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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
8/33

7


「ましろー、一緒に遊びに行こう?」



 放課後、絵麻から遊びに誘われた。


 昨日も、一昨日も、一昨昨日も遊びに誘われた。

 私はその度に全て誘いを断っている。


 本当は付き合わないといけないって分かっているけど、今月は金欠もいい金欠だった。


 遊びに行くのなら、当然お金を使わないといけない。二人が買い物をしている際、私は買わないで見ているだけならまだしも、夕食をファミレスなどで食べるといった場合、食べないという選択肢は勿論ないわけで。けれど私は、そのお金を出すのすら惜しい。


 夕食を食べるという行為も、私には苦痛でしかなかった。



「ごめん、今日も真っ直ぐ家に帰って来いって言われてるの」


「えー、今日も?」


「うん。テスト近いから親がうるさいくて……」


「まだまだ先なのにね」


「うん……」


「ましろの家って、本当厳しいよね」



 誤魔化すように笑うことしかできない。

 これ以上、嘘を重ねたら自分自身で管理出来なくなるから。


 私のこれらは、きっと隠し事の分類に入る。何かを守るための隠し事と、誰かを傷つける嘘があって、私は自分自身を守っているから、これは嘘ではなくて隠し事になる。でも二人からしたら嘘になるのだろう。


 もう気づかれてるのかもしれないけど、今更私がいつも金欠だとか、家族に嫌われているだとか、家に帰りたくないだとか、容姿だとか、こんな立場になってしまった以上言えない。本来の自分を出すことよりも、難しい問題すぎるから。



「今日はどこに遊びに行く予定なの?」


「知り合いの大学生とカラオケ!」


「二人とも上手だから盛り上がるね」


「いや、今日は多分聞き専」


「今日は沢山いるらしいからね」



 尚更断っておいてよかった。

 大人数だと抜け出したいときに抜け出せないから。


 それに、名前も顔も知らない相手と密室で何時間も一緒とか私には耐えられない。



「じゃあ、私たちそろそろ行くね」


「うん。またね」



 教室から出て行く二人に手を振り、視線は再び何も置かれていない机の上に。誰にも聞こえない程度で息を吐き、机の中から小説を取り出す。


 今日から読み始めた【独法師は形影相弔う】という小説は、冒頭からあまりにも重すぎる話だった。重いと言ってもまだ冒頭しか読めていないが、共感できる部分が沢山あった



 ──出口が全く見えない。どれだけもがいても、前へ進んでも、全く光が見えない。


 ここが一番共感できた。けれど私には、主人公と違って吐き出せる場所が少しはある。私に何も求めず笑いかけてくれる人もいる。


 私も独りだけど、主人公のように独りではない。そう考えれば、私はまだ幸せなのかもしれないけど、辛いのには変わりない。

 私が持っていて、今は手元に無いあの小説の登場人物もそう言っていた。



 ──辛いのは当然私だけじゃない。でも、私は辛い。それじゃダメなの? 私の話しなのに、他人と比べたり一緒にしないでほしい。


 この言葉を見た瞬間、喉がキュッと閉まって息の仕方を忘れるほど深く頷いて共感した。



 この部分じゃなくても沢山共感できた部分が私にはあったが、小説を貸したあの人は、あの小説を最後まで読んだのだろうか。もし最後まで読んでいたのなら、どう思っただろうか。


 いつも明るいあの人にはああいう感情だったり、独りだという自覚なんて生まれたこともないだろうから、きっと理解に苦しんだだろうし、不快にもなったと思う。


 でも、瞳の奥の黒い何かがたまに垣間見える時があるから、意外とあの人もこっち側なのかなって。きっと私の勘違いに過ぎないんだろうけど。



 小説を開き、栞を挟んでいるところの文ではなく、ページを戻ってある一文に視線を落とした


 ──幸せになりたくて生まれてきたのに。


 誰しもがそういう気持ちを抱いて生まれてきた。私もそうなんだろうけど、いまいちピンとこない。捨てられて、引き取られたけど、差別を受けている私は何のために生まれてきたのだろう。


 生れてきた意味が分かる時が、私にもいつかくるのだろうか?



「白石ー、今日も頼めるか?」



 突然声をかけられて驚くように小説から顔を上げると、教室から出て行こうとしている先生と目が合う。



「はい」


「教卓の上に置いてあるから」


「分かりました」



 返事をすれば教室から足早に出て行った先生を見送り、教室を見渡せば、いつしか教室には私一人になっていた。ようやくこの時間になった。今日も長かった。そう思うと全身の力が抜けるように背もたれに寄り掛かって溜め息をついた。


 最終下校時間にはなっていないから油断はできないけど、教室に一人という空間だけで私は幸せすぎた。たとえ誰かが来ても、作業に集中しているから口角を上げれなかったという口実が作れるし。


 椅子から立ち上がって教卓の上に置いてあるプリントをチラッと見てから、教卓の中にあるホッチキスと芯をプリントの上に乗せ、その横にあるもう一組のプリントをホッチキスの上に乗せた。



「今日は量が少ない……早く終わっちゃうじゃん」



 肩を落としながらそう呟いた後、プリントを持ってまた自分の席へと向かう。心の中で少ないことに対して文句を言いながらも、パチパチとひたすらホッチキス止めをしていく。



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