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10 私だって、みんなにチヤホヤされたいんだから!

「アイニのお父さんが偉い人だったにゃ!?」


 ミユも初耳だったらしく、思わず飛び退いている。

 マナシエも驚いてしまったのか、リグミナの背中に隠れてしまった。


「こういう反応をされるのが嫌だったので、あまり言いたくは無かったのですけど……」


 まあ、それは仕方がない。

 付近一帯の領主がどれだけの権力を持っているのかよく分からないが、取り敢えずは有力者なのだろう。

 そんな事を考えていると、リグミナが小声で話し掛けてきた。


「ねえ、ソウジ。この子と仲良くしておいた方がいいんじゃない? 色々と便宜をはかってもらえるわよ?」


 こいつ、とんでもない事を言いやがるな。


「お前なー、そういう目で付き合う相手を選んでるとロクな事にならないぞ。今に天罰が下るからな」


「わ、私にそれを言うの!? ……実際、何度か心当たりはあるけど」


 何度かあるのかよ。

 このポンコツ女神はさておき。


「アイニ、君は父上の名代として、奴隷商との契約の場に立ち会うと言うのか?」


「……はい。それが私に課せられた使命ですから。それに、本来は奴隷の売買は認められていないのですから、特例として私が立ち会います!」


 うーむ。重い話かつ真面目過ぎる。

 リグミナみたいに適当にやってればいいのにと思うのは、無責任か。


「分かった。だが、奴隷の売買じゃないからな。あくまでも、マナシエを引き取る手続きをするだけだ」


「物は言いようねー」


「リグミナは黙ってろ」


「あいた! 私の頭をポンポン叩かないでよね!? バカになったらどうするのよ!!」


 元からバカじゃないのかって言ったら、怒るだろうか。

 今のリグミナの外見が完璧すぎるだけあって、残念度が余計に増している。


「二人ともケンカしないでください……!」


 マナシエに怒られてしまった。

 この子には敵わないな。ここは大人しく従おう。


「あ、すまん。喧嘩なんてしてないからなー」


「そ、そうね。本気で怒ってる訳じゃないからねー」


 そんな俺達を不思議そうにミユが見ている。



「もうクラタんとリグミナとマナシエが普通の家族に見えるにゃ……」


「ミユさん!?」


「おい、なんて事言うんだよ!!」


「そ、そうよ! マナシエちゃんはともかく、ソウジと夫婦なんてどんな冗談よ!?」


「わたしは嫌じゃない……かな」


 マナシエの一言によって、全員黙り込んでしまう。

 そして、無言で頷き合った。

 この子を悲しませたくないのは全員同じ気持ちであろう。



「そ、そうですね。お似合いの家族……だと思います」


 アイニ、なんか無理してない?


「ま、まあそんなのも悪くないな。ははは……」


 俺も無理してるけど。


「わ、私、アットホームな家族とか憧れてたのよねー」


 リグミナは棒読み過ぎるだろ。


「うわあ、クラタん達の顔が引きつってるにゃー」


 誰のせいでこうなってると思ってるんだよ!

 後で尻尾握ってセクハラしてやろうか!?


「みんな仲良しがいいです」


 くそう!

 こんなマナシエの笑顔を見たら怒れなくなってしまうだろうが!

 アイニとリグミナも表情が緩くなっている。

 もしかして、マナシエって目の前のポンコツ女神以上に女神らしいのでは?



「えっと、話を戻して明日の打ち合わせをしておこう。取り敢えず、俺とリグミナは一応夫婦って役だからな」


「すっごく不本意だけど、仕方ないわね。すっごく不本意だけど」


 分かったから、二回も言うな。


「アタシはクラタんの愛人にゃ!」


「ミユさん!?」


 さっきからアイニはミユが口を開く度に驚いてて、大変そうだな。

 君はスルースキルを身につけた方がいいと思うぞ。


「ソウジ、あんたミユちゃんを愛人にって何を考えてるの!?」


「こいつが勝手に言ってるだけだっつの!!」


「ひどいにゃ! クラタんがアタシにあんな事をしておいて……」


「おい、誤解を招くような事を言うんじゃないっての! アイニも軽蔑しきった目で俺を見るなよ!! リグミナはその凶器を仕舞えよ!!」


「えへへへ。クラタんに初めて会った時に回復薬で治療してもらったにゃ~」


 本当にこいつは……!!



「そうだったのですか。流石クラタさんですね。それにしても、よく初対面のミユさんに高価な回復薬をお使いになられましたね」


「まあ、貰い物だったしな。目の前で女の子が困っていたら助けるのが男ってもんだろ」


 いずれはこういう考えも男女差別とか言われるのだろうか。

 考えると悲しくなってくるな。

 アイニとミユが感動してくれてるので、余計にそう思ってしまう。



「ああ、その回復薬は私がソウジに作ってあげた物だからね」


 すかさずリグミナがドヤ顔で胸を張る。

 どうしても手柄を手放したくないのだな。

 それはそうと、何やらミユとアイニの様子がおかしい。

 よく見るとマナシエもだ。


「ん? なあに? みんなどうしたの?」


「い、いえ。リグミナさんは高級回復薬を作れる方なのですか?」


「そうよ? 私の女神……魔法でちょちょいってね」


 今、女神の力って言いそうになってたな。

 流石に自制するだけの理性は残っているのか。


「うわあ! 凄いにゃ! リグミナは聖女様だにゃ!!」


「わたし、聖女さまに会うなんて初めてです……!」


 まさかの聖女扱いかよ。

 あながち間違いじゃないってのが、否定できないよな。

 それにしても、リグミナの顔色が悪いのだが、どうしたんだろう。

 小声で問いかけてみた。


「おい、どうした?」


「あ、あのね。今の私の力では高品質な回復薬は作れないの……」


「どうして、そんな見栄を張ったんだよ……」


「仕方ないじゃない! 私だって、みんなにチヤホヤされたいんだから!」


「そういうセリフは、もっとメジャーな駄目な女神が言うもんだろ」


「ひどい! ソウジだけ活躍するなんて悔しい!!」


 本当に頭が痛くなってきた。

 仕方ない。なんとか適当に誤魔化すとしよう。



「えっとな、実はリグミナは力の大部分を失っているんだ。俺と旅をしながら力を回復していたんだ」


 嘘も方便である。

 力を失っているのは本当の事だし。


「そ、そうなの! 今は力が足りなくて回復薬が作れないんだけどね!」


「そうでしたか……。それで聖女様は、どのように力を回復なさるのですか?」


 アイニさんや、こいつを聖女とか呼ばないようにね。

 リグミナが複雑な顔をしているぞ。


『私は女神なのに、聖女とかあんな小娘と一緒にしないでよね!』


 おーい、心の声が漏れてるぞー。

 というか、聖女にライバル意識持ってるのかよ。


「……こほん。えっと、力を回復するには、バランスの良い食事としっかり休養を取る事でしょうか」


「だったら、ここで美味しいものを食べて、ゆっくり暮らすのがいいにゃ!」


「ま、まあ、そうなるわね?」


 リグミナの返事を聞いて、マナシエが一緒にここで暮らせると嬉しそうにしている。

 図らずとも、俺のスローライフ願望がリグミナによって肯定されてしまった。

 とは言っても、今の状況はスローライフとは程遠いんだけどな。




  ◆◆◆




 そんなこんなで翌日。


 奴隷商のアルジットが情報屋のオヤジの案内で来訪してきた。

 というか、情報屋のオヤジに家の場所を教えてないよな?


「へへっ、そこは情報屋の情報収集力をなめちゃいけませんぜ? クラタの旦那」


 まったく、食えないオヤジだぜ。


「ですが、私どもの方でも既にクラタさんの住居を把握していましたけどね」


 アルジットがサラッと怖い事を言ってくる。

 こいつも油断ならないな。


 さて、我が家のリビングのテーブルで俺、リグミナ、マナシエが席に着き、対面にアルジットが座る。その脇に護衛の男と情報屋のオヤジが控える。

 俺達の背後には、領主の名代として立ち会うアイニと自称愛人のミユが成り行きを見守っている中で、簡単にリグミナを妻だと紹介しておく。


「アタシはクラタんの愛人役にゃ!」


 ミユさん?

 役とか言っちゃダメだからな?


「私は領主の名代として、今回の契約に立ち会わせて頂きます」


 流石にアイニが同席している事に対して、アルジットは少し驚いていた。


「まさか、領主のご息女が立ち会うとは思いませんでした。クラタさん、やはり侮れない方ですね……」


 いやいや、勝手に警戒しないでくれないかな。

 ただの知り合いのお嬢さんだからね。


 しかし、この状況は流石に緊張するな。

 リグミナのやつ、ボロを出さなきゃいいけど。

 昨晩は夫婦の振りを何度練習したのか思い出せないぐらいだ。

 そんな俺の不安をよそに、アルジットがリグミナに鋭い眼光を向ける。



「失礼ですが、リグミナさんは本当にクラタさんの奥方ですか?」


 おい!?

 いきなり核心を突いてくるなよ!!


「お、おほほほほ、一体何をおっしゃるのだわ。わたくし、この人の妻でしてよ?」


 頭を抱えたくなった。

 いくらなんでも棒読み過ぎるだろ……。


「いや、失敬。あまりにもお美しい方ですから、もし妻を演じているだけでしたら、この後に食事でもどうかと思いましてね」


 これはバレてるなー。


「ちょっと、ソウジ! あまりにもお美しい方ですって!! アンタも少しは見習って、私を誉めなさいよ!!」


 もう完全にバレてるよなー。

 その場の全員が生暖かい目で見守ってくれているのが逆につらい。


「そ、そうだったにゃ! アタシは本当に愛人だからにゃ? そこのところをよろしくにゃ!」


 おい、ミユさんや。

 余計に話がこんがらがるから黙っててくれませんかね。


「ひひひ。クラタの旦那も両手に花で、お元気ですな。必要なら精力剤も融通しますぜ?」


 情報屋のオヤジも黙れよな。そういうのは本当に洒落にならないから。

 アイニの顔がどんどん険しくなってるし。


「ははは、楽しい『奥方』と『愛人』でいらっしゃる。それはそうと、ちゃんとマナシエの面倒を見てくれていたようですね。まるで、どこかのお嬢さんみたいで、すっかり見違えました」


 良かった、スルーしてくれたよー。

 アルジットが空気読んでくれるキャラで助かったわー。



「これで不埒な目的でマナシエを身請けする訳じゃないと、理解してくれましたかね? アルジットさん」


 マナシエに目を向けると緊張しているのか、強張った表情だ。

 そりゃ、アルジットの元から逃げ出してきたんだからな。

 普通の奴隷商相手だったら、問答無用で殺されてしまう可能性だってある。


「大丈夫よ。ソウジが任せろって言ってくれたでしょ?」


「は、はい……」


 リグミナがマナシエを抱き寄せ、優しく頭を撫でた。

 その姿は本物の親子にも見える。


「ふむ、奥方がマナシエを手放したくないとおっしゃるのは、嘘ではないようですね」


 二人の様子を見てアルジットが軽く目を見張った。

 そして、真面目な表情を俺に向ける。

 思わず居住まいを正してしまう。


「分かりました。クラタさん、あなた方にマナシエを託しましょう」


 難しい事はさておき、まずは円満解決の第一歩ってところかな。

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