31 あなた大馬鹿ですか!?
「もう一度問う。何故、お主がエーシャから父と呼ばれているのだ?」
ドラゴンさん、かなりイライラしているな……。
彼女の反応からすると『父親』は、とても大切な存在なのだろう。
まったく、エーシャも紛らわしい事をしてくれたものだ。
「信じてくれるかは分からないが、それは誤解で──」
「適当な事をぬかすと消すぞ」
おお怖い。いきなり消すとか言ってくるのかよ。
せめて、ブチ転がすとかにしてくれ。
問答無用じゃないだけ、温情があるのかもしれないが。
埒が明かなさそうなので、原因を作った本人に丸投げしよう。
「エーシャが勝手に呼んでるのだから、お前が説明してくれ」
もう最初から本人に説明させれてれば良かったんだよな。
「分かりました。姉さん、彼はお父さんであって、お義父さんなのです。紛らわしいから『おとうさん』と呼ぶ事にしたのです。なので、父ではありませんよ」
「エーシャよ、お前の言っている事がまったく分からないのだが……」
奇遇だな。俺もまったく意味が分からない。
「姉さん、常日頃からもっと理解力を高めなければ駄目ですよ」
エーシャも無茶苦茶だな。
ドラゴンさんの表情が死んでるぞ。
「クラタんはクラタんにゃ!」
「私はソウ君って呼んでるけどね」
そこの二人は、ややこしくなるから黙っておこうな。
それはそうと、先程からずっと気になっている事があるのだ。
流石に誰も触れてくれないので、ここで切り出すしかない。
「あのう、ちょっとお尋ねしても良いかな?」
「うむ、我に質問か?」
「質問というか……なんで、そこにナマクラ君達が縛られているのかな?」
俺達の脇でナマクラ君達が縛られて転がされているのだ。
「んー! んーーー!! んんーーーーー!!」
当のナマクラ君は何かを訴えているのだが、猿ぐつわをさせられているので、何を言ってるのか分からない。
見かねたエーシャが猿ぐつわを外してやった。
「俺はナマクラじゃない! ナーマ・クラーだ!!」
そんなの大して変わらないじゃないかよ。
というか、それ本名なのか……。
「俺にこんな事をして、ただで済むと思ってるのか!? 俺の父上は南地区の領主だぞ!!」
なんだか急に小物臭い事を言い始めたな。
ナマクラ君の他には、ナイスバディの性職者……じゃなくて、聖職者の女と顔に傷のある大男が縛られて座っている。
二人とも、何故か全てをあきらめた表情をしているのだが、一体何があったのだろうか。
「おい! 早く縄を解けよ!!」
「少し黙っていろ、小僧」
「……ひぃっ!」
ドラゴンさんが凄むとナマクラ君が真っ青になって黙り込んでしまった。
若い子をそうやって脅すのは、おじさん感心しないぞ。
「それで、何故彼らが縛られてるんだ? ミユは何か知っているか?」
「アタシは分かんないにゃ。なので、聞くだけ無駄にゃ!」
ミユさんや、そんな堂々と開き直らないでくれないかな。
まあ、聞いた俺が間違いなのだろうけど。
「ルネイアナはどうだ?」
「私もよく分からないんだよね~。ごめんね?」
益々謎が深まるな。
エーシャは……聞くだけ無駄だろう。
「ちょっと、おとうさん! 私をスルーしないでくださいよう!」
うわ、この子面倒くさいなー。
一応聞いてやるか。
「悪い。それで、エーシャは何か知っているのか?」
「彼らは、おとうさんを殺そうとした輩ですよ」
なんですと。
そういえば、ミユ達を狙ってナイフが投げられたんだよな。
即座に叩き落としたが、そのうちの一本が俺の腕を腕をかすめた。
ナイフには猛毒が塗り込まれていて、俺は結構マズい状況になっていたはずだ。
思い出したら急に腹が立ってきたな。
ナイフがミユに当たっていたら、どうするんだよ。
思わずナマクラ君を睨んでしまった。
「や、やったのは俺じゃない! 信じてくれ!!」
ナマクラ君は否定する。
となると、残り二人か?
「私もやってない! 神に誓ってやってないから!! 教会を破門されてるけど信じて!!」
教会を破門って、何をやったんだこの聖職者は。
それで、顔に傷のある大男の方は?
「俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない────」
そんな頭を抱えてまで否定しなくてもいいだろう。
俺が精神的に追い詰める悪人みたいじゃないか。
「……そういえば、ナマクラ君の仲間ってもう一人いなかったか?」
彼らがマッドゴーレムを戦っているのを見た時は、四人パーティーだった気がするのだが……。
「お主の気のせいだろう」
ドラゴンさんは俺の気のせいだと仰る。
確か、もう一人いた気がするんだよなあ。
「ナマクラ君。君達って、もう一人いたよな?」
「…………」
彼は黙り込んで俺と目も合わせてくれない。
というか、そこで睨みを利かせないでくれないかな。ドラゴンさんよう。
仕方ないので、残る二人にも確認してみたのだが……。
「し、知りません! 私は何も見てないし、何も聞いてません! だから命だけはお助けください!!」
聖職者の女が泣きながら漏らしてしまった。とても気まずい。
そして、大男の方はというと……。
「俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない──」
何かいけない薬でもキメてるのだろうか。
ずっとブツブツ言っていて埒が明かない。どうすんだよ、これ。
「じゃあ、結局誰が俺達を狙ったんだ?」
縛られた三人は、あからさまに俺から目を逸らした。
やっぱり、もう一人いた気がするのだが……。
「お主、いい歳の男のくせして細かい事にこだわり過ぎだぞ」
ドラゴンさん、真顔でそんな事を言わないでくれないかな。
「クラタん、気にしないにゃ! アタシも気にしないにゃ!」
ミユさんや、君はもう少し気にしような。
「ほらあ、ソウ君も助かったんだし、これからの事を考えようよ~」
「そうですよ、おとうさん。姉さんに聞きたい事とか沢山あるでしょう?」
ルネイアナとエーシャの言う事は一理ある。
まあ、深い訳がありそうだし、これ以上は触れないでおくか。
「じゃあ、次の質問をいいかな?」
「うむ、知識の塊である我が、お主の質問になんでも答えてやろう」
なんだか、いつの間にか質問コーナーみたいになってるが、それも気にしないでおこう。
「そもそもだが、このダンジョンってなんだ?」
「おお、いきなり核心を突いてくるとは、侮れないやつだな!」
「はあ、そうですか……」
「流石はおとうさん! さすおとです!」
だから、その略し方はやめなさいって。
「このダンジョンだが、我がエーシャに会うために北の大陸から地下を掘ってここまで来たのだ!!」
……こいつ馬鹿かな。
北の大陸から俺達が暮らす新大陸まで、船旅でも3ヶ月は掛かると聞く距離だぞ。
それを地下トンネルを掘りながら来たって?
頭がおかしいだろう。いや、ドラゴンの価値観からすると、なんでもない事なのかもしれないが……。
「姉さん、馬鹿じゃないですか?」
妹のエーシャから見ても馬鹿だったらしい。
「なんだとう!? 我は飛べないのだぞ! だったら、どうやって新大陸まで行けばいいのだ!? 船旅だって酔って無理なのだぞ!?」
「転移魔方陣や、転移の鏡があるじゃないですか」
「そうは言っても、転移魔方陣はとんでもなく魔力を使うし、転移の鏡は精霊とケンカして使わせてもらえなくなったし……」
前言撤回。このドラゴンさんはアホの子だ。
俺の直感がそう伝える。
エーシャも呆れかえってるし。
「ええっと、事情はなんとなく分かったのだが、地下を掘っただけで立派なダンジョンになるのか? ルネイアナは、地面に大穴が空いていたと言ってたよな?」
「ええ、最初の報告では地下に繋がるただの空洞だったわ。私も直接確認しましたし」
ルネイアナが真面目なギルド職員の顔で答える。
こうして見ると、有能な受付け嬢なんだけどなあ……。
「ふふん。何を隠そう、今回は我とダンジョン精霊との共同作業だったのだ!」
そんなドヤ顔で答えられてもサッパリ分からん。
ここは困った時のエーシャ頼みだ。
「エーシャ、どういう事だ?」
「身内にダンジョンの精霊がいまして、彼女の力を借りたみたいですね。途中で給水所や自動販売機もありましたし、確かに納得です」
そんな凄い力を持つ精霊がいるのか……。
精霊って、とんでもないのだな。
「なんか凄いにゃ! じゃあ、ダンジョンで冒険し放題だにゃ!」
ミユさんや、そんなウキウキした顔で喜ばないように。
「そうだろう、そうだろう。我に感謝するのだぞ。今のところ、我の眷属である土属性の魔物しかいないが、そのうち北の大陸から増えすぎた魔物がこのダンジョンに押し寄せてくるだろう」
なんですと。
「ちょっと待ってくれ。今、増えすぎた魔物がダンジョンに押し寄せると言わなかったか?」
「ああ、言ったぞ。なんと言っても、北の大陸からの直通ダンジョンだからな。近いうちに新大陸にも魔物が住み着くかもしれん」
こいつ、なんて事をしてくれやがったんだ。
生態系の破壊ってレベルじゃないぞ!?
俺の隣でルネイアナも真っ青な顔で震えている。
「姉さん、あなた大馬鹿ですか!? 自分が何をしたのか分かってるのですか!?」
流石のエーシャもこれにはブチ切れた。
ドラゴンさんを容赦なくボコボコに叩き始めた。
これにはさっきとは違う意味で、ルネイアナが真っ青な顔になっている。
「痛い、痛い、本気で叩くな! 魔物が来ると言っても数年は掛かるだろうし、なんと言っても、徒歩で北の大陸と行き来できるのだぞ! 魔物に襲われる船旅より安全だろう!」
いや、ダンジョンにも魔物は出るよな。
「徒歩で大陸間の行き来なんて、年単位で時間が掛かるじゃないですか! やっぱり馬鹿ですよ!!」
「案ずるな、ちゃんと転移部屋も用意してある。例え普通の人間でも、きちんと準備すれば数日で行けるはずだ」
なんですと。
今まで危険な船旅か、とんでもない費用が掛かる飛行艇でしか行くことができなかった北の大陸に数日で行ける事になるとは。
ダンジョン内に魔物が住み着いている事も考慮したとしても、かなり魅力的な話ではないだろうか。
それこそ、冒険者の仕事が増えるぞ。
「ソウ君、今の話って……」
ルネイアナも同じ事を考えていたらしく、緊張の面持ちだ。
これから、とんでもない事になりそうである。
「うにゃー! ダンジョンで魔物狩り放題だにゃー! アタシも美味しくお肉を焼きたいにゃー!」
ミユさんや、嬉しいのは分かるが、もう少し落ち着こうな。
それはそうと、今の話の一部始終を聞いていたナマクラ君達はどうするんだ?
かなりの機密情報を聞かれてしまった感じもするのだが……。
「そこな少年よ、お前の父親は領主とか言っていたな? すぐにこの話を伝えて対処させろ。さもなくば、新大陸は魔物で埋め尽くされるぞ」
「…………!?」
わざと聞かせていたって事か。
これなら、地区間同士でのせこい利権争いをやっている場合では無くなるだろう。
取り敢えず、ドラゴンの確認という目的は達成したので、俺達も一度中央の町に帰るとしよう。
「あのう……私達はどうすればいいのでしょうか?」
帰ろうと準備していたら、ナマクラ君の仲間の聖職者の女が不安そうな表情で尋ねてきた。
ドラゴンさんを見ると、好きにさせろって感じで頷いている。
「あんた達も、ナマクラ君と一緒に南地区に帰っていいみたいだぞ」
女は顔に傷のある大男と困ったように顔を見合わせている。
何か問題でもあるのだろうか。
「私達、もう南地区に帰れません。助けてもらえないでしょうか……」
泣きながら懇願されてしまった。
くそう、女の涙とは卑怯だぞ。




