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100 おまけ 温泉へ行こう・21

温泉回最終回です

 温泉湯めぐりも堪能した事だし、一旦宿に戻る事にした。

 泣いても笑っても今夜が旅行最後の夜だ。存分に温泉街の祭を堪能するとしよう。


「おとうさん、誰かを探してるのですか?」


 宿に戻ろうとしたら、エーシャがくっついてきた。


「ん? いや……その……」


 思わず言い淀んでしまうと、同じくくっついてきたルネイアナがニヤリと笑った。


「ははーん。ミユちゃんを探してるのね~」


 地味に鋭いやつめ。

 ミユとは夜祭を一緒に回ると約束をしていたのだ。

 あれだけ楽しみにしていたのだから、約束はすっぽかせない。


「そういう事でしたなら、私達はおとうさんとご一緒しましょう」


「わあ! さんせ~い!!」


 二人の娘さんが、楽しそうにキャッキャと手を合わせている。

 普段なら微笑ましい光景なのだが……。


「ちょっと待てい。こういう時は、気を利かせて立ち去るのがお約束だろうよ」


「うわあ、私達が邪魔ですって。ひどくありません?」


「ソウ君ってば、私達の事が嫌いなのね~」


「そこまでは言ってないだろうが……」


「冗談ですよ。さあ、私達は邪魔でしょうから、素直に退場しましょう」


「そうよね~。ソウ君は私達の事を弄ぶだけ弄んで捨てるのね~」


 本気で洒落にならない事を言わないでほしい。

 流石に申し訳なく思うので、旅行から帰ったら何かフォローしておくか。


 それはさておき、ミユはどこに行った?

 探知スキルを駆使してミユの気配を探す。

 宿の部屋に戻っているみたいだが、一緒にいるのはガイラさんか?

 鉢合わせをしたら絡まれるかもしれないけど、ミユを迎えに行くとしよう。




「ミユ、いるか? 入ってもいいか?」


 部屋の扉を開けて、仕切りのふすま越しに呼び掛けると、返事があった。

 襖を引いて部屋に入ると、鏡台の前にミユが座っている。可愛らしい浴衣姿のミユの髪をガイラさんが、結ってアップにしていたところであった。


「クラタん、ちょっと待っててにゃ。ガイラに髪をやってもらってるにゃ」


「ああ、それはいいのだが……」


 思わずガイラさんの手を見つめてしまう。

 ミユの髪を結う手つきは慣れたものだ。そして、その横顔は普段からは想像もつかないぐらいに穏やかな表情である。


「そんなに我を見つめてどうした? ここでミユとの約束を反故にして、我に乗り換えるなどとふざけた事をぬかしたら、本気で怒るぞ?」


 ギロリと睨むガイラさんの目は割と本気だ。

 てっきり、ミユより自分を選べと迫られるかと思ったが、ガイラさんは大人であったな。


「いや、ミユと約束をしていたんだ。そんな不義理な事はしないよ。それよりも、随分と手慣れてるみたいだが」


「これか? 我には妹が何人もいるからな。面倒を見てるうちに嫌でも慣れるものだ。エーシャが幼い頃も我がやっていたのだぞ」


 意外や意外。ガイラさんは面倒見の良いお姉さんでもあったらしい。


「ガイラって凄いにゃ! 浴衣の着付けまでやってくれたにゃ!!」


 なんとまあ、優しいお姉ちゃんの上に有能キャラだったとは!


「ソウジよ、我に対して何か失礼な事を考えてなかったか?」


「滅相もない。頼れる素敵な女性だと思っただけだよ」


「くっ、そんな口ぶりまで我の父に似てるなんて卑怯だぞ。どうせ、口から出任せだろう」


「こういう事で、俺は嘘は言わないよ」


「ええい! これ以上無駄口を叩くな!! ミユよ、さっさとソウジと祭を楽しんでこい!!」


「ガイラ……ありがとにゃ。そして、ごめんにゃ」


「……ああ、はいはい。ほれ、二人とも行った行った!!」


 一瞬言葉に詰まったガイラさんに、俺達は強引に部屋から追い出されてしまった。




「ガイラさんに気を使われてしまったな」


「うにゃあ、本当はガイラもクラタんと一緒が良かったはずにゃ」


 ガイラさんから好意を持たれているのは自覚している。

 だけど、彼女はプライドの高い人だ。同情なんてして欲しくないのだろう。

 せっかくの厚意を無駄にしないように、今夜はミユと楽しもう。


 そう思いながら宿の廊下を歩き出した途端、俺達の前に立ち塞がる人物がいた。



「クラタ様、今夜は私と一緒に祭を楽しみませんか?」


 なんと宿の美人女将である。

 まさか、仕事を放り出す気なのか!?


「クラタん!! 後ろにゃ!!」


 ミユの声に振り返ると、背後にも人影が。


「ソウジ様、今夜は私とご一緒してください!!」


 なんてこった。

 背後にはフィルデが迫ってきている。


「クラタん、前門の狐に後門の狼ってやつにゃ!!」


 ミユさんや、本来は前門の虎だからな。

 それはそうと、後門と肛門を間違えたら大変な事になりそうだ。


 ……って、下らない事を考えている場合ではない。


「フィルデは大人しく引き下がるにゃ!! さっきの悪人退治の人数で、アタシが勝ったにゃ!!」


「はい? そんな勝負してましたっけ? 全然心当たりがありませんね」


「う、うにゃあ!?」


 あの生真面目なフィルデが約束を破るだとう!?

 ミユも驚いて唖然としている。


「目的のためには、私は悪人にだってなります!! さあ、ソウジ様を譲ってください!!」


 なんという覚悟だ……!!

 悪人にしては、みみっちいけど。


「あらあら、クラタ様は私とご一緒するのですよ。お客様だろうが、胸が大きいだけの娘は、お呼びではありません」


 こっちはこっちで、職務放棄かよ。

 それにしても、二人の様子がどこかおかしい。

 正気では無さそうだ。何かに操られているような気もする。


 まさかとは思うが、二人に一服盛ったやつがいるのか?

 まあ、犯人は大体察せられるが。


「クラタん……」


 ミユが不安そうに俺を見上げてくる。

 大切な子に、こんな表情させてはいけないな。


「二人とも、ちょっと聞いて欲しい」


「どうされました? クラタ様」


「ソウジ様は、私を選んでくれるのですよね」


 二人の圧が凄まじい。少しでも気を抜くと色んな意味で食われそうだ。

 だが、ここで引き下がる訳にはいかないのである。


「俺は二人の犬歯が好きだ。そこで、犬歯が素敵な方と一緒に祭を楽しもうと思うのだが」


「ほほう。それなら勝負は最初から決まっていますね。そこの小娘の犬歯より、私の方がまさっていますもの」


「はあ? 何を言ってるのですか? 私の犬歯の方が若々しくて美しいですよ」


「なんですって!?」


「本当の事を言ったまでです」


「ちょっと、クラタ様! 私とこの子と、どちらが好みなのですか!?」


「ソウジ様、私ですよね!?」


 なんだか、雲行きがヤバくなってきた気がする……。


 次の一手を考えていると、ナイスタイミングで仲居のリーディが通り掛かった。

 彼女とはエーシャと共に宿の手伝いで一緒に働いた関係なので、知らない仲ではない。


「丁度良かった! リーディ、女将とフィルデのどちらの犬歯が素敵なのかを決めてもらえないかな?」


「え? えええええっ!? 意味が分からないのですけど!?」


 いきなりこんな事を頼まれたら、誰だって困惑するだろう。

 だが、俺達のために頑張ってくれ。


「あら、リーディさん。上司の私の犬歯の方が素敵ですよね? そうですよね?」


「部下にパワハラなんて卑怯です!! ここは客を優先するのが従業員として当たり前の行為ですよね!?」


 可哀想に。リーディが二人から詰められて涙目になってる。

 頑張れ、君はもっと強くなれるぞ。



「ミユ、行くぞ」


「え?」


 成り行きについていけずに唖然としていたミユを抱きかかえ、一気にその場を駆け抜ける。

 そのまま宿から無事に脱出成功。

 まさか、宿を出るだけでこんなに苦労するとは。


「クラタん……」


 頬を染めて少し困ったような表情のミユが何か訴えかけてくる。


 どうやら、強く抱きしめたままであった。

 そっと地面に降ろしてやるが、なんだか残念そうな顔をしている。

 それはそうと、抱きかかえていたミユから凄くいい香りがしていたので、今更ながら緊張してきた。


「ま、まずは屋台の方へ行って何か食べるか?」


「うん! 行くにゃ!!」


 取り敢えず誤魔化すように誘ってみたが、まだまだ食い気の方が優先のお年頃で助かった。

 まったく、俺もこんな事で緊張するなんて子供かっての。






「ねえねえ、クラタん! あっち行ってみるにゃ!」


「あんまり引っ張らないでくれよ」


「早くしないと無くなっちゃうにゃ!」


「いやいや、無くならないし、逃げないから……」


「時間は有限にゃ!」


「お、おう……」



 ミユに引っ張られながら屋台をあちこち見て回る。

 てっきり大食いでもするかと思ったのだが、どうやら俺と一緒に祭の雰囲気を味わうだけで満足してくれているらしい。

 それはいいのだが、俺の腕に抱きついたままなので、歩きにくい。

 密着しながら、俺の顔を見上げるように見つめてくるので、これまた心臓に悪い。


「クラタん……アタシと一緒で楽しくない?」


「いきなりどうした? 俺は楽しいぞ」


「クラタん、ここに来てから色んな子と仲良くしてたにゃ。アタシより、他の子の方がいいのかなって……」


 ミユの耳がペタンと伏せてしまっている。

 俗に言うションボリ状態なのだろうか。


「そんな事は無いぞ。俺にとっての一番はミユだから」


「ホントに?」


 少し耳が持ち上がった。


「ああ本当だ。嘘は言わない」


「ホントにホント?」


 耳が忙しなくピコピコ動いてる。

 耳は口程に物を言うって……それは目か。

 返事の代わりに頭を優しく撫でてやる。


「うにゃあ……」


 気持ちよさそうに目を細めるミユが可愛い。


「じゃあじゃあ、ギュッと抱きしめてにゃ」


「ここで……か?」


 流石に人目が多すぎる。

 ただでさえ、オッサンと若い娘さんの二人連れだ。

 怪しむような視線を感じるのは一つや二つではない。



「うふふ、おとうさん。最近ではこういうのを『おぢアタック』と言うらしいですよ」


「うおう!? いきなり背後から現れるなよ!!」


 相変わらず気配も無く現れるエーシャが怖い。


「ところで、その『おぢアタック』ってなんだよ?」


「文字通り、いい年して若い女性にアタックする行為ですよ」


「アタックしてるつもりは無いが、傍から見るとそう思われてるのか?」


「恐らくは」


「アタシ、クラタんの事が好きにゃ!!」


「ミユさん……?」


 いきなりの告白にエーシャが目を丸くしている。


「クラタんは優しいにゃ! 怪我したアタシを助けてくれたし、住むところも用意してくれたにゃ! それに一人ぼっちだったアタシに家族も作ってくれたにゃ! クラタんはいつだって、アタシのそばにいてくれたにゃ! クラタんが頭を撫でてくれると幸せな気分になるにゃ!」


 これは羞恥プレイなのだろうか。


 ミユが大声を上げるものだから、周囲の通行人から注目を浴びてしまう。

 その中には、浴衣姿で祭を満喫している例の四人組の冒険者もいた。

 そいつらが物凄く嫉妬深い目で俺を見ている。


「ちょっとミユ、それ以上は……」


 流石に居た堪れなくなってきた。


「クラタんは、アタシの初めての人にゃ!!」


 唐突な爆弾発言に周囲がざわつく。

 一応断っておくが、ミユの言う初めてはキスの事だと思うぞ。

 エーシャは分かっているのだろう。ニヤニヤしながら俺の肩を叩いてくる。



「いやあ~まったくお熱いですね。これでは、私が付け入る隙が無いじゃないですか~」


「いや、元からお前の付け入る隙なんて無いぞ……」


「おとうさん、ひどいです!! それは冗談として」


 冗談なのかよ。


「他の皆さんには上手く伝えておきましたので、今夜はミユさんと二人きりで楽しんでくださいね」


「その気遣いは嬉しいけどさ、女将とフィルデをけしかけてきたのはエーシャだろ?」


「何故分かったのですか!?」


 驚愕の表情だが、こいつは本気で言っているのだろうか。


「薬か何かで操ってたんだろ? 何がしたかったんだよ」


「ほら、愛は障害があればある程に燃え上がると言うじゃないですか」


「……お前、後で二人に謝っておけよ」


「おとうさん、一緒に謝ってくださいよう~」


「断る」


「ひどい! この人でなし!!」


 何故か逆ギレされる俺。

 付き合いきれんので、その場を立ち去るも背後から罵声を浴びせられる。

 納得いかんのだが。


 周囲から奇異の目で見られるのを避けようと歩いていたら、自然と人気の無い場所に来てしまった。

 そこは少し開けていて、温泉街を眼下に見られる高台だ。

 人混みの熱気に少々あてられていたので、吹き抜ける夜風が心地良い。



「クラタん……」


 どうやら、俺は自然とミユの手を握っていたようだ。

 ミユは不安と期待等が入り混じった瞳で俺を見つめてきた。


「ミユ」


 そのまま優しく抱き寄せる。

 ミユの髪から、ふわりと漂う良い香りが鼻孔をくすぐった。

 思わず頭に顔を埋めて深呼吸したくなるが、自重しておこう。


「クラタん……」


 そんな潤んだ瞳で見つめてくるのは卑怯だぞ。

 そっとミユの前髪をかき上げて額にキスをする。


「うにゃあ……」


 何やらご不満の様子。

 そして、唇にしてと言わんばかりに目を閉じている。

 いくら人目が無いにしても、俺だって緊張はするのだよ。


 覚悟を決めてミユと唇を重ねようとしたその時だった。

 眩い光と共に大きな音が周囲に鳴り響いた。


「にゃにゃあぁ!?」


「大丈夫だ。あれは花火だよ」


 大きな音と光にパニックになっているミユを抱きしめて落ち着かせる。

 猫は大きな音が苦手なんだよな。

 ミユはすぐに落ち着きを取り戻し、そのまま花火に見惚れてしまった様子。


 まったくタイミングが良いのやら、悪いのやら。

 こうなると続きは無理だな。俺達は祭のクライマックスの花火を特等席で見続けたのであった。






 ──翌朝。

 楽しかった旅行も終わりを告げ、俺達は帰路についていた。


 昨晩の花火の後、ミユとどう過ごしたかは、ご想像にお任せしよう。

 一方のエーシャだが、一服盛った事により、女将とフィルデから相当に絞られたようだ。

 ついでに巻き込まれて迷惑を被ったリーディにも叱られたそうな。

 女将はプンスカに怒り、エーシャだけ宿を出禁になった。

 無論、俺に泣きついてきたが、俺は涙を飲んでエーシャの出禁を甘んじて受け入れたのである。


「何が甘んじて受け入れたですか!! 昨晩はミユさんとお楽しみになられたくせに!! 私なんて、親子揃って宿を出禁とか恥ずかしくて死にそうですよ!!」


「ちょ、おま!! 道の往来で何を言いやがるんだ!?」


「そ、そうにゃ! 昨日の夜は、クラタんとアタシは何もしてなかったにゃ!! 本当にゃ!!」


 ミユさんや、バレバレの嘘をつくのはやめような。

 他のお嬢さん達からの複雑な視線を浴びるのがつらい……。


 ギルデオとヴァネリーの新婚カップルが笑顔でサムズアップしてきやがるし、トルゲはともかく、アルジットが血走った目で乳首を摘まむポーズをしてくる。

 あれの意味する事はなんだろうな。考えたくも無い。


 こうして、俺達は日常へ戻るのであった。

初夏から始めた温泉回も気づけば年末……。

仕事がバタバタしておりますので、こちらの季節ネタはお休みして一旦完結です。

余裕ができたら、伏線回収とかやりたいです。

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