41 なんでその子がここにいるのにゃー!?
取り敢えず、我が家に一旦帰ろうと思ったのだが、お約束のようにフィルデがくっついてくる。
「あのさ、一応聞いておくけど、寝泊りする場所ってあるのか?」
「奴隷だった時はアルジット氏の邸宅に住まわせていただいておりましたが、今はまったく当てがありません!」
胸を張って自慢気に言うなよ……。
立派なお胸なのは分かるけどさ。
しかし、これってそのままにしてたら我が家に居座る系のキャラだよなあ。
我が家はただでさえ女子ばかりだ。これ以上同居人が増えたら、俺の居場所が無くなるぞ。
かと言って、追い返す訳にもいかないし。
まったく、とんでもない子を解放してしまったよ。
格好をつけた先程の俺をぶん殴りたい。
まあ、ここで愚痴っても仕方ないか。フィルデは相当に腕が立つみたいだし、すぐに冒険者として単独でやってけるようになるだろう。
俺が世話するのはそれまでだ。
そんな事を考えているうちに我が家に到着。
「ここがご主人様の家なのですね! 今日からお世話になります!」
この子、既に住む気満々だよ……。
もう少し遠慮というのを覚えてくれないかなあ。
「フィルデ、これだけは覚えて欲しいルールがある」
「なんでしょうか、ご主人様」
「まず、そのご主人様は禁止な。俺の同居人が驚いてしまう」
「……そうですか。非常に残念です」
フィルデの耳と尻尾が悲しそうに垂れてしまった。
いじめてるみたいな気分になるから、そういうのはやめてほしいぞ。
「それと、同居人だが、物凄くクセのあるやつばかりだ。間違ってもトラブルを起こしてくれるなよ?」
「誰がクセのあるやつですってー?」
言ってるそばから現れてしまった。
建前上、俺の妻役のリグミナである。もっとも、今は親戚の子っていう設定がメインのはずだが。
「ご主人さ……ソウジ様。こちらの方はどなたでしょうか?」
ご主人様はともかく、様付けもやめてね。
「えっと、こいつは遠い親戚の子のリグミナだ。仲良くしてやってくれ」
「そうでしたか! 今日からここでお世話になるフィルデと申します! よろしくお願いしますね!」
うわー、すげえにこやかに挨拶してるわー。
というか、ここに住むのは確定なのね。
リグミナがすげえ何か言いたそうに、こっち睨んでるわー。
「むむ? リグミナ殿、いえ、リグミナ様は──」
フィルデがリグミナと握手してるのだが、不思議そうに首をかしげている。
何かあったのだろうかと思っていると、家からマナシエが出てくるのが見えた。
「おかえりなさい! 今日は早かったですね! ところで、そちらのお姉さんは……?」
マナシエにも紹介してやろうとしたのだが、フィルデが先制攻撃とばかりに、リグミナにしたように同じ挨拶をする。
「フィルデさんとおっしゃるのですね! 前にアルジットさんの護衛をされていたと思いますが、年季が明けたのですか?」
本当にマナシエは利口な子だよな。
前にチラッと見掛けただけなのに、ちゃんと覚えているなんて。
リグミナなんて、今日初めて会ったみたいな顔してるぞ。
「いえ、私はソウジ様に買われたのですよ。命令されれば、夜のお相手も頑張ります!
「へ、へえ……そうなのですね……」
おい、フィルデさんよう。何を言ってくれてるのかなあ。
それと、マナシエさん?
蔑むような目で俺を見ないでくれないかな?
色々と誤解があると思うのだよ。
そういう目的で買ったわけじゃないからな。純粋に奴隷の身分から解放しただけなのだ。
「あー! クラタん! なんでその子がここにいるのにゃー!?」
ミユまで出てきやがったか。
てっきり冒険者ギルドに行ったものだと思っていたのだが……。
「クラタさん! まさか、奴隷を買われたのですか!?」
「ちょっとソウ君、ひどいわよ~。私がいるのに~」
なんでアイニとルネイアナまで出てくるのかなぁ。
君達はギルド職員の仕事があるでしょうよ。
「い、いえ、昨晩は飲み過ぎて二日酔いなんてしてませんからね!?」
「あはは~。昨日はお酒を飲みながらガールズトークで盛り上がっちゃってね~」
完全に二日酔いで起きられなかったのですね。
そういや、朝の食卓に二人ともいなかったよなー。
「ほほう、奴隷商の元に赴いたと思ったら、奴隷を連れ帰ってくるとは中々いい趣味ではないか。我が父にも勝るとも劣らない愚劣っぷりよ!」
ガイラさんまでも出てきちゃったかー。
一番面倒な人だけど、考えようによっては説明の手間が省けるな。
「みんな勘違いしないでくれ。これには事情があってな、かくかくしかじかで──」
なんとか事情を説明したのだが、全員が納得してくれた訳ではなかった。
特にリグミナは辛辣だ。
「ないわー。自宅改装費を全部使って奴隷から解放するとかないわー」
はい。まったくその通りでございます。
「あたしは賛成だにゃ! フィルデは強そうにゃ! アタシと手合わせして欲しいにゃ!」
ミユはいつも通りで安心する。
「わたしも賛成です! お姉ちゃんが増えるのは嬉しいですから!」
ああ、マナシエはなんていい子なのだろう。
「私も異論は無いわ~。ソウ君にお任せだし~」
ルネイアナさんよう。お前は同居人でもなんでもないだろう。
「フィルデとやらにも事情があったのだな。我も同居には吝かではないぞ」
ガイラさん、あなたはここの家主ですかね。
その一方で、アイニが難しい顔で思案中だ。
ぶっちゃけ、君にも直接関係が無い事だと思うのだが……。
「思い出しました! フィルデさんって、南地区のAランク冒険者だった方ですよね?」
なんですと?
その場の全員の視線がフィルデに集中する。
それはそうと、南地区って、ヴァネリーとギルデオがパーティーを組んでいたナマクラ君の親が領主をしている地区だったよな。
「そうです。私は南地区でAランクの冒険者をやっておりました」
「確か、お金目当てで隊商を襲撃して奴隷落ちになったとか……」
アイニの言葉に、フィルデの耳と尻尾の毛が逆立った。
「違う! あれは騙されたのだ! 断じて金品が目当てで、そのような卑劣な事はしていない!!」
いきなりフィルデが大声を出したので、アイニとマナシエが怯えてしまう。
双方とも、すぐにルネイアナとミユが抱き寄せたので、大事には至らなかったようだ。
それにしても、凄い迫力だったな。
俺も足が竦んでしまったよ。
「あ……大声を出して申し訳ありません。ですが、断じて私利私欲のためにやった訳ではありません。信じてほしいと言っても無理でしょうけど……」
途端に耳と尻尾が垂れてしまった。
物凄いションボリである。
「その子の言ってる事は本当よ。私は嘘が見抜けるんだから間違いないわ!」
まさかのリグミナからのフォロー。
忘れがちだが、こいつ一応は女神なんだっけ。
「確かに、冒険者ギルドの報告書にも疑わしい記述が散見されていましたし、私としても、フィルデさんが悪事を働いたようには思えません」
アイニもフィルデの件は疑っていたのか。
同じギルド職員のルネイアナは、この件に関してどう思っていたのだろう?
「私? 普段の業務が忙しくて、そんな記録まで見てないわよ~」
さもありなん。
ルネイアナに呆れていたら、いきなりフィルデがリグミナの前に跪いている。
「私のような者の言葉を信じて頂き、ありがとうございます。やはり、あなた様は女神の化身でしょうか」
おいおい、普通に正体バレてないか?
当事者のリグミナは全力で首を横に振っている。
「リグミナ様は、私の一族に伝わる女神そのものです!!」
あのリグミナの様子だと、何か心当たりがあるって感じだなあ。
まあ、これで一件落着って感じか?
誰かもう一人忘れてる気がしなくもないが、気のせいだろう。
フィルデの濡れ衣も晴れたって事で、家に入ろうとしたらガイラさんがフィルデに詰め寄るのが見えた。
「おい、フィルデとやら。お主はAランク冒険者と言ったな?」
「はい。恥ずかしながら、資格は剥奪されてしまいましたが……」
「資格なんぞどうでもいい。我と手合わせしてみないか? 最近は歯応えのある者が少なくてな」
不敵な笑みを浮かべながら、ガイラさんが胸の谷間から二振りの剣を取り出して、片方をフィルデに放り投げた。
いつも思うのだが、あんなのを胸の谷間にどうやって収納していたんだろうな。
「ガイラ殿からは人とは思えない程の圧を感じます。不肖フィルデ、どこまで通じるか分かりませんが、お手合わせ願います!」
フィルデが鞘から剣を抜き放って構える。
俺が見ても、かなりの実力者と思える佇まいだ。
気づくと、ミユが俺の隣で真面目な顔で二人の勝負を見守っている。
「じゃあ、私が審判ね~。二人とも準備はいい~? 始め~」
なんとも気が抜ける声でルネイアナが試合開始の合図を出した。
最初に攻撃を仕掛けたのはフィルデだ。
とんでもない加速でガイラさんに肉薄する。
その勢いで斬りつけるが、ガイラさんがその攻撃を涼しい顔で弾き返す。
火花が飛び散る程のぶつかり合いだが、それ以前にフィルデがガイラさんと渡り合ってるのが信じられない。
ミユでさえ手玉に取られたぐらいなのに……。
これがAランク冒険者の実力だというのか。
しばらく斬り合いが続いたと思ったら、双方が一旦距離を取る。
「この剣は素晴らしいですね。あれだけ切り結んでも、刃こぼれ一つしていません」
「当たり前だ。それは我の爪から作り上げた爪剣だからな!」
ガイラさん、そんな事をドヤ顔で説明してもフィルデが困惑するんじゃないかなあ。
「それなら納得です。流石はドラゴンですね。あなたと戦えるのが夢のようです」
「ほほう、我の正体を見破るとは油断のならない奴だな。我を楽しませたら、褒美にその剣をやろう!」
「これは本気で頑張らないといけませんね!」
なんだか普通にバトル物になってるのですけど。
今更だけど、俺はスローライフ物がやりたいのだよ。
バトル物はご遠慮したい。
「クラタん! あたしも戦いたいにゃ!!」
だから、スローライフがやりたいんだってば……。




