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プロローグ~不幸の原因~

 

 その日、職場でいつもの様にコピーを取っていた。



 入社してから早々に上司が横領していて、罪をなすり付けられて警察の取り調べを受けた。すぐに私の無実が証明されたもののそれ以来、会社の人たちからは白い目で見られるようになった。


 その後、別の上司が来ることになったけど企画書は毎回横取りされて、挙句の果てに上司のミスは私のミスになっている。

 職場での評価は今でも低く給料も入社時と変わらない。

 28歳になって管理業務に追われ、煩雑な業務も増えているのに未だに誰でもできる雑用を押し付けられて残業の日々。


 うまくいってないのは仕事だけではなく、プライベートも最悪だ。

 ごく普通の家庭で育ってきたつもりだったが、両親は数年前に多額の借金を私に押し付けて弟と妹を連れて夜逃げしたのだ。

 ようやく借金を返し終わって安心したところ。そんな時に3年間付き合って、結婚秒読みだった彼氏に突然別れを切り出された。

 気付かないところで、私が可愛がっていた後輩に寝取られていたのだ。


 ほんと笑えるぐらい次から次へと問題ばかり。

 一時は私が悪いんだと思って改善しようと思ったんだけどね、さすがにビルから鉄パイプが降ってきたり信号無視の車に轢かれそうになったりが日常化してくると何をしても何をやっても無駄だよね。

 だから私は黙々と静かに過ごしている。


 おかげさまで私のメンタルは鋼のように強いはずだ。





「ふぅ、やっと50部、コピー終了っと」


 チカッチカッ。

 頭上にある蛍光灯が切れたのかと見上げると、突然強い光に視界が奪われた――。






「…………」


「東大寺 透子(とうこ)。手違いでお主の人生を終わらせてしもうた」

「はっ?」

 急に視界が変わり目の前には半透明な美しい女性が立っていた。

 テレビのチャンネルを変えるみたいに突然の出来事だった。


(わらわ)はお主を管轄しとった神といったところじゃ。いやな、お主の幸福と不幸のバランスがあまりにも悪くてのお。パラメーターの不調を手直ししようとしたら、間違って地球上でのお主の体を消滅させてしもうたんじゃ」


「……消滅?」

「あぁ、お主の肉体はすでに元の場所からは跡形もなく消え去った。これを神隠しという人間もおるのぉ」


 続いて説明を始めた。

 女神様が言うには人は必ず幸福と不幸が同じになるように誕生するのだという。

 数値化すると、幸福が10の人は不幸も10、幸福が3の人は不幸も3という具合でバランスを取って生まれてくるという。

 そこに、善良な心に幸福の導線、悪質な心に不幸の導線が繋がっており、幸福の数と不幸の数は人の心と共に変動するらしい。

 なので通常は善良な心を多く持っていた方が不幸よりも幸福の数が多くなる。


 今回、飛び抜けた異常値を感知して私を見にきたら、導線が逆に繋がっていたらしい。

 つまり、善良な心が大きければ大きいほど不幸に、悪質な心が大きければ幸福になるという具合に。

 私がずっと苦労続きだったのは、パラメーターの不具合のせいだったらしい。



「それでじゃ、時間がないから簡単に説明する。妾の手違いで元の世界で消滅した者は別世界で生きることになる。しかし、平和な世界を用意できなかった。本当に申し訳ない。お主の幸福を祈ってお……」


「えっと……何? ちょっと待っ……!」

 女神様の話の途中で、身体が猛スピードの渦に巻き込まれるような感覚がして意識を手放した。




 ガサッ!

 ドサササッ! ドンッ!!

「痛っ! 腕……。折れて、ないよね?」


 全身が痛い……高い所から落ちたみたい。

 周りを見渡すと見たこともないような森林が広がっている。


 何が起きたのかついていけない。ただ分かるのは今は知らない森の中。



「もう、一体何なのよ! 私が何をしたって言うのよー!!」

 毎回毎回自分には非のない不可抗力な出来事ばかり。もう、一体なんなの!

 もう我慢の限界。こんなに感情を出して叫ぶのはいつぶりだろうか。


「ここどこ? 何かさっきから手がくすぐったいし!」

 ふと手を見ると、怪我をした場所に直径5cm程の黒くて脚が10本以上ある虫が群がっていた。


「きゃわあぁっ!」

 腕が千切れそうなほど、激しく腕を振って虫を払い落とした。虫が大の苦手で触れない上に、殺すこともできないのだ。

 そのため、蚊すらも自分の腕に止まっていても殺せず、「蚊~か~カ~!」と腕をブンブン振って、道行く人に変な人扱いされたこともある。



 突然の虫事件に体力と精神力をごっそり奪われたけど同じ場所にいても仕方がない。いや、ほんとは黒い虫が怖くてこの場にいられない。


 取り敢えず移動する事にした。

 森の出口が分からないから明るい方を目指す。

 人の出入りがない森なのか、獣道のようなものしかない。もちろん蜘蛛の巣や虫も多く、歩くだけでも罰ゲームのような感覚だ。




 とにかく散々だった。


 獣道を通っていると蜘蛛の巣に引っ掛かり、ふと見上げると50cmほどの大きな蜘蛛がこちらを向いて「こんにちは」の体勢、3mほどの白い動物がいると警戒をしていたら大きな蛾の集団、岩に座ろうと思ったら5mほどのカブトムシのお尻だった。


 ヤギのような動物がいると思って安心したら、次の瞬間には角の生えたリスがやってきて無残に食い殺した。小さいリスが、ヤギを、である。


 極めつけは、昨晩のことである。やっとのことで虫や猛獣がいない洞窟を見つけたのである。洞窟の入り口は大きな岩が形よく半円状に並んでおり、周りに危険動物もいないことから聖地のような雰囲気を醸し出していた。

 しかし、すぐには入らずに警戒に警戒を重ねて、暫く様子を見てから洞窟に入ったのだ。岩の隙間を通り、中へと進むと少し生暖かい風が洞窟内から吹いてきたが、それ以外は特に異常がない為、腰を下ろした。

 すると、大地が地震に襲われだして――いや、正しくは洞窟内だけが揺れていた。慌てて外に出ると、洞窟ではなく巨大なカバの口の中だった。本気で死ぬかと思った。



 あかん、この森、完全に心臓マヒで死ぬパターンや。

 ゲームの世界なら残り[HP1]で、あと1撃で終わるやつ。

 疲労による思考回路停止状態のため、ぼぉ~と、そんなことを考えていると頭の中で『ピロロン』と音が鳴った。


『ステータスボード開きます』

 名前:東大寺 透子 レベル:1

 体力:3/25

 魔力:E

 防御:E

 腕力:E

 俊敏:D

 特殊効果:なし


「なにこれ。本当にゲームみたい。それに、体力だけ数値化されてる上に残り3って……本当に死ぬかも」




 ******

【神界にて】


「エニフよ。お前の世界で1人、面倒を見てほしいのじゃ」

「よっ、久しぶりじゃん。でも俺の世界は騒がしいからやめた方がいいぜ。別の世界でも探しな」


「いや、それが……他の世界神達に手一杯と断わられてな。どうやら、沢山消滅させ過ぎたようだ」

「はっはっは。お前相変わらずバカで不器用だな。神っぽいのは見かけ倒しだな」


「うるさい! 妾は細かい作業は少々苦手なんじゃ」

「少々どころか完全に向いてないな。神界でも5本の指に入るポンコツ具合だな。お前の世界の人間かわいそうだな。もう、隠居でもしたら?」


「なにをっ! お前にそんな事は言われたくないわ! お前の世界なんて各地で馬鹿魔物のスタンピードは日常化、人間どもも悪しき心を持った者も多すぎて『破滅率84%』で崩壊寸前じゃろ。バーカバーカ! 次に大きな争いごとが起きれば滅びるぞ」


「うるせーな! んなこと分かってるけどしょうがねーだろ。別に俺だけのせいじゃねえし。てかお前の世界もそろそろヤバくなってきたそうじゃねえか。まあ俺は優秀だから、既に新しい世界を創造する準備できてるんだよねー」


「お主、諦めが早すぎじゃ。世界を何だと思っておるんじゃ! 次の世界の前に今ある世界を大切にしろ。そんなこと基本じゃろうて。その根性鍛えなおしてやろう!」


 ドンッ! バリバリバリ!


「ちょっ! 急に攻撃してくんなよ。この年増ババア。燃やしてやるからさっさと隠居しろよ」


 ボッ! ボボボッ!!

 

「相変わらず口の悪い奴じゃな。お主の神力なんぞ妾の前には効かんぞ!」


 こうして3日3晩、攻防が続いた。

「「はぁ、はぁ……」」


「お主相変わらずじゃな」

「お前もな。てかお互いボロボロじゃねえか」

 仲が良いのか悪いのか、2人の神はお互いの姿を見て笑い合っている。


「して、妾たちが喧嘩している間に随分と時間が経ったが、『東大寺 透子』は無事じゃろうか。お前の庭である魔の森のどこかに落としてしもたんじゃ」

「俺の魔の森で3日か……もう死んでんじゃねえの」


「妾は、あの人間には何もしてやれんかったのお……」

「俺の魔の森では、1匹でも意図的に生物を殺せば必ず喰われる。小さな虫も生き物も多いから、恐らく殺してると思うぞ。その後は、死あるのみだな」


「もし……生き残っておったら、お主の力を少しだけ与えてやってくれんか?」

「俺の話を聞いてたか? 生きているはずがない」


「お前、バタフライ効果というものは知っておるじゃろ?」

「うーん。例えば、1匹の小さな蝶の羽ばたきが、数千キロ離れた場所で竜巻を起こしうるというものだったか」


「それじゃ。妾が思うにあやつはかなり善良な人間じゃよ。その1匹の蝶になり得る事ができるかもしれん。お前の世界で、ただ普通に生かしてやるだけで、お前の世界の善良な民が死なずにすむかも知れんぞ。たった1人でも2人でも、善良な者が生きる事によって、悪しき心を持った者達の勢力に少しぐらい影響がでるかも知れんぞ」

「はあ、相変わらずお前は夢見がちだな。……まあ生きてたら力を与えてやるよ。俺の大切な生物たちを殺していなければ、そんな人間に興味があるからな」


「エニフよ、頼んだぞ」

「別にお前のためじゃねえよ」


「ふふっ。次に会うた時には酒でも交わそうぞ」

「ふんっ、そうだな」


お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になる! 

と思っていただけたら、ブックマーク、評価をいただけると嬉しいです。

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