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9 もしかして、私に惚れちゃった?

「そのジト目は何かな……?」


 リグミナが俺を睨み続ける。


「あのさ、マナシエちゃんを身請けしたとか言ってるけど、そのお金は? この家を買った時点でソウジの財産ってほとんど残ってないよね?」


 こいつ、意外と金銭感覚がしっかりしているタイプだな!?

 てっきり、金にだらしないと思っていたのだけど……。


「あ、あの、わたしクラタさんに迷惑を掛けられません!」


「子供は心配するなって、言っただろ? 大丈夫。俺がなんとかするって」


 まったく、本人の前でそういう生々しい事を言ってやるなよなー。


「金の切れ目が縁の切れ目って言うじゃない! 私、嫌よ! 借金まみれになって路頭に迷うなんて! 路頭に迷うのはソウジだけにして!」


 前言撤回。

 こいつは金銭感覚がしっかりしてるんじゃなくて、ガメツイだけだ!

 マナシエですら、呆れ顔になってるぞ。


「人の話は最後まで聞けっての。俺だって、考えなしで動く訳じゃないんだからさ」


「じゃあ、どうするのよ?」


「冒険者として地道に稼ぐよ。スライム倒しただけで魔石もこんだけ手に入るんだし、なんとかなるだろ」


 そう言って、リグミナとマナシエに先程入手した魔石を見せる。


「うわ! スライム倒しただけで、この魔石ってコスパ良すぎない!?」


「……きれいな魔石です!」


 リグミナが守銭奴みたいな目をして、魔石を自分の懐に仕舞い込もうとするのを頭を引っぱたいて阻止する。

 腐っても女神なんだから、それはどうなのよ。

 マナシエが軽蔑の目で見ているぞ。


「まったく、油断も隙もないな。これは換金用だ。こうやって地道に稼げば返済も可能だろ」


「何よー、ケチ。少しぐらい魔石をくれたって、いいじゃないよう!」


「あの! わたし、クラタさんのお手伝いをします! なんでもしますから!」


 この二人の差はなんなの?

 小さな子が健気にもこんな事を言ってるんだぞ?



「私は力を取り戻す為に魔石が必要なのよう!」


「そうなのか?」


 物は試しにと、魔石を一つ渡してみる。

 リグミナは嬉しそうに魔石を握りしめると、その魔石が光を放ちながら粒子となってリグミナに吸収されていく。

 その幻想的な光景に思わず見惚れてしまった。

 マナシエも俺の隣で瞳を輝かせている。


「ふう……終わったわ」


「そんで、具体的にどんな力が戻ったんだ?」


「うん、取り敢えず満腹になったわ!」


「…………」


「今日はお昼を抜いても大丈夫だから、ソウジは私の夕飯だけ用意してね?」


 本気でこいつをグーで殴ってやろうかと思ったのだが、マナシエが俺の握りしめた拳にそっと触れて首を横に振っている。

 本当にこの子はよく出来た子で、おじさん感動してしまったよ。


 それはそうと、奴隷商のアルジットがマナシエを引き取る手続きのため、明日ウチに来る事を説明しておく。

 非常に不本意だが、俺とリグミナが夫婦となっている事も伝えた。



「はあ!? 私がソウジと夫婦だって!? ふざけた事言わないでよ!!」


 まあ、予想はできた反応だが、今朝方にアイニとミユに自分は妻だとか言ってたよな?

 ものの見事に、それを棚に上げるこいつの性格に感心してしまう。


「どうせなら、ミユちゃんかアイニちゃんにでも奥さんになってもらいなさいよ」


「あいつらはまだ子供だろ! そんなに俺を犯罪者に仕立て上げたいのか!?」


「なによう! あの二人を連れてきた時に鼻の下を伸ばしてたじゃない!」


「してねえよ! とんでもねえ言い掛かりだな!?」


 思わずヒートアップしてリグミナと言い争っていると、マナシエが割って入ってきた。


「ケンカは駄目です! みんな仲良くがいいです!!」


「あ……そうだな。すまん」


「そ、そうね。ごめんね、マナシエちゃん」


 涙目で訴えるマナシエを前にしたら、言い争う気が一気に削がれてしまった。


「……もうケンカしませんか?」


「そんな目で見ないでくれよ。もうケンカしないからさ」


「私もしないわよ。だから安心してね?」


「それなら良かったです」


 マナシエがそう言って、ニコリと微笑んだ。

 こういうのを『守りたい、この笑顔』っていうんだろうな。



「もう、仕方ないわね! 私がソウジの奥さんの役を演じてあげるから! でも勘違いしないでよね! ソウジの為じゃなくて、マナシエちゃんの為なんだからね!!」


 こいつ、お約束のツンデレかよ。


「はいはい。感謝するよ。それはそうと、やっぱり見た目が若すぎるよなー」


 リグミナの外見は十代の少女なので、ミユとアイニとも大して変わらない。

 これじゃアルジットに変な疑いを掛けられそうだ。


「もう、仕方ないわね! さっき魔石をくれたし、なんとかするわよ。でも勘違いしないでよね! ソウジの為じゃなくて、マナシエちゃんの為なんだからね!!」


 こいつ、ワンパターンかよ。

 思わず呆れてたら、リグミナが光に包まれる。

 そして光が収まると、とんでもない美女が目の前いた。

 体のラインは出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

 ナイスバディってやつだ。

 マナシエもいきなりの事で呆然としている。


「ええっと……どちらさんですかね?」


「ふふん、驚いた? これも取り戻した私の力の一環よ?」


「え!? マジでリグミナなのか!?」


「だからそう言ったじゃない。ちゃんと人の話を聞いてるの?」


 くそう、非常に悔しいが俺のタイプ過ぎる。

 中身を知らなったら、食事にでも誘っていたかもしれん。


「もしかして、私に惚れちゃった?」


「ああ、悔しいがそれは認めよう」


「……ええっ!? い、いきなりそんな事言わないでよね!?」


 突然リグミナが顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。

 こいつはお子様ですかね。

 そんな事を考えていると、マナシエがいきなりリグミナに抱きついた。


「ど、どうしたの? マナシエちゃん?」


「ごめんなさい。今だけお母さんと思わせてください……」


 そこで気づいてしまった。

 今リグミナが着ている服は、恐らくマナシエの母親の物だ。

 もしかしたら、今のリグミナの姿を見て母親を思い出したのだろう。


 リグミナが戸惑った顔で俺を見るが、マナシエの好きにさせてやれと頷いてみせる。

 それが伝わったのか、リグミナが優しくマナシエを抱きしめて頭を撫でる。

 そうやっている姿だけは、女神そのものなんだけどなー。

 中身が残念なのが大変に悔やまれる。


 しばらく二人の事を見守っていると、突然玄関扉が開いてミユとアイニが乗り込んできた。

 あのさあ、せめてノックぐらいしない?

 ここは君達の家じゃないんだからね。



「クラタん! さっきの事をアイニも伝えたにゃ!」


「クラタさん! リグミナさんが奥さんだって本当なのですか!?」


 ミユさんよう、アイニには何を伝えたんですかねえ。


「……って、知らない美人さんがいるにゃ!」


「クラタさん! リグミナさんだけに止まらずに、新しい女性まで連れ込むなんて何を考えてるのですか!?」


 なんかもう俺、帰りたくなってきたわ。

 ここが俺の家だけどさ。


「落ち着けよ、二人とも。こいつはリグミナだよ。魔法で変身してるだけだっての」


「そうだったのかにゃ。驚いたにゃー」


「それなら納得ですね」


 信じるのも早いなー。


「って、それどころじゃありませんよ。リグミナさんが奥さんというのは本当ですか!?」


 アイニも結構面倒な子だな。

 もっとしっかりしてる子の印象だったのだけど。


「違うっての。ミユが適当に言ったおかげで、そういう話になっただけだって」


「そうよー。私がソウジの奥さんな訳……ないじゃない」


 何故そこで言い淀むのですかね。リグミナさんよう。


「それはそうとさ、アイニまでなんでウチに来たんだ? まさかミユのデマの事だけじゃないよな?」


「そうでした! 明日、こちらに奴隷商のアルジット氏が訪れるのですよね?」


「あ、ああ。そう聞いているが……」


 というか、アルジットって俺の家の場所って知ってるのかな?

 案外、最初からマナシエの居場所も把握していて、俺達は監視されてたりな。

 ……考えると怖いから、これ以上想像するのはやめておこう。


「その件ですが、私も立ち会わせて頂きます!」


「いや、別にそこまでしなくてもいいんだけど……」


「そうはいきません! 父の名代として立ち会わせて頂きますので!!」


 アイニが怖い顔で詰め寄ってくる。

 リグミナとマナシエが震え上がるぐらいの気迫だ。


「えっと、アイニのお父さんって何者なのかな?」


「……私の父はこの付近一帯を治める領主です」


 そうきたかー。

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