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Blue sky  作者: 立花くろは
第一章 夜陰
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 電車に揺られながら、窓の外の景色が次々と変わっていくのを今日もぼーっと眺めていた。

 

 この速さだと、飛び込んだ人がぐちゃぐちゃになるもの当然だ。未だかつて人身事故に遭遇したことはないけれど、毎日のように人身事故はどこかで起きている。そう思う度、私の最期はどういう感じになるんだろう? と。最期は本当に走馬灯が見えるのだろうか? と疑問に思ってしまう。


 電車に乗って、意味もなく一瞬で流れていく景色を見ては毎回のように同じことを考えてしまう私は、死にたがりではない。もう、ただの異常者。


 そんな私のことをよく知りもしないくせに敬う人たちが大勢いる。



「あ、ましろちゃんだ……」

 

「お前、挨拶してこいよ。ちーっすって」


「そんなの無理に決まってんだろ! 嫌われるって」


「大丈夫だよ。あっちはお前の名前すら知らねえから」



 後ろの方からボソボソと私のことを話す声が今日も聞こえてくる。


 今日も始まってしまった。

 私が望み、そして望まれた私を演じるのが。


 

 名前が聞こえたら、私は微笑んで声が聞こえた方に振り向かなければいけない。


 幼い頃から笑みを浮かべることはダメなことだと教え込まれていた私には、微笑むことが未だに難しいところがある。けれど作り上げてしまった偽りの自分を演じるためにも、私は髪を耳にかけながら微笑んで後ろを振り向いてあげた。


 私の価値は顔だけ。

 顔だけが私の武器で、好かれるところ。


 それを私はきちんと理解しているつもり。



「おはようございます」


「お、おはよう……!」


「あ、うっす……」



 数秒前まで自分は興味ないみたいな態度をしていた奴すら、緊張気味に挨拶を返す。彼と同じような奴らは沢山いて、そして彼のように結局は震え声で挨拶を返すその事実が可愛いなぁって思う。


 その反面、結局お前も顔なんだって軽蔑をする。



 ただ微笑みながら振り向いて、挨拶をするだけ。それだけだというのに、嬉しそうにする人たちが電車を降りれば増えていく。


 芸能人でもないただの一般人に、どうして敬うことが出来るのか不思議で仕方がない。私は若菜ちゃんと違って顔だけで、決して口には出せないことを常日頃から思っているような人間だというのに。



「いつ見てもましろちゃんは綺麗だよな」


「高嶺の花なんだから当たり前だろ」



 ──高嶺の花

  これが学校で呼ばれているあだ名。


 だから私は、家を出た瞬間から両親や妹と同じように感情を表に出してはいけなかった。

 

 元々容姿だけは褒められることが多かったから更に身だしなみを整え、私を見た時に不快感を与えることはないように努力をし続けてきた。そうすれば、高嶺の花という名前をもらうのは意外と簡単だった記憶がある。

 


 これで私も若菜ちゃんと同じようにみんなから人間扱いを、誰かが私を必要としてくれるんだって思っていたのに、私はもっと無価値な人間になっていた。


 私が誰かの中心にいたいがために始めた事だけど、すぐに劣等感を抱いてしまうような人間が彼女のようになれないことなど分かり切っていた。それを自覚する度、また一つ心が軋む音が聞こえて、負の感情に流されそうになる。


 

 ただ真似をすればいいだけなのに。

 簡単なことなのに、それが私には出来ない。


 そのもどかしさに、自嘲の笑みがこぼれる。



 彼女は自分の意見をきちんと言いながらも、自分の意見を無理に押し付けてはこない。何でも受け入れてしまうような人でもない。きちんと嫌なものは嫌だと言える勇気も持ち合わせていた。それでも嫌われないのは、彼女の人柄。


 そんな彼女とはあまりにも正反対だったが、今更築き上げてきた自分を変えることは出来ない。


 本来の自分を少しでも出したら、勝手に幻滅して離れていくに違いない。私を見る目がきっと変わってしまう。そう思うと頭に浮かんだ言いたいことをグッと飲み込むことの繰り返して生きづらさを毎日のように感じるけど、変に価値のある人間になるくらいなら、今の無価値な人間でいる方が楽ではあった。


 なにより、家にいる時よりもよっぽど息がしやすい。



 あとは〝彼〟の存在がなければ完璧なんだけど。


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