13 剣なんて使えないにゃ!
「へ? じゃないよ。今日から平常運転だ。早く支度しろよ」
「あ……うん! 急ぐにゃ!」
呆けていたミユが慌ててかじっていたパンを口の中に押し込む。
急かしてしまって、少し悪かったと思うがそろそろ真面目に働かないといけない。
スローライフを送るにも、まずは生活の地盤固めが必要であるのだ。
「ソウジー、出掛けるなら買い物してきてー!」
リグミナが何やらメモ書きを手渡してきた。
俺は使いパシリかよ。自分で買いに行けっての。
「私だって、色々やる事の準備があるのよ!」
そう言って、二階の部屋に引っ込んでしまった。
まったく、やる事ってなんだよ……。
呆れつつもメモ書きを見ると、薬草の類や何かの道具やら色々書かれている。
よく分からんが、雑貨屋みたいな店なら揃うのだろうか。
仕方ない。リグミナも遊ぶ訳じゃないみたいだから、買ってきてやろう。
溜息を吐いていると、マナシエが俺の服の裾を遠慮がちに引っ張っている。
「どうした?」
「あ、あの、わたしは家事を頑張ろうと思います!」
「それは助かるな。調理も任せていいか? 食材は後で揃えておくから、食事はあり合わせの物で頼むよ。今日の昼は外で食べる予定だから、俺とミユの分は気にしないでくれ」
「はい! 行ってらっしゃい!」
マナシエも頑張ってくれるんだ。俺も一家の支柱として頑張らないとな。
気を引き締め、支度を終えたミユを伴って家を出た。
セービルの街へ向かう途中、スライムが出てきたので適当に狩る。
これも日課になっていくのだろう。
ショートソードを振っていると、前の世界の事を思い出した。
義務教育の間、軍事教練の時間があったので、剣術も習ってたんだよなー。
とは言っても、本当に少しかじった程度なので真面目に剣術をやっていた奴の足元にも及ばないが、こうしてスライムを切り裂いていると、少しだけ昔の勘が戻ってきた気がする。
「やっぱり、クラタんはすごいにゃ!」
「ミユも見てばかりじゃなくて、少しは討伐してみろよ」
「それはいいにゃ。アタシは薬草採取がお似合いなのにゃ……」
そう言いながら、ミユは寂しそうに笑った。
そんな顔されたら気になって仕方がないじゃないかよ。
適度にスライムを狩り終え、街に到着。
冒険者ギルドの建物の中に入るなり、周囲から視線を浴びる。
すっかり失念していた。ミユと一緒だったから色々と勘違いされているらしい。
同伴出勤とでも思われているのだろうか。
またパパ活とか言われるのは、正直勘弁してほしいのだが。
「おい、あいつって公衆浴場で乳首を摘まみ合ってた……」
「流石は奴隷商と乳首を責め合ってた強者だぜ。やる事のスケールが違う」
「ロリコンの上に同性もOKとか罪深いわね……」
「気をつけろ、あれは俺達の乳首を狙っている目だぞ!」
「乳首ねぶりオッサンだ!!」
「僕と一緒にサウナ入った時は逃げたくせに……!」
……何やら俺に向けられる視線がおかしい気がするのだが。
まあ、気にしないでおくか。
「クラタん、すっかり人気者にゃ!」
こいつはこいつで、頭の中がお花畑で心配になってくるな。
それはさておき、まずは魔石の換金だ。
「アイニ、今朝も途中でスライム狩ってきたので換金を頼むよ」
「……承りました」
魔石を受け取るアイニがジト目で俺を睨む。
「なんか、機嫌悪くないか?」
「……別に悪くないです」
「そんな訳無いだろう。朝食時に邪魔扱いしたからか? 悪かったよ。また食べに来ていいからさ」
「そういう事じゃないです。……ミユさんと随分仲がよろしいようで」
この子は何を言ってるんだろうな。
まさか、妬いてるとか!?
「あのさあ、ミユは娘と言ってもおかしくない年齢だぞ。そんな訳あるかよ」
「アタシはクラタんの事大好きにゃ?」
「やっぱりそうなのですね。クラタさん」
「なんでそうなるんだよ。ミユも誤解を招くような事は口走らないようにな」
「はーいにゃ」
「ほら、ミユはきっと俺の事を父親だと思って、慕ってくれてるだけなんだよ」
「違──」
そのままミユの口を塞ぐ。
これ以上発言されたらとんでもない事になりそうだ。
「そうですね。クラタさんみたいな人が父だったらいいなと思います……」
それにしても、アイニも色々とこじらせてそうな子だな。
父親が領主と言っていたし、気苦労も多いのかもしれない。
まあ、俺が具体的にしてやれる事は無いのだが。
そんな感じで換金を終え、依頼掲示板をミユと一緒に見てみる。
この街は平和なのか、それ程危険なクエストは無さそうだ。
せいぜいが害獣退治が関の山だろうか。
「アタシは薬草採取にするにゃ」
「いや、今日は俺と一緒にスライム狩りな」
「アタシがやると魔石も出ないし、無理にゃ」
「後で薬草採取もやるから、スライム狩りに付き合ってくれよ」
「クラタんがそう言うなら……」
スライムに襲われて苦手意識があるのだろう。少しばかり申し訳なくなるが、確認しておきたい事があるのだ。
◆◆◆
さて、街の外へやってきた。
この辺りならスライムも沢山いるだろう。
ほら、早速おいでなすった。俺達の気配を察知したのか、数匹が現れた。
「スライムにゃ! クラタんやっつけるにゃ!」
「ここはレディーファーストだ。ミユからやってみてくれ」
ショートソードを手渡すと、泣きそうな顔で訴えてくる。
「アタシ、剣なんて使えないにゃ!」
「まあ、そう言わずに取り敢えず斬ってみてくれ」
「クラタんがオーガにゃ!!」
オーガって、俺の世界で言う鬼の事だろうか。
って、そんな事はどうでもいい。
ミユがめちゃくちゃにショートソードを振るうが、まったくスライムにかすりもしない。
それもそうだ。ミユは目をつぶったまま振り回してるからな。
最初に出会った時から思っていたのだが、身体能力は高そうなのに、それを使いこなしていない気がしたのだ。
木の棒でスライムを叩き潰した時だって、何度も外していたのは、ちゃんと相手を見据えてないからだ。
「目を閉じないで、ちゃんと相手を見て攻撃しろ!」
「そ、そんな事言ったって怖いにゃー!」
「大丈夫だ! 危なくなったら俺が助ける!!」
「わ、分かったにゃ!!」
助けるって言ったって、俺のショートソードはミユが持っているんだけどな。
素手でスライムを倒せるのだろうか。
まあ、その時はその時だ。
「怖いけど、クラタんが助けてくれるから頑張るにゃ……!」
突然ミユの動きが変わった。
相変わらずめちゃくちゃにショートソードを振り回しているが、スライムに取り囲まれないように位置取りをしている。
そして、突き刺すように一匹を仕留めた。
「クラタん、やったにゃ!」
「まだ他にもいるぞ、気を抜くな!」
「分かったにゃ!」
そうして、相変わらずめちゃくちゃな攻撃だが、スライムを全て倒し切ってしまった。
「凄いじゃないか! やればできるじゃないか!」
「えへへ。アタシはやればできる子にゃ……」
それに魔石もいくつか転がっている。
俺の場合はチート能力なので反則だが、これは紛れもなくミユが倒した結果だ。
「魔石があるにゃ……」
「頑張れば魔石も出るじゃないか」
「嬉しいにゃ!」
ミユが喜んで飛び跳ねていると、急に体が輝き始めた。
一体何ごとだ!?
「あ……魂が向上したにゃ」
魂が向上?
レベルアップの事だろうか。
この世界は自分でステータス画面みたいなのも見られないし、どんな風に能力が向上したのか分からないのが微妙だな。
「凄いにゃ! クラタんのおかげにゃ!」
「お、おい、抱き着くなって!!」
「嬉しいにゃー!」
いきなり抱き着いてくるミユを押し退けようとするが、結構力強い。
殴り飛ばさないと駄目なぐらいだ。
無論そんな事はできないし、しないが。
「あのさ、今の魂の向上ってやつで能力が上がったんじゃないか?」
「へ? そうかにゃ?」
「ほら、あそこに新手のスライムがいるぞ。試してみろよ」
「分かったにゃ。えっと、やっぱり剣は苦手だから返すにゃ」
ミユは俺にショートソードを放り投げると、そのまま新手のスライムに駆け出して行った。
まったく、忙しないやつだな。
それにしても、すっかり怯えも無くなってるようで何よりだ。
って、危ない!
スライムが溶解液を吐き出した。
しかし、ミユは身軽さを活かしてかわすと、そのまま殴りつける。
打撃耐性があるのか、スライムは跳ね飛ばされるだけだ。
そんな感じで、ミユがスライムを上空に打ち上げたりして、文字通りに手玉に取っている。
「クラタん、これ面白いにゃー!」
段々スライムが可哀想になってきたな。
そんな事を考えていると、ミユがスライムをこちらに蹴り飛ばしてきた。
「クラタん、パスにゃ!」
「いきなり何すんだよ!!」
結構な勢いで飛んできたスライムを一刀両断にした。
俺が仕留めると、ミユの時より上質な魔石が残る。
「やっぱりクラタんがやっつけると、いい魔石が出るにゃ」
「そうだな」
チート能力なので、ミユには申し訳ない。
だが、背に腹は代えられぬ。これも生活費になるのだ。
「だったら、アタシが今みたいにスライムをクラタんの方に向けるから、一緒に討伐するにゃ!」
……ちょっと驚いた。
実は今ミユが言った事は、俺が考えていた事でもあったのだ。
ミユを鍛えて一緒に討伐すれば、効率が上がると思っていた。
それをまさか向こうから提案してくるとは。
「さっきまで怯えていたくせに、調子のいいやつだな」
「えへへ。クラタんのおかげにゃ」
すっかり調子に乗ったミユに付き合わされ、この後めちゃくちゃスライムを狩った。
「アタシの威力三千倍パンチも様になってきたにゃ!」
その三千倍はどこから出てきたんですかね、ミユさんや。
それはそうと、レベリングっていうのか?
ミユが止めを刺さなくても、ミユのレベルはどんどん上がっていった。
その一方、俺は全く何も変わらなった。俺が異世界人だからなのだろうか。
「クラタん、気を落とさないでにゃ。きっと、クラタんは元から魂の価値が高いにゃ」
「あ、ああそうだな……」
レベルの事を魂の価値で表すのって、どうかなあと思うのだが。
もしかしたら、他の異世界でも同じような表現がありそうなので、あまり悪くは言えないな。
「それにしても、凄い魔石の数になったな」
「もしかしなくても、アタシ達大金持ちにゃ!?」
ぶっちゃけ、家のローンとマナシエの身請けの残り金額を払えてしまうかもしれない。
もっとも、周囲のスライムは狩り尽くしてしまった感じでもあるから、次からはこう簡単には稼げないだろう。
まあ、明日からは地道に薬草採集に精を出しますか。




