時から夜間の見張りについた。
商人達は荷馬車の2台ずつの間に隙間をあけて、岩山を背に、その隙間で寝るようだ。その商人達の前にレッドサンダーのメンバーもテントを張っていた。テントを前に置くことで、魔物や野盗の襲撃があっても商人達が荷馬車にすぐに乗り込める隙を作るとともに、守り、そして荷馬車を出発できるようだ。馬車の前には決してテントは張らないということだ。
このような配置はしっかりと先輩のやり方を見て、学んでおこうと思う。
私達は、みんなが眠っている間は寝ないで辺りを警戒する。私はサーチ魔法があるから、魔物や人を感知できる。一応、この事はロマンに言っておいた方がいいかな。
「ロマンさん、私、探知魔法が使えます」
「ええっ!? 本当か? それは助かる。では、念のため魔物と人を探知してくれるか」
「分かりました」
探知魔法は、今のところ私を拠点に対象物の大体の位置が示される。まぁ、飛行機の管制塔のレーダーのようなものだ。それに加えて魔物は青色で人間は黄色に表示され、大きさによって対象物の『点』も大小で何となく分かる。
いずれは、イメージングレーダーのように、対象物の形や具体的な大きさも分かるようになりたい。
「それにしてもトウコちゃんは治癒魔法が得意な上、探知魔法も使えるなんて俺もこんな妹が欲しかったなあ。なんて、俺は男兄弟だけどな」
「いえ、妹は抜けていることが多いので兄としては心配が絶えないですよ」
こうして、好き勝手に言われながら見張りの時間は過ぎていって交代の時間がやってきた。
次は私達が商人達の前にテントを張って睡眠を取る時間だ。
ロマンは遠慮して、テントの外で毛布に包まって寝るそうだ。
初めての護衛に興奮してなかなか寝付けなったけどようやく、うとうと眠気がやってきた頃レーダーが反応した。青色だから魔物だ。しかも、その数は10匹近くある。
魔物の反応があったことを隣で寝ているウィンに知らせようとしたら、ウィンもちょうど起きたとこだった。
ウィンは気配で魔物が分かるらしい。深夜2時頃というのに魔物の気配だけで目覚めるなんてさすが猛者の子孫。ハイスペックだな。
二人でテントから出て、レッドサンダーのメンバーにも知らせる。
商人達はレッドサンダーの誘導で荷馬車の中に避難をした。その間ほんの2、3分。
ちょうど商人達が避難を終えたところで魔物が視認できるところまでやってきた。
ロマンはあたりを広く見渡し応戦の態勢をとる。
「トウコちゃん、魔物は何匹か分かるか?」
「10匹です」
「了解!」
「よろしければ少し視界を明るくしましょうか?」
「……ありがたい!」
「よし! 魔物は10匹だ。今から視界を明るくするからみんな目を閉じろ!」
「ライト!」
ロマンの合図で蛍光灯をイメージしてすこし広めの範囲まで照らした。人間の視界で星明りだけで魔物と戦うのは不利なのだ。
冒険者達は前もって目を瞑って準備をしていたから光に目が慣れるのが早かった。一方、オークたちは突然の光に目を抑えて混乱しながら速度を落として走ってきている。
6対10でオークの数の方が多い。しかも、私はウィンに下がっているように言われて頭数に入っていない。
魔導士のケニックも後衛で少し下がっているから前衛は4対10で数の差で前衛の剣士達は不利だ。
ウィンとロマンは、難なくオークに対峙していて余裕みたいで安心。
周りを見渡すと魔導士のケニックも後方からロゼと対峙しているオークに水魔法で攻撃を仕掛けていた。
一番端で戦っていたナポンを見るとオークと対峙しているところで、その横から今まさに、もう1匹のオークに攻撃をしかけられているところだった。
「オークに風圧! そして瞬間冷凍っ!」
横から攻撃を仕掛けたオークを風で吹き飛ばして、さらに冷凍して動きを止めた。
その隙に、ナポンは対峙していたオークを難なく倒していた。ちょっと心臓に悪いよね。
その後もケニックの真似をしながら援護射撃をした。
最終的にウィンが3匹、ロマンが3匹、残りはみんな1匹ずつ仕留めることができた。
剣士のロゼとナポンは少し苦戦していたようだったけど、決して2人が弱い訳ではない。
Cランク冒険者となると、普通はオーク2匹でも難なく倒せるらしいが、今回のオークは連携して統制された動きをしていたらしい。体重200kgほどあるオークが二足歩行で敵意を持ってチームワークを組んで攻撃してくるのだ。
地球でいうところのヒグマで考えてほしい。ヒグマと近距離戦なんてよっぽど強くて運が良くなければ人間なんて一瞬で喰われてしまう。
だからこの世界のCランク冒険者は通常ならオーク2匹倒せるってことはかなり強いと思う。
「みんな、怪我はないか?」
ロマンが一人一人に声を掛けている。
「隊長~、左太ももをオークに強打されて動き辛いよ」
ロゼが少し足を引き摺っている。
「よろしければ私が診ます」
「トウコちゃ~ん、優しくしてね」
やはりロゼはチャラいようだ。
そっと太ももを少し触ってみた。外側が広範囲に渡って赤く腫れている。骨には異常はないみたいだけど、内出血になっていてかなり痛そうだ。
「ヒール」
傷ついた血管や筋肉を修復するイメージを作ってみたが、だんだんヒールに慣れてきたのか言葉で「ヒール」と言うだけで、怪我が癒されていった。
他に怪我人はいなかったので、オークの処分を始めた。
基本的に護衛中に退治した魔物は護衛の冒険者の取り分だ。今回は危険の可能性があると分かっていての仕事なので全て冒険者達に任せてくれた。
私とウィンもオークを倒せていたので、今回はそれぞれ自分で倒した分を取り分にしようということになった。
取り分と言っても、体調2m程あるオークを持って帰るのは大変なようで、レッドサンダーは6匹の内、3匹だけを魔法袋に入れて持って帰ることにしたようだ。
残りの3匹は商人達が引き受けることにしたらしい。
私とウィンは4匹すべてアイテムボックスに入れて持って帰ることにした。そういえば先日の魔犬も3匹入ったままだ。
オークを1匹ずつアイテムボックスに収納していたところ、私が瞬間冷凍で凍らせたオークにみんなが集まっていた。
「これどうなっているんだ?」
「このオークまだ生きているのか?」
「いや、全身凍っているから死んでいるんじゃないか?」
「俺が危ないところをトウコちゃんが魔法で吹き飛ばして、凍らしてくれたんだ」
ナポンが説明していた。
「こんな大型の魔物を丸々凍らせるなんて……」
みんなの視線が一斉に私に集まった。
でも私の能力を無暗に詮索されることはなかった。
どうやら、氷魔法は単純に水魔法の応用ではなく熱属性との複合魔法のようで、この世界では氷魔法の使い手は高い技術を持っているらしい。Dランク冒険者が使える事にも驚いたようだ。
エニフから授かった『魔法操作自由』のスキルのおかげで、想像した魔法を自由に使用できるけど、普通ではないようだ。今後は、この世界の普通の魔法も勉強しようと思った。
*****ロマン
俺たちは中堅冒険者だ。年齢も10代後半から20代前半と若いメンバーの割にCランク冒険者で将来有望と注目されている。
今回は駆け出しの冒険者『ペガススアイ』と同行することになった。ギルド職員のリップスさんが目をかけている2人だという。
いつも通り、駆け出しの冒険者と同行する時は一番安全な場所に配置させてやる。俺たちからすると戦力というよりは保護する対象ということになる。
ただ今回は直近のルート復路で魔物の襲撃に遭っているため、さすがの俺たちにもそんな余裕はあまりない。
リップスさんも面倒を押し付けてきたと思った。
一応、治癒魔法を使えることは聞いていたけどまさか探知魔法まで使えるとは。
探知魔法は確か土魔法と風魔法の複合魔法じゃなかったか?
それに『よろしければ少し視界を明るくしましょうか?』と遠慮がちに言っていたが少しどころかあの真っ白い光は一体なんなんだ? そんな魔法見たことないぞ。それも『ライト』という一言で。
まあ俺たちはその光でかなり優位に戦いに持ち込めたんだけどな。
人間の視力では魔物のように夜に対応できないから昼に戦うよりも戦力が30%は落ちてしまう。
でもあの光のおかげで真昼間のように動けた。本当にありがたい。
氷魔法も、2mの巨体を一瞬で凍らせるなんて隠れ上級魔導士か? 食事の時もずっとローブで顔は見えないけど顔を隠さないとならない理由があるのだろうか?
それに規格外なのはトウコちゃんだけじゃない。
ウィンの剣術にも隙がない。個人ではBランクの俺はさておき、冒険者になって何度も魔物と対峙しているロゼとナポンよりも明らかに動きが早い。直接対決すると俺よりも…………。いや、そんなことは今考えても仕方がない。
とにかく、今回に関しては戦力になりそうでありがたい。
今回のオークの連携した攻撃に注意をして帰りも気を引き締めないとな。




