78 おまけ ホワイトデー
季節ネタです
なんだかんだで、今日はホワイトデーである。
こっちの世界にも随分昔から伝わってる風習と聞くので、やはり異世界経由の文化なのだろう。
まさかの三倍返しとかの風習は無いよな!?
そういえば、前の世界で付き合ってた彼女へのお返しで、何を贈ったか全然覚えてないな。
それはさておき。
今日は行きつけの酒場の厨房を借りて、クッキー作りに勤しんでいる。
チョコレートと違って、クッキーの材料は手軽に入手できる物で助かったよ。
ちなみにだが、クッキー作りの講師は酒場の老マスターだ。
大変寡黙な男であり、表情や仕草で何を伝えたいのかを理解しないといけないので、中々苦労する。
生徒は俺と、この酒場に住み込みで働いているギルデオだ。
彼は南地区の冒険者であったが、紆余曲折あって、ここセービルの町で暮らしている。
「…………」
マスターが身振り手振りで色々説明してくれてるのだが、正直よく分からん。
「……なるほど。中々に奥が深い」
そんでもって、ギルデオは普通に理解してるようだ。
まあ、雇用主と被用者だから、それぐらいの意思疎通は朝飯前なのだろう。
俺は分かった振りをして、ギルデオの真似をするしかない。
ふむふむ、器に無塩バターと砂糖を入れて混ぜ、卵の黄身も加えてさらに混ぜるのか。
お次は薄力粉も混ぜると。生地が仕上がったら冷蔵庫で寝かすと。
なんだか普通に冷蔵庫とかあるけど、一応魔石を動力源としてるんだよな。
今更だが、こういうところは異世界っぽい。
生地を寝かしている間、ギルデオと世間話に興じる。
こう言ってはなんだけど、俺の数少ない同性の友人なのだ。
非常に不本意だが、奴隷商のアルジットと情報屋のオヤジも一応友人である。
今回あの二人の姿が見えないので、どこか遠出でもしているのだろう。
「ギルデオは最近どうなんだ? 奥さんと上手くやってるのか?」
「……まあ、普通だ」
彼は冒険者仲間だったヴァネリーとこの酒場で働き始め、なんかいい感じになっていた。
つい先日に籍を入れたのだが、式は挙げない方針らしい。
二人とも過去に色々あったので、祝福される立場じゃないとの事だそうだ。
こればかりは当人達が決めた事だし、俺が口を出す問題じゃないな。
「あんたの方はどうだ? そろそろ身を固める気になったか? あれだけ嫁さん候補がいたら、毎晩大変だろうな」
「そうそう。もう精も根も尽き果てて大変だわ……って!! 違うわ!! 一切手を出してないからな!!」
思わずノリツッコミをしてしまった。
まったく何を言わせるんだ。
「本当に手を出してないだと……」
「みんな娘みたいな年頃のお嬢さんばかりだからな。その気になれないんだよ」
若干嘘である。夢の中では、ルネイアナに色々されていたりする。
だって、あいつは夢魔だし。そういう事をしないと死んでしまうと泣きついてくるから仕方なくだし。
「そうなのか? 巷では、すっかりハーレム気取りだと噂になってるぞ」
ギルデオの言葉にマスターも深く頷いている。
勘弁してくれよ。俺は全員に手を出すような甲斐性も無いっての。
「それに、俺はミユを大事に思ってるからな」
ガイラさんやフィルデから熱烈アプローチを受けている身としては、どの口が言うんだって話だけどな。
「……まあ、そういう事にしておこうか」
「なんだよ、信じてくれないのかよ。そういうギルデオだって、他に女はいないのか?」
なんだかんだで、こいつはモテるんだよな。
冒険者の女達が言うには、どこか陰のある雰囲気が魅力的に見えるそうな。それに、体も大きいから頼り甲斐もあるとか。
「俺はヴァネリーを裏切れない。あいつは俺によく尽くしてくれる……」
「うわー、ノロケかよー。お熱いことですわねー」
思わず茶化すと、ギルデオの頬が朱色に染まる。
こいつ、純情かよ!!
そうこうしているうちに、生地が冷えて固まった。
それを取り出して麺棒のような物で適度に薄く伸ばした後は、クッキー用の金型で生地をくり抜いていく。
そして、魔導オーブンで焼くとプレーンクッキーの完成だ。
干した果物を細かく刻んだのを入れても美味しいかもしれないな。今度試してみよう。
まずは試食と……。
うむ、中々いけるんじゃないか?
まずまずの成功を確認して、ギルデオと頷き合う。
一応、マスターにも試食してもらった。少し緊張するが、マスターがにこやかにサムズアップする。
無事に合格をもらった事だし、後はラッピングだ。
クッキーを袋に小分けし、ファンシーなリボンでくくって終了っと。
俺の場合は数が多いから、ちょっと面倒だ。
俺の苦労を横目に、ギルデオはさっさと終了してやがる。
今夜は夫婦でよろしくやるんだろうなあとか、下世話な事を考えてるうちに作業終了っと。
マスターへのお礼もそこそこに、帰宅の途につく。
しかし、途中で奴らは俺を待ち構えていたのだ。
「ふふふ、待っていましたよ。ソウジさん」
「旦那、あっし達の事をお忘れでは?」
ほら出たよ。
アルジットと情報屋のオヤジだ。
まさか、俺のクッキーが狙いなのか!?
なんて図々しい奴らなのだ。
「私達がそのような真似をするとお思いですか?」
「あっしも、ちゃんと作ってきたので交換しませんかね?」
「ほほう。あんたらも作ったのか?」
「ええ。手作りですよ」
「慣れない事は、するもんじゃありませんね」
疑って悪かった。
早速、二人と余分に用意しておいたクッキーを交換する。
おっさん三人が手作りクッキーの交換会をしてるなんて、傍から見たらどうなんだろうとか考えてはいけない。
「ふふふ。流石はソウジさんの手作り。まるでソウジさんの指を舐っている気分になりますね」
アルジットは一々気色の悪い事を言いやがる。
「いやいや、旦那のコレは普通に店に出せるレベルですぜ?」
情報屋のオヤジは嬉しい事を言ってくれるねえ。
という事で、俺も二人のクッキーをいただく事にした。
「ああ、そうそう。私のクッキーに一つ当たりがありましてね。生地に私の乳首を押し当てたのがありますので、それが当たりです」
「ぶふぉお!!」
思わず吐き出してしまった。
なんて事をしやがる!!
仕方ない、今度は情報屋のオヤジのだ。
「旦那、生地にあっしの体毛が混ざってたら勘弁してくださいね」
うん、早速口の中になんかの毛が入ってたわ……。
いきなりの罰ゲームを味わった俺は逃げるように自宅へ帰った。
「ただいまー」
「お帰りにゃー!!」
帰宅するなりミユが飛びついてくる。
愛いやつめ。顎の下を撫でてやったら、激しい頬ずり攻撃を返された。
「クラタさん、おかえりなさい」
続いてマナシエだ。
なんだか期待する目を向けられているな。
恐らく俺が持つ袋の中身が気になるのだろう。
早速リビングに向かうと、みんなを集めた。
「一応、バレンタインのお返しだ。シンプルなクッキーだけど、勘弁してくれよな?」
「やったにゃー! クラタんの手作りにゃー!!」
早速ミユに強奪された。
ミユさんや、せっかく見た目は大人っぽくなってきたんだから、もう少し落ち着きを持とうな。
一人一人に手渡すのだが、その間ずっと背後からミユが抱きついてくる。
嬉しいのだけど、他のお嬢さん達の視線が怖い。
「うわあ、ありがとうございます!」
マナシエは素直で本当にいい子だなあ。
いつまでも癒し枠でいてくれ。
「べ、別に嬉しくないんだからね! ……でも、一応お礼は言っておくわ。ありがと」
リグミナはベタ過ぎるなあ。
もう少しパターンを増やすべきだと思うぞ。
「わざわざ手作りでいただけるなんて、職場で自慢させていただきますね!」
アイニさんよ、そうやってトラブルを増やすのはやめようね。
ただでさえ、冒険者の男達から恨みを買ってるんだからさ。
「ソウ君って、意外と器用よね~。女の子を喜ばせる指技も得意でしょ~? 今度私にもやって~」
ルネイアナをアイアンクローで黙らせておく。
ほら、お前の求めていた指技だぞ。
「うふふ。おとうさんの手作りクッキーですか。なんだか、父からもらった事を思い出しますね」
ほほう、エーシャの親父さんも手作り派だったのか。
割とマメな人だったのかな。
「我も幼き頃を思い出してしまった。……思い出してしまったのだが」
ガイラさん、なんで俺を見つめて二回も言った。
仕方ないから、取り敢えず撫でておく。
「ソウジ様の手作りですと! 大変光栄に存じます!!」
フィルデは一々大袈裟なんだよ。
「あまりに光栄なので、今度私の故郷へご案内します! どうですか? 一緒に行きましょう!! そして、父達を打倒して過去の因習を打ち破るのです!!」
絶対にろくでもない事に巻き込まれそうなのでご遠慮します。
そんな訳で、我が家のホワイトデーもなんとか無事に乗り切る事ができたのであった。




